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今月のお気に入り(2016年3月)

今月はいつもより数を聴いた気がします(そしてなぜかEPサイズのものをやけに聴いた)。なのでこちらもいつもより多めに20枚選んでみました。

画像のサイズ大きめなものが特にヤバいって感じのやつです(画像が試聴サイトへのリンクになってます)。

ところどころ感想抜けてるのは後で個別に取り上げて書こうと思ってるから、というより単純に面倒だったからです。

 

 

・Else Marie Pade『Electronic Works 1958-1995』

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 電子音楽でしか描けない景色を見せてくれる電子音楽。ヤバいくらい最高。

 

 

 

・Yann Novak『We Love Our Parents, We Fear Snakes』

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Yann Novakは大好きなんですが近作あまりチェックできてなくて、これはNYPだったんで気軽に聴いてみたんですけど、久々にグッとくる内容でした。どれだけ音量上げても空間を包み込むように鳴ってる感じというか、曇った音像からどこまでもその中へ分け入っていけるような奥行きを感じられて、低域とか「ゴォォーーー」と出てる割に圧迫感なくて、しみじみと「あぁドローンっていいな」と。聴き終わるとなんだか優しい気持ちになれてる気もする。

 

 

 

・Lumisokea『Transmissions From Revarsavr』

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感想はこちら

 

 

 

・Kassel Jaeger / Class of 69『Kassel Jaeger / Class of 69 split』

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A面のKassel Jaegerの曲がいい。Coupignyシンセっていうのを使った即興セットって感じの曲なんだけど、じっくり盛り上がっていく展開とか、音の情報量多くなっても全然うるさく感じないどこまでも音量上げたくなるような音の質感とか好き。

 

 

 

・Kassel Jaeger / Stephan Mathieu / Akira Rabelais『Zauberberg』 

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Mobb DeepInfamous

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言わずと知れた90年代クラシックのひとつ。なんですがなぜかちゃんと聴いてなかったんですよねーこれ。まぁyoutubeとかで曲単位では聴いたりしてましたが。今更すぎますが本当にミニマルなループがハードボイルドな“美”すら感じさせるレベルで徹底されててかっこいい。シビれる。自分はヒップホップは好きな作品はそれなりにあるんですけど、(つまみ聴きレベルあまり詳しくはないんで説得力ないですが)正直なところアルバムの最初から最後まで飽きずに聴けるものって決して多くはないんですよね。ヒップホップのアルバムってスキットなどもあって曲数多くなりがちですし収録時間ギリギリまで詰め込まれてるものも珍しくありませんからね。で、これも16曲1時間超えなんですけど飽きないんですよ。なんでかはわかりませんけど。そんなに特別なことはしてないように思うんですけどね。客演の曲の配置とか、曲の長さとか、そういう細かい部分が影響してるのかな。

 

 

 

・Dan Weiss『Sixteen: Drummers Suite』

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・Thomas Tilly『Le Cébron / Statics And Sowers』

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凍った湖の上での氷の摩擦音や砕く音を使った環境音コンクレートなA面が素晴らしかった。

 

 

 

・Jana Winderen『The Wanderer』

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主にTouchから、ハイドロフォンを用いた水中生物のフィールドレコーディング作品を多く発表しているサウンドアーティストの新作。これも御多分に漏れずそんな感じの作風でまぁいつも通りっちゃあいつも通りなんだけど、聴いて素晴らしいと思っちゃったんだから仕方がない。1トラック30分っていう構成も集中して聴けていい。

 

 

 

・Drøp『Vasundhara Ep』

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感想はこちら

 

 

 

・Kerridge『Fatal Light Attraction』

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Esperanza Spalding『Emily’s D+Evolution』

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先行で公開されてた「Good Lava」のロックなギターに完全にノックアウトされてめっちゃ期待してた。全編通してスマートさは保ちながらもしっかり主張してくるマシュー・スティーヴンスのギターがすごく良くて、なんかこれ聴いて憧れるロックギタリストとか出てきそうだなと思った。ただ個人的には「Good Lava」みたいに歪ませた音で押してくる演奏がもっと聴きたかったかな。

 

 

 

・Kyoka『SH』

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・Mike Moreno『Between The Lines

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・Damaskin『Unseen Warfare』

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歪んだキックとディレイで荒っぽく飛ばした電子音で押し切るインダストリアル・テクノ。今年出た作品も聴いてみたけど2014年リリースのこれが一番好きだった。

