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Sergio Krakowski『Pássaros : The Foundation Of The Island』

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Sergio Krakowksi (pandeiro), Todd Neufeld (g), Vitor Goncalves (p)

 

David Binneyのアルバムなどにも参加しているパンデイロ奏者セルジオ・クラコウスキのおそらくデビュー作(?)となるアルバム。リリースはNY在住のピアニスト蓮見令麻が主宰するRuweh Recordsから。

収録時間は6曲トータルで40分と短めなのですが、曲間が切れ目なく演奏されることや、最初と最後の曲が同じモチーフを持ったアルバム全体のイントロ、アウトロ的な曲になっていることから通して聴くことを推奨しているのかなと思います。

演奏の内容としてはラテンジャズ的であったり、ショーロを題材としたような曲などメンバーの出自を生かした南米音楽のフレイバーが強いものから、隙間の多い寡黙で即興の色合いの強いパートまで幅があるのですが、構成がいいからなのかそのギャップを感じさせず、全体通して潮の満ち引きや日の昇降など風景の移り変わりを連想させるような自然な聴き心地があります。この点については特にピアノのヴィトー・ゴンザルベスのタッチの変化による音量、音色のコントロールが大きく貢献しているようにも思います。

ギターのトッド・ニューフェルドも曲調に合わせて幅のある演奏をしているのですが、この人は(なかなか形容する言葉が思い浮かびませんが)とにかく音色が個性的で、音色自体が似ているわけでは全くないのですがどこかLoren Connorsを連想するようなブルース性が音の底のほうに重く息づいていて、特に寡黙な旋律を紡ぐような演奏をする場面ではそれが強く感じられるような気がします。彼の音が放つそのブルース性(憂いと言い替えたほうがいいかもしれません)は、クラコウスキ、ゴンザルベスの音と演奏を通してこちらに感情を伝えるという意味では通ずる反面やはり種類が違うもののようにも感じられ、そのことによる三者の音の微妙な混ざらなさやアンバランスさがこの音楽を特別なものにしているように思います。(クラコウスキとゴンザルベスのデュオだったらもっと凡庸に聴こえていたでしょう…)

で、肝心のというかリーダーであるクラコウスキのパンデイロ演奏についてなのですが、なかなか普段聴く機会のない楽器ですし、私もこういった小編成でその音に焦点を合わせるようなかたちで耳にしたのは今作が初めてといっていいくらいで、この人の演奏がたとえば特別風変わりなものなのかどうかとか、一般的な(?)パンデイロの演奏と比較するかたちで個性を聴きとるようなことがほぼできないのですが、 本作を聴き込むことやyoutubeでの基本的な奏法解説などを見ることで少しずつ面白さを見いだせつつあります。特に動画でパンデイロ演奏における身体の“動き”の部分を見たのが大きかったですね。どんな楽器でもそうですが、演奏における身体の動きは専門的な知識のない人間にとっては出音の成り立ちやテクスチャーを聴きとるうえでなによりのヒントになりますし、特にパンデイロという楽器は演奏中の動きが単純におもしろくて、

革や淵を叩く右手の踊るような、というか “演奏すること自体が同時に踊ることとして成立してしまっている” ような動きは非常に目を引きますし、このアルバムを聴く際にもそれを頭に思い浮かべながら聴くだけでもの凄くこの演奏の核心の部分に近づけるような気がします。

2曲目の徐々に熱を帯びていくラテンジャズ的な演奏の中で、加速度的に音を密にしていくパンデイロの打音はそのままダンスの小刻みなステップを連想させますし、それを通じて体温の上昇や原始的な(涙の出るような)喜びを伝えてくれます。

音楽の身体表現としての側面を強く反映し、発展してきたであろうパンデイロという楽器の演奏において、こういった身体感覚の伝わりやそれによる感情の共有はその旨みの最たる部分であるように思いますし、それを損なうことなく伝えてくれるこの音楽もまた素晴らしいものであると思います。

 

パンデイロの革に右手の影が映ったジャケットも良いですね。この影が例えば人影のように見えたらスクリーン上で踊るダンサーみたいな比喩だったり、それがこの音楽の本質を表してるみたいなことも言えたのですが、残念ながら手にしか見えません(笑)

