今月は旧譜を多く聴いていた気がします。
・Fraufraulein: Billy Gomberg & Anne Guthrie 『Extinguishment』
共に米国の音楽家であるBilly GombergとAnne Guthrieによるユニットの二作目。
リリースは英国の即興/実験音楽レーベルAnother Timbreから。
両者が用いるエレクトロニクス、フィールドレコーディングやそれらのプロセッシングに加え、Billy Gombergがベースギターを、Anne Guthrieがフレンチホルンを演奏しています。
タイトルのExtinguishment(名)は、主に用いられる〈(火や明かりなどを)消すこと〉以外に、〈影を薄くすること〉や〈覆い隠すこと〉なども意味するようですが、
それが示すように終始どこかはっきりと像の掴めない、水中から(あるいは水中の)音を聴いているようなアブストラクトなサウンドスケープ。
距離感や軸のブレがこだまする淡い物音のカーテンの向こうから、安定的で生々しいフィールドレコーディングや楽器の演奏音、くすんだ(ラジオからの?)歌が聴こえてくる辺りの構成は本当に見事。
素材としての(過去の)フィールドレコーディング、即興による楽器音、リアルタイムのエレクトロニクスや物音、加工音など、発生のプロセスを異にするあらゆる音が、互いの本来的なテクスチャーの違いをものともせず、同化と異化を行き来する、
フィールドレコーディング、即興演奏、サウンドスケープ、コンクレート、アンビエントなどの境界を混乱させる傑作。
extract from 'Extinguishment' by Billy Gomberg ...
・Los Toscos + Tony Malaby 『KALIMÁN』
トニー・マラビーについてはその演奏について謎というかわけが分からない部分が多くて、聴くたびにこの人何考えて演奏してんだろうと思ってしまう、ので大好きなんですが、
これはコロンビアのレーベルからの作品でLos Toscosっていうなんだかよくわからない上に極端に情報の少ないバンドとの共演。
マラビーは今やジャズ界でビッグネームと言ってもいいくらいの奏者だと思いますがいったいどういった経緯でこの組み合わせが実現したのか…音だけでなく活動領域までも謎な人…。
中身の方はパーカッションをはじめLos Toscosの面々が熱帯的な臭気を演出する風変わりなジャズといった趣で、マラビーも絶好調でめちゃくちゃカッコいいです大満足!
・David Grubbs 『Banan Cabagge, Potato Lettuce, Onion Orange』
ツイッター上でもやり取りさせていただいているmantakoさんのブログ記事で知って以来ずっと聴いてみたいと思っていた一枚。
ユニオンウェブで運よく中古を見つけて即買い。
なんのことはない素朴さ、
なんだけどなぜか安易に聴こえないサジ加減。
まだ買って間もないけど、なんか他の音は何も聴きたくないけどこれだけは聴けるっていう気分、体調、シチュエーションがピンポイントで存在しそうな気がしてる。
常にipodに入れておこう。
・David Binney 『Greyren Epicenter』
多管編成や凝った曲作りが時に息苦しささえ感じさせるデヴィッド・ビニーのリーダー作の中でも、これはツインドラムでヴォーカル入りで極め付けといえるかも。
とは言っても参加しているグレッチェン・パーラトの声は暑苦しさなど皆無のスムースなものですし、明るい曲調のものも多いのでCriss Crossからの作品よりは耳馴染みは良いように感じました。(この印象の差にはCriss Crossの録音の特徴に起因する部分も大きいと思います。)
演奏自体の複雑さに加えて収録時間の長さ(70分越え)もあって初聴時は散漫に聴こえてしまったのですが、聴き込むほどに違ったポイントに魅せられる発見の楽しさに徐々にのめり込むことに。
本作に限らずデヴィッド・ビニーの作品というのは、その情報量の多さを“繰り返し聴くこと”で紐解いていくことにその醍醐味があるのではないかと。
・Jesse Stacken 『Helleborus』
トニー・マラビーとトム・レイニー参加ということで飛びついて聴いてみたはいいもののどうにも食い足りない感じ…期待しすぎたか?…ってなファーストインプレッションだったんだけどこれまた聴き込むほどにちょっと捻った感じの曲調がクセになり始め……自分こういうパターン本当に多いな。1回の聴取で音源の真価を見極められる耳と感性がほしい。
Jesse Stacken w/ Tony Malaby, Sean Conly, Tom ...