 

 

 

・Cassius Select『Crook EP』

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 1曲目があまりにかっこよくて一発でやられてしまったんだけど、昨年結構話題になってた人みたいですね。全然知らなかった…。130Bassって呼ばれるジャンル(というよりサウンド?)みたいです。この辺の音には全然詳しくないので当てずっぽうですが、すごくイギリスっぽい音だなって印象と、音の響きの感じなんかは今年のBasic Rhythmのアルバムと通ずるような気がします。とにかく1曲目だけは絶対聴いてみてほしいです。

 

 

 

・Yves De Mey『Double Slit』

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2014年作。この人は今年出した『Drawn with Shadow Pens』も良かったけど、これはそちらと比べるとビートがしっかり前に出ててインダストリアルテクノやモジュラーテクノの文脈で聴ける感じ。持ち味のソリッドさ存分に出ててかっこいい。 

 

 

 

・Rabit & Dedekind Cut『R&D』

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インダストリアルとドラムンベースが交通事故起こしたみたいな音出ててびびった。

 

 

 

・Eliane Radigue『Geelriandre / Arthesis』

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エリアーヌ・ラディーグ好きすぎる… 

 

 

・Eliane Radigue『Feedback Works 1969-1970』

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本当に素晴らしいドローンでした。

 

 

 

Drøp『Vasundhara EP』

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いやーよかったけど物足りなかったですねーMステ、アンダーワールド、Born Slippy。

それとは関係は全然ないんですけど、最近テクノ的なのよく聴いてまして、個人的にバッチリなの見つけちゃいました。

インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノを中心にリリースしていくと思われるベルリンのレーベル“Arboretum”(同名のアート集団が立ち上げたものらしい)のカタログ1番。2014年作。

Drøpというアーティストについてはあまり情報が出てこなくて、個人のアーティスト名義なのか複数人によるユニットなのかすらわからないんですが、内容がすごく良かったのでとりあえず紹介しときます。

冒頭にも書いた通りというか、インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノで、本作にリミックストラックを提供、収録されていて、マスタリングにも関わっているDadubや、そのDadubも作品をリリースしているLucy主宰のレーベルStroboscopic Artefacts辺りにとても近い作風。

レーベル名にもなっている“Arboretum”は樹木園という意味らしいんですが、これ私がLucyのセカンド・アルバム『Churches Schools And Guns』を聴いて抱いていたイメージそのものなんですよね。個人的に『Churches~』は今まで聴いてきたテクノのアルバムで間違いなくトップクラスに好きなアルバムだったりするので、どおりでしっくりくるわけだなーと。レーベル名だけでなくこの『Vasundhara EP』も『Churches~』にかなり近い音だと思いますし(歪んだパッドの用い方とか、IDMグリッチ的な音使いがところどころあるとか)。ダンスっていうより舞踏って感じの雰囲気ある2曲目、ノイジーな音の洪水と強いビートがかっこいい3曲目とか最高だし、Dadubのリミックスも完璧な仕上がり。

紛れもないテクノなんですけど、音響的な創意工夫が随所に感じられるので本当にたまにしかクラブに行かない(行けない)私みたいな所謂リスニング派の需要にもバッチリ対応したものになっているので、そういう皆さんも是非って感じです。

レーベルの2番のMogano『Sycomore EP』も同系統な路線のテクノで、こちらに引けを取らない素晴らしさでしたし、レーベル内の別路線?のHanami SeriesとしてリリースされているØe『Unseed』もこの人らしい良質なアンビエント作で、本当にこの“Arboretum”要チェックですね。既に今年Honzo『Melancholia EP』っていう作品がレーベルの3番として出てるみたいですけど、日本にはまだ入って来てない?しbandcampにもまだアップされてない…まぁ楽しみに待ちます。

 

 

今月のお気に入り(2016年2月)

今月よく聴いてたものです。画像が試聴ページへのリンクになっています。

 

 

・The International Nothing『The Dark Side Of Success』

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感想はこちら

 

 

・Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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感想はこちら

 

 

トルネード竜巻『アラートボックス』

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いつの間にかほとんどの曲好きになってた。

 

 