 

www.youtube.com

 

 

今月のお気に入り(2016年3月)

今月はいつもより数を聴いた気がします(そしてなぜかEPサイズのものをやけに聴いた)。なのでこちらもいつもより多めに20枚選んでみました。

画像のサイズ大きめなものが特にヤバいって感じのやつです(画像が試聴サイトへのリンクになってます)。

ところどころ感想抜けてるのは後で個別に取り上げて書こうと思ってるから、というより単純に面倒だったからです。

 

 

・Else Marie Pade『Electronic Works 1958-1995』

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 電子音楽でしか描けない景色を見せてくれる電子音楽。ヤバいくらい最高。

 

 

 

・Yann Novak『We Love Our Parents, We Fear Snakes』

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Yann Novakは大好きなんですが近作あまりチェックできてなくて、これはNYPだったんで気軽に聴いてみたんですけど、久々にグッとくる内容でした。どれだけ音量上げても空間を包み込むように鳴ってる感じというか、曇った音像からどこまでもその中へ分け入っていけるような奥行きを感じられて、低域とか「ゴォォーーー」と出てる割に圧迫感なくて、しみじみと「あぁドローンっていいな」と。聴き終わるとなんだか優しい気持ちになれてる気もする。

 

 

 

・Lumisokea『Transmissions From Revarsavr』

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感想はこちら

 

 

 

・Kassel Jaeger / Class of 69『Kassel Jaeger / Class of 69 split』

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A面のKassel Jaegerの曲がいい。Coupignyシンセっていうのを使った即興セットって感じの曲なんだけど、じっくり盛り上がっていく展開とか、音の情報量多くなっても全然うるさく感じないどこまでも音量上げたくなるような音の質感とか好き。

 

 

 

・Kassel Jaeger / Stephan Mathieu / Akira Rabelais『Zauberberg』 

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Mobb DeepInfamous

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言わずと知れた90年代クラシックのひとつ。なんですがなぜかちゃんと聴いてなかったんですよねーこれ。まぁyoutubeとかで曲単位では聴いたりしてましたが。今更すぎますが本当にミニマルなループがハードボイルドな“美”すら感じさせるレベルで徹底されててかっこいい。シビれる。自分はヒップホップは好きな作品はそれなりにあるんですけど、(つまみ聴きレベルあまり詳しくはないんで説得力ないですが)正直なところアルバムの最初から最後まで飽きずに聴けるものって決して多くはないんですよね。ヒップホップのアルバムってスキットなどもあって曲数多くなりがちですし収録時間ギリギリまで詰め込まれてるものも珍しくありませんからね。で、これも16曲1時間超えなんですけど飽きないんですよ。なんでかはわかりませんけど。そんなに特別なことはしてないように思うんですけどね。客演の曲の配置とか、曲の長さとか、そういう細かい部分が影響してるのかな。

 

 

 

・Dan Weiss『Sixteen: Drummers Suite』

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・Thomas Tilly『Le Cébron / Statics And Sowers』

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凍った湖の上での氷の摩擦音や砕く音を使った環境音コンクレートなA面が素晴らしかった。

 

 

 

・Jana Winderen『The Wanderer』

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主にTouchから、ハイドロフォンを用いた水中生物のフィールドレコーディング作品を多く発表しているサウンドアーティストの新作。これも御多分に漏れずそんな感じの作風でまぁいつも通りっちゃあいつも通りなんだけど、聴いて素晴らしいと思っちゃったんだから仕方がない。1トラック30分っていう構成も集中して聴けていい。

 

 

 

・Drøp『Vasundhara Ep』

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感想はこちら

 

 

 

・Kerridge『Fatal Light Attraction』

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Esperanza Spalding『Emily’s D+Evolution』

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先行で公開されてた「Good Lava」のロックなギターに完全にノックアウトされてめっちゃ期待してた。全編通してスマートさは保ちながらもしっかり主張してくるマシュー・スティーヴンスのギターがすごく良くて、なんかこれ聴いて憧れるロックギタリストとか出てきそうだなと思った。ただ個人的には「Good Lava」みたいに歪ませた音で押してくる演奏がもっと聴きたかったかな。

 

 

 

・Kyoka『SH』

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・Mike Moreno『Between The Lines

