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Thomas Ankersmit 『Live In Utrecht』

 

 

Live in Utrecht

Live in Utrecht

 

 

2014年、サージ・モジュラーシンセを用いた即興作品『Figueroa Terrace』(

2014上半期ベスト - Listening Logにも選出しました。

)で話題となったトーマス・アンカーシュミット。今回紹介するのはその初のソロ作品であり、前作にあたるアルバム『Live In Utrecht』です。

 

この作品は2010年発表で、『Figueroa Terrace』の間には4年の歳月が跨ってるわけですが、聴いてみて驚くのは、サージ・モジュラーシンセを用いて(本作ではサックスも用いられていますが)『Figueroa Terrace』で表現されるものが、この時点でほぼ完成しているということです。(収録時間、全体の構成、展開の仕方はほぼ同じといっていいでしょう。)

 

しかしもちろん両作には確かな相違点も存在していて、それが先にも述べたサックスの使用、そしてその用法です。

 

『Live In Ultrecht』で用いられているサックスとシンセにて即興を行う場合、素人ながらにもっとも安易に思いつくのはシンセのシーケンス(およびドローン)の上にサックスのフレージングを即興で重ねるパターンだと思いますが、本作では両者の役割は逆転し、サックスの音はロングトーンの連なりによりドローン化し(この用法は彼がフィル・ニブロックのお抱えミュージシャンとしての一面を旺盛に明示してくれているように感じられます)、シンセ音は”演奏”行為が持つ身体性を体現するがごとく瑞々しく弾け、動き回ります。

 

その用法から想像するに、『Live In Utrecht』は彼が演奏行為の持つ身体性や即興性を電子音楽、電子楽器の世界へ持ち込んだ作品であり、『Figueroa Terrace』はその感覚のインストールが完了した段階における(故にサックスの使用を切り離す形で表現された)最初の到達点と捉えることができるのではないでしょうか。

(これらは単にトーマス・アンカーシュミット個人のバイオグラフィーとして以上に、即興と電子音楽の交点、身体表現としての演奏の在り方、それに基づくモジュラーシンセの再興といった近年の電子音楽周辺を取り巻く状況の明示として受け取れると思います。)

 

 

またこの人の作家性として、前述のような経緯など一切知らなくても感覚的に受容できるであろう圧倒的な音の快楽性があると思うので、まずは一聴ください!

 

 


01 Thomas Ankersmit - Figueroa Terrace [Touch] - YouTube

Live In Utrchtは試聴音源などはないようなので、Figueroa Terraceを。フルで。

 

 


Thomas Ankersmit & Valerio Tricoli - Takht-e-Tavus by Thomas Ankersmit - Hear the world’s sounds

こちらは2011年にPanよりリリースされているValerio Tricoliとの共作アルバム(傑作!)より。

フィル・ニブロックの下で培ったであろう、複数本重ねられたサックスによる飲み込まれるようなドローンを、サービス精神旺盛に。