トルネード竜巻『Analogman Fill in the Blanks』

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最初と最後の曲がズルいくらいい良い。トルネード竜巻は今年に入ってからハマりまくってて『ふれるときこえ』『アラートボックス』そしてこの『Analogman Fill in the Blanks』と、それぞれ結構聴き込んでるけどどれも甲乙付けがたい素晴らしさ。これはインディーズ時代の作品らしいリラックスした雰囲気があって晴れた日に散歩しながら聴くと特に最高(いや、でも散歩しながら聴く『ふれるときこえ』も『アラートボックス』も、それはそれで最高)

 

 

・Michael Pisaro『A Wave And Waves

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・minimascape『shallows』

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神奈川のHiroshi Ishidaさんの作品。基本的にはギターメインのアンビエントなんだけど、コンセプトのおかげなのか何なのかとてもフレッシュに聴こえた。一曲目から2曲目に移り変わる瞬間とか素晴らしい。最初に聴いた時がちょうど日が射してる時間帯で、なんとなく再生したつもりがめちゃくちゃ惹きこまれてしまった。是非そういう環境で聴いてみてほしい。暖かくなったら近くの海に行って聴こう。それが楽しみ。name your price。

 

 

・Mike Moreno『Lotus』

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Kendrick Scott Oracleでの演奏が良かったので去年のリーダー作に手を伸ばしてみたんだけど、これが素晴らしかった。とにかくいい曲ばかり入ってる。すごく時間かけて校正を繰り返した曲を一音一音確かめるように弾いているようにも、なんとなく思いついたスケッチ程度のものをラフに演奏して録っただけにも聴こえるっていう、さりげないようでいてその実ここしかないような絶妙なバランスで成り立っている音楽。あと全体通してエリック・ハーランドのドラムが素晴らしい。どうやら彼は最近(といってもいつぐらいからかはわからないけど…)スタイルがクリス・デイヴ化してきてるらしく、まぁたしかにそう言われればそう聴こえるなぁって感じなんだけど、それがここでは音楽全体の中での強力なフックになってて耳を惹きまくり。それがフォークっぽいメロディーと合わさって、グルーヴ・ミュージックとしても聴けるんだけどそれほど“黒さ”を感じさせない、なかなかない聴き心地の作品になってると思います。

 

 

Basic Rhythm『Raw Trax』

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Imaginary Focesとしても活動してる人の別名義。まるでMIX CD聴いてるみたいなひと繋がりに聴ける感じがあってかなりリピートして聴いてた。しかしよくこの名前で活動しようと思ったなぁ。

 

 

・Yves De Mey『Drawn with Shadow Pens』

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感想はこちら。シンセによる演奏“行為”であることの不可逆性やそれによって生まれるヒリヒリとした緊張感、そこから時折浮かび上がってくる衝動的(パンク的)な種類のかっこよさはトーマス・アンカーシュミットと共通するなぁとも思った。つまり大好物。

 

 

・Lee Fraser『Dark Chamber』

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・Bellows『Handcut』

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Giuseppe IelasiNicola Rattiによるユニットの2nd。制作に用いられた手法はこちらに書いてある通りなんだけど、そのやり方でこんなにアンビエントっぽくなるかってくらいアンビエント的な音で、そこがめちゃくちゃ気に入った。

 

 

Inventing Masks『Inventing Masks』

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Giuseppe Ielasiがまさか別名義で自己流ヒップホップ的な音源をリリース。試聴で出てた1曲目がめちゃくちゃかっこよくて期待値爆上げになってた分、聴いてみたらやっぱ1曲目が一番かっこいいかなってところがほんの少しだけ残念ではあったんだけど、いやでも十分すぎるくらいにかっこいい。よくよく聴いてみると音使いなんかは物音ループな作風からしっかり地続きになってる部分も感じられるし、情報入った時の衝撃に惑わされず冷静になるとそこまで突然変異的な作品でもないのかなと思う。しかしこの人は本当に凄いですね。12Kでのアンビエント/ドローン的なリリースで知って以来、Senufoやらマスタリング仕事の多彩さやら今作やらと、そのセンスは常にリスナーの私から見ると2歩も3歩も先を行ってるなって感じで、こちらの感性、嗜好を思いがけない方向に引っ張ってくれるある意味理想的なアーティストと言えるかも。

 

 

Nine Inch Nails『Fragile』

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・Michael Formanek & Ensemble Kolossus『The Distance』