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・Damaskin『Unseen Warfare』

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歪んだキックとディレイで荒っぽく飛ばした電子音で押し切るインダストリアル・テクノ。今年出た作品も聴いてみたけど2014年リリースのこれが一番好きだった。

 

 

 

・Cassius Select『Crook EP』

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 1曲目があまりにかっこよくて一発でやられてしまったんだけど、昨年結構話題になってた人みたいですね。全然知らなかった…。130Bassって呼ばれるジャンル(というよりサウンド?)みたいです。この辺の音には全然詳しくないので当てずっぽうですが、すごくイギリスっぽい音だなって印象と、音の響きの感じなんかは今年のBasic Rhythmのアルバムと通ずるような気がします。とにかく1曲目だけは絶対聴いてみてほしいです。

 

 

 

・Yves De Mey『Double Slit』

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2014年作。この人は今年出した『Drawn with Shadow Pens』も良かったけど、これはそちらと比べるとビートがしっかり前に出ててインダストリアルテクノやモジュラーテクノの文脈で聴ける感じ。持ち味のソリッドさ存分に出ててかっこいい。 

 

 

 

・Rabit & Dedekind Cut『R&D』

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インダストリアルとドラムンベースが交通事故起こしたみたいな音出ててびびった。

 

 

 

・Eliane Radigue『Geelriandre / Arthesis』

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エリアーヌ・ラディーグ好きすぎる… 

 

 

・Eliane Radigue『Feedback Works 1969-1970』

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本当に素晴らしいドローンでした。

 

 

 

Drøp『Vasundhara EP』

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いやーよかったけど物足りなかったですねーMステ、アンダーワールド、Born Slippy。

それとは関係は全然ないんですけど、最近テクノ的なのよく聴いてまして、個人的にバッチリなの見つけちゃいました。

インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノを中心にリリースしていくと思われるベルリンのレーベル“Arboretum”(同名のアート集団が立ち上げたものらしい)のカタログ1番。2014年作。

Drøpというアーティストについてはあまり情報が出てこなくて、個人のアーティスト名義なのか複数人によるユニットなのかすらわからないんですが、内容がすごく良かったのでとりあえず紹介しときます。

冒頭にも書いた通りというか、インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノで、本作にリミックストラックを提供、収録されていて、マスタリングにも関わっているDadubや、そのDadubも作品をリリースしているLucy主宰のレーベルStroboscopic Artefacts辺りにとても近い作風。

レーベル名にもなっている“Arboretum”は樹木園という意味らしいんですが、これ私がLucyのセカンド・アルバム『Churches Schools And Guns』を聴いて抱いていたイメージそのものなんですよね。個人的に『Churches~』は今まで聴いてきたテクノのアルバムで間違いなくトップクラスに好きなアルバムだったりするので、どおりでしっくりくるわけだなーと。レーベル名だけでなくこの『Vasundhara EP』も『Churches~』にかなり近い音だと思いますし(歪んだパッドの用い方とか、IDMグリッチ的な音使いがところどころあるとか)。ダンスっていうより舞踏って感じの雰囲気ある2曲目、ノイジーな音の洪水と強いビートがかっこいい3曲目とか最高だし、Dadubのリミックスも完璧な仕上がり。

紛れもないテクノなんですけど、音響的な創意工夫が随所に感じられるので本当にたまにしかクラブに行かない(行けない)私みたいな所謂リスニング派の需要にもバッチリ対応したものになっているので、そういう皆さんも是非って感じです。

レーベルの2番のMogano『Sycomore EP』も同系統な路線のテクノで、こちらに引けを取らない素晴らしさでしたし、レーベル内の別路線?のHanami SeriesとしてリリースされているØe『Unseed』もこの人らしい良質なアンビエント作で、本当にこの“Arboretum”要チェックですね。既に今年Honzo『Melancholia EP』っていう作品がレーベルの3番として出てるみたいですけど、日本にはまだ入って来てない?しbandcampにもまだアップされてない…まぁ楽しみに待ちます。

 

 

今月のお気に入り(2016年2月)

今月よく聴いてたものです。画像が試聴ページへのリンクになっています。

 

 

・The International Nothing『The Dark Side Of Success』

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感想はこちら

 