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感想はこちら。あらゆる面でバランスのとれた傑作だと思います。

 

 

The RH Factor『Hard Groove』

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ジャズ系の音をグルーヴ・ミュージックとして聴くってことがあまり得意ではなかったんだけど、 Mike Moreno『Lotus』を聴いてて今なら楽しめるかもと思って聴いてみたら見事にハマった。「Poetry」は反則モノの名曲。

 

 

 

Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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このブログでは何度か取り上げている通り、2014年に知ってからハマりっぱなしの音楽家トーマス・アンカーシュミットと、説明不要なジム・オルークとのスプリット盤。マスタリングは出ましたRashad Becker。2005年、Tochnit Alephから。(よく知らないレーベルでしたが調べてみたらHeckerのライブを収めたカセットやらThe HatersのCDrやらRolf Juliusの再発LPやら出しててなかなかのヤバさ…)

“寡作のトーマス・アンカーシュミットが2005年にどういう音を出していたのか”が本作に手を伸ばした主な理由で、次作に当たる2010年の『Live In Uterecht』とは結構違うんじゃないかなんて推測しながら聴いてみたんですが、蓋を開けてみたらやってることは同じでした(なにやってるかはこちらに書いてるんで参考に)。で、それでがっかりしたかというとそうでもなくて、むしろモジュラーシンセで身体的な演奏行為を行うということをこの時点で、これだけエッジーなかたちでやってたんだって驚かされました。

後の『Live In Utrecht』や『Figueroa Terrace』と比べるとより衝動的な印象で、終盤のサックスのロングトーンの多重録音とシンセのノイズが重層的なドローンを形成する場面なんか相当にエグいものがあります。低域がカットされたような音質というか音作りも相まって結構耳に痛いキツい響きになるところもあるんですけど、それもエッジーでかっこいいって印象に転じてる感あってまったく問題じゃないですね。やっぱこの人最高です。

もう一方のジム・オルークの曲はというとタイトル通りのオシレーターとギターによるドローンなんですがこれがまた凄い。オルークのドローン作品といえば『Disengage』『Remove The Need』『みず の ない うみ』など傑作がいくつもありますが、これはそれらに比べて実験音楽というよりアヴァンロック的な佇まいが強く感じられるもので、オシレーターによるドローンの倍音比率の変化に伴ううねりと延々となり続ける数本の歪んだギター(ニュアンス的にはプリペアドだったりE-BOWだったりによってノイズや持続音を出すタイプの演奏より歪ませた状態でストロークし続けるような演奏に近いように聴こえますが、具体的にどう弾いているのかはわからない…)が重なってスケールの大きいサイケデリックで快楽的な響きが生まれてます。微細な音の変化に耳を澄ますというよりは(もちろんそういう聴き方もできますが)、その圧倒的な鳴りにただただ飲み込まれるような感覚。もしかしたらオルークの作品でこれが一番好きかも。歪んだギターの響きがそう思わせるんでしょうけどなによりロックでかっこいい。

ってことで両面ともにとにかくかっこいい音の入ったレコード。傑作です。なかなか普通に売ってるところはないと思いますがDiscogsのマーケットプレイスにはいくつも出品されてて結構安く買えます。

それとちょっとした余談ですが、私がThomas Ankersmitの存在を知った2014年の『Figueroa Terrace』発売時、この人の名前を検索しても日本語では僅かな情報しかない状況だったんですが、そんな中でShotahiramaさんの『物質的恍惚』では2013年の8月にこの盤が取り上げられてるんですよね。リスナーとしての感度も凄いなあこの人。ちなみにそのShotahiramaさんがThomas Ankersmitを知ったのはFtarriの鈴木美幸さん編集の『Improvised Music From Japan』の06年のベルリン・インタビューズ特集の号だそうで、なんだかいろいろ繋がるなぁ。あーまたFtarri行きたくなってきた。

 

youtu.be

 

 

Matt Mitchell『Vista Accumulation』

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Matt Mitchell(p), Chris Speed(ts,cl), Chris Tordini(b), Dan Weiss(ds)

 

Tim Berne's Snakeoil や、昨年の Rudresh Mahanthappa『Bird Calls』などへ参加、ここ数年のニューヨーク・シーンで存在感を着実に増してきているピアニスト、マット・ミッチェルのリーダーとしては二作目になるアルバム。2015年10月にリリース。2枚組でそれぞれに4曲が収録された全8曲、トータルタイム96分。