 

・Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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感想はこちら

 

 

トルネード竜巻『アラートボックス』

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いつの間にかほとんどの曲好きになってた。

 

 

トルネード竜巻『Analogman Fill in the Blanks』

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最初と最後の曲がズルいくらいい良い。トルネード竜巻は今年に入ってからハマりまくってて『ふれるときこえ』『アラートボックス』そしてこの『Analogman Fill in the Blanks』と、それぞれ結構聴き込んでるけどどれも甲乙付けがたい素晴らしさ。これはインディーズ時代の作品らしいリラックスした雰囲気があって晴れた日に散歩しながら聴くと特に最高(いや、でも散歩しながら聴く『ふれるときこえ』も『アラートボックス』も、それはそれで最高)

 

 

・Michael Pisaro『A Wave And Waves

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・minimascape『shallows』

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神奈川のHiroshi Ishidaさんの作品。基本的にはギターメインのアンビエントなんだけど、コンセプトのおかげなのか何なのかとてもフレッシュに聴こえた。一曲目から2曲目に移り変わる瞬間とか素晴らしい。最初に聴いた時がちょうど日が射してる時間帯で、なんとなく再生したつもりがめちゃくちゃ惹きこまれてしまった。是非そういう環境で聴いてみてほしい。暖かくなったら近くの海に行って聴こう。それが楽しみ。name your price。

 

 

・Mike Moreno『Lotus』

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Kendrick Scott Oracleでの演奏が良かったので去年のリーダー作に手を伸ばしてみたんだけど、これが素晴らしかった。とにかくいい曲ばかり入ってる。すごく時間かけて校正を繰り返した曲を一音一音確かめるように弾いているようにも、なんとなく思いついたスケッチ程度のものをラフに演奏して録っただけにも聴こえるっていう、さりげないようでいてその実ここしかないような絶妙なバランスで成り立っている音楽。あと全体通してエリック・ハーランドのドラムが素晴らしい。どうやら彼は最近(といってもいつぐらいからかはわからないけど…)スタイルがクリス・デイヴ化してきてるらしく、まぁたしかにそう言われればそう聴こえるなぁって感じなんだけど、それがここでは音楽全体の中での強力なフックになってて耳を惹きまくり。それがフォークっぽいメロディーと合わさって、グルーヴ・ミュージックとしても聴けるんだけどそれほど“黒さ”を感じさせない、なかなかない聴き心地の作品になってると思います。

 

 

Basic Rhythm『Raw Trax』

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Imaginary Focesとしても活動してる人の別名義。まるでMIX CD聴いてるみたいなひと繋がりに聴ける感じがあってかなりリピートして聴いてた。しかしよくこの名前で活動しようと思ったなぁ。

 

 

・Yves De Mey『Drawn with Shadow Pens』

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感想はこちら。シンセによる演奏“行為”であることの不可逆性やそれによって生まれるヒリヒリとした緊張感、そこから時折浮かび上がってくる衝動的(パンク的)な種類のかっこよさはトーマス・アンカーシュミットと共通するなぁとも思った。つまり大好物。

 

 

・Lee Fraser『Dark Chamber』

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・Bellows『Handcut』

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Giuseppe IelasiNicola Rattiによるユニットの2nd。制作に用いられた手法はこちらに書いてある通りなんだけど、そのやり方でこんなにアンビエントっぽくなるかってくらいアンビエント的な音で、そこがめちゃくちゃ気に入った。

 

 

Inventing Masks『Inventing Masks』

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Giuseppe Ielasiがまさか別名義で自己流ヒップホップ的な音源をリリース。試聴で出てた1曲目がめちゃくちゃかっこよくて期待値爆上げになってた分、聴いてみたらやっぱ1曲目が一番かっこいいかなってところがほんの少しだけ残念ではあったんだけど、いやでも十分すぎるくらいにかっこいい。よくよく聴いてみると音使いなんかは物音ループな作風からしっかり地続きになってる部分も感じられるし、情報入った時の衝撃に惑わされず冷静になるとそこまで突然変異的な作品でもないのかなと思う。しかしこの人は本当に凄いですね。12Kでのアンビエント/ドローン的なリリースで知って以来、Senufoやらマスタリング仕事の多彩さやら今作やらと、そのセンスは常にリスナーの私から見ると2歩も3歩も先を行ってるなって感じで、こちらの感性、嗜好を思いがけない方向に引っ張ってくれるある意味理想的なアーティストと言えるかも。

 

 

Nine Inch Nails『Fragile』

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・Michael Formanek & Ensemble Kolossus『The Distance』

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感想はこちら。あらゆる面でバランスのとれた傑作だと思います。

 

 

The RH Factor『Hard Groove』

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ジャズ系の音をグルーヴ・ミュージックとして聴くってことがあまり得意ではなかったんだけど、 Mike Moreno『Lotus』を聴いてて今なら楽しめるかもと思って聴いてみたら見事にハマった。「Poetry」は反則モノの名曲。

 

 

 

Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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このブログでは何度か取り上げている通り、2014年に知ってからハマりっぱなしの音楽家トーマス・アンカーシュミットと、説明不要なジム・オルークとのスプリット盤。マスタリングは出ましたRashad Becker。2005年、Tochnit Alephから。(よく知らないレーベルでしたが調べてみたらHeckerのライブを収めたカセットやらThe HatersのCDrやらRolf Juliusの再発LPやら出しててなかなかのヤバさ…)

“寡作のトーマス・アンカーシュミットが2005年にどういう音を出していたのか”が本作に手を伸ばした主な理由で、次作に当たる2010年の『Live In Uterecht』とは結構違うんじゃないかなんて推測しながら聴いてみたんですが、蓋を開けてみたらやってることは同じでした(なにやってるかはこちらに書いてるんで参考に)。で、それでがっかりしたかというとそうでもなくて、むしろモジュラーシンセで身体的な演奏行為を行うということをこの時点で、これだけエッジーなかたちでやってたんだって驚かされました。

後の『Live In Utrecht』や『Figueroa Terrace』と比べるとより衝動的な印象で、終盤のサックスのロングトーンの多重録音とシンセのノイズが重層的なドローンを形成する場面なんか相当にエグいものがあります。低域がカットされたような音質というか音作りも相まって結構耳に痛いキツい響きになるところもあるんですけど、それもエッジーでかっこいいって印象に転じてる感あってまったく問題じゃないですね。やっぱこの人最高です。

もう一方のジム・オルークの曲はというとタイトル通りのオシレーターとギターによるドローンなんですがこれがまた凄い。オルークのドローン作品といえば『Disengage』『Remove The Need』『みず の ない うみ』など傑作がいくつもありますが、これはそれらに比べて実験音楽というよりアヴァンロック的な佇まいが強く感じられるもので、オシレーターによるドローンの倍音比率の変化に伴ううねりと延々となり続ける数本の歪んだギター(ニュアンス的にはプリペアドだったりE-BOWだったりによってノイズや持続音を出すタイプの演奏より歪ませた状態でストロークし続けるような演奏に近いように聴こえますが、具体的にどう弾いているのかはわからない…)が重なってスケールの大きいサイケデリックで快楽的な響きが生まれてます。微細な音の変化に耳を澄ますというよりは(もちろんそういう聴き方もできますが)、その圧倒的な鳴りにただただ飲み込まれるような感覚。もしかしたらオルークの作品でこれが一番好きかも。歪んだギターの響きがそう思わせるんでしょうけどなによりロックでかっこいい。

ってことで両面ともにとにかくかっこいい音の入ったレコード。傑作です。なかなか普通に売ってるところはないと思いますがDiscogsのマーケットプレイスにはいくつも出品されてて結構安く買えます。

それとちょっとした余談ですが、私がThomas Ankersmitの存在を知った2014年の『Figueroa Terrace』発売時、この人の名前を検索しても日本語では僅かな情報しかない状況だったんですが、そんな中でShotahiramaさんの『物質的恍惚』では2013年の8月にこの盤が取り上げられてるんですよね。リスナーとしての感度も凄いなあこの人。ちなみにそのShotahiramaさんがThomas Ankersmitを知ったのはFtarriの鈴木美幸さん編集の『Improvised Music From Japan』の06年のベルリン・インタビューズ特集の号だそうで、なんだかいろいろ繋がるなぁ。あーまたFtarri行きたくなってきた。

 

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