2013年リリースの1作目『Fiction』はドラムとのデュオで、ピアニストのデビュー作としてはなかなか珍しいんじゃないかと思われる編成でしたが、 今作はオーソドックスなワンホーンカルテット。しかしながらそこから奏でられる音楽が、やや通常とは異なったバランスや魅力を持ったもののように感じられたので、今回はそれを言葉にしてみたいと思います。

演奏は基本的には作曲されたパートで始まり即興およびソロのパートへ移り、それらを何度か行き来した後、作曲パートで終了という流れが多く、それ自体は別段風変わりなものでもないと思うんですが、一聴した印象がそうとは思えないほど複雑さというか先行きの見通せなさ、迷路にでも迷い込んだような感覚を覚えさせるものでした。

で、何度か聴いていて気付いたんですがこのアルバム中の作曲パート、サックス(およびクラリネット)とピアノの右手(高音部)、ベースとピアノの左手(低音部)がユニゾンで動いていることがとても多いんですよね。前述した通りこの人の前作はドラムとのデュオで、今作はそこにふたつ楽器を足していることになるので普通は声部を増やしたりすると思うんですが…。なのでここでのサックスとベースは声部より音色の拡張として機能している面が大きいんじゃないかと思います(そう捉えると音色に特長のあるクリス・スピード、クリス・トルディーニといった人選も非常に的を得たもののように思えてきます)。ある意味構造上はドラムとのデュオといってもいいのではないかと。聴覚上は楽器が増えることによって音色などが複雑化してるんですぐにそうは聴こえなかったりするんですが…。ただ作曲されたパートに限ればピアノ、サックス、ベースをひと塊りと捉えて、それとドラムの絡みを意識して聴いたほうが音楽の全体像がスムーズに頭に入ってくることは確かです(故にその部分では比較的自由に振る舞えるダン・ワイスのビートを変えたりズラしたりしながらのドラム演奏がとても面白いです)。ワンホーンカルテットという編成をこういう風に使うのは結構珍しいんじゃないかと思うんですがどうでしょう。

またその作曲パートの内容(という言い方でいいんでしょうか…)についても、調性感が希薄だったり、旋律の切れ目が捉えにくかったりするものが多く、そこに時折前作でよく用いられていた武骨なリフの反復が挟まれたりと複雑で、この辺りも先行きの見えなさ、迷路っぽさを感じさせる一因になってるのかなと。フリーな即興パートよりも作曲されたパートのほうが足下覚束ない感じがするくらいです。思えばアルバム1曲目、3分を超える作曲パートの後、普通ならサックスのソロとかがきそうなところでベースソロ(というよりベースとドラムのデュオ?)がくる時点で、この演奏は通常とはやや異なったバランスで成り立っていることが明示されているようにも感じられたり。作曲と即興の境がわかりにくい箇所もありますし、特に即興と行き来するかたちで現れる作曲パートに同じものが再現部として出てくることがない1,3,5曲目辺りはゴツゴツとした曲想や急に勾配が変わるような展開も合わさって方向感覚だけでなく平衡感覚までも見失いそうになる感じがします。

まぁ簡単にまとめておくと、ワンホーンカルテットというフォーマットに前作でのドラムとのデュオという編成の特異点をうまく持ち込むことで一風変わったバランスの演奏を実現した作品ってことが言えるのかなと思います。

ラストの「The Damaged Center」がそれまでと比べるとわかりやすいフリージャズ的なのはサービス精神というか、アンコール的な位置づけの演奏なのかな。

作曲パートについての話ばかりになってしまいましたが、即興のパートでも、冒頭のクリス・トルディーニのソロからそうなんですが、ずっといい緊張感が持続していて4人とも冴えまくり、それが何度も書いてるような迷路っぽさを感じさせる作曲部とそれらを時に強引に時にグラデーショナルに行き来する展開によってさらに緊張感やら音楽全体が醸し出す危険さが相乗的に高まっていって全曲通して聴いてると3曲目とか5曲目(Disc 2の1曲目)辺りで毎回「うゎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」ってなってこれはもう“マジックが起きている”とすら形容したくなるレベルです最高最高最高最高……!!!!本当にすごい“カルテット”が出てきたものだなぁ。。。できれば昨年のうちにこの凄さに気付いておきたかった…。