・Chris Lightcap's Bigmouth 『Epicenter』
試聴音源として公開されていた2曲を聴いた時点ですごく手応えを感じて期待しまくってたんですが、それを裏切らないものを届けてくれました。
各々のソロなど随所に聴きどころは見つけられるものの、アルバムトータルではどうもスッキリしない印象もあった前作と比べ、温かみと哀愁のある曲調はそのままに、小品的な曲を挟むなど構成への配慮も感じられますし、
何よりクレイグ・テイボーンの鍵盤の鮮やかなまでの音色の豊かさ、曲によっての使い分けが作品全体に(1、8曲目にいたってはポップ・ミュージック的とすら言えそうな)色彩感を与えているのが印象大ですね。
これ、鍵盤奏者が違えば相当趣の異なるものになったんではないかと…逆説的に言えばリーダーとテイボーン以外は入れ替えてもこのグループは機能、継続していけそうな気すらしてしまうほど、“核”としての存在感を感じさせます。
楽器編成だけ見るとオーソドックスなジャズの範疇ですが、この色彩感あふれるサウンドはポップミュージック好きな方にも訴えかけることができるのでは…とつい想像を加速させてしまうような(こういう部分もポップミュージック的)作品です。
Chris Lightcap - "Nine South" - YouTube
・Russell Haswell 『Live Salvage 1997 → 2000』
Megoからたくさん出してるので名前は何度も見たことあるし知ってたんですが実はちゃんと聴いたことなかったんですRussell Haswell。
ということで初期音源集を手に取ってみたわけですが…参りましたねカッコ良すぎます。なんでもこの時代はひたすらノイズかましてPCがクラッシュしたところでライブ終了という危ういパフォーマンスで有名だったとかなんとか…。
『Live Salvage』と名うたれた本作もそれが頷けるほど前のめりなノイズの運動に次ぐ運動、であると同時に(1、2年ほどではありますが)違った時期のライブ音源を代わる代わる並べた構成が一辺倒にならないアルバム通しての抑揚を生んでいて、ひとつの作品集としての価値も感じさせてくれます。
ちなみに本作は(Editionsがまだ付いていなかった時期の)Megoの12番。MegoにしろTouchにしろこの辺の初期作は宝の山なのかもしれませんね…。
Russell Haswell - 06:48:30, 1999, Posthof, Linz ...
・ON 『Second Souffle』
Sylvain Shauveau, Steven Hess の演奏した音素材を毎回違った外部の音楽家に預けエディットやミックスを任せるという少々風変わりな制作プロセスの下、これまでに3枚のアルバムをリリースしているユニットON。
本作はその2ndアルバムで、フランスのBrocoliからのリリース。
1stと3rdがともに(1stは再発というかたちで)Typeからリリースされているため比較的容易に入手が可能であるのに対して、
本作はBrocoliというレーベルがちょっとマイナーなのもあってスルーしている人も多いのではと思います。(私も最近まで完全に見落としていました。)
が、それが勿体なく感じられる好内容。
エクスペリメンタル/ドローン寄りな音づくりの他2作に比べて、2者の演奏が素直なかたちで現れるところが多く、ピアノがフィーチャーされる曲ではポストクラシカルな印象も強いです。
作風としては1曲目は打楽器、2、5曲目はピアノといった具合に曲毎にメインに据えられる楽器演奏のラインがあって、そこに他の楽器の演奏やそれらを加工した音、ノイズなどが絡んでいき、
その(絡んでいく側の)音のテクスチャーの違いによって、メインの楽器音が空間的な広がりを持って響いたり、反対に密室感を感じさせるトーンに聴こえてきたりといった、印象の変化を操作、演出することで音楽を進めていくパターンが多いかなと。
この作風の肝となるミックスやエディットを担当しているのは、同じくBrocoliからソロ作もリリースしているPierre-Yves Macé。
彼がMacé名義でSub Rosaから出している『Circulations』も併せて聴いたのですが、前述したような作風はこちらでも大いに用いられていて、この辺りは『Socond Souffle』に限らない、彼の大きな作家性なのだろうなと思います。
制作プロセスの持つ特徴が直接的に音の違いに反映され、コンセプトとアウトプットがかみ合った良作。
1stや3rdと併せて聴くとさらに楽しめます。
・basyo-label 『basyo compi vol.3~春のアンダーグラウンド感謝祭~』
俳句コア専門レーベルbasyo-labelより、コンピレーション第三弾。
「俳句コア」は曲中に2回俳句を詠むことと、尺が1分以内であること以外には特に音楽的な制限などはないようですが、その尺の短さが大きく作用した結果でしょうか、おそらくというか間違いなくそのアイデアの源であろうポエムコアに比べ、ジメジメとした湿気が少なく随分風通しの良い印象。
ただ元帥お出ましと言わんばかりのBOOL参加トラックがあることでその境界線というか棲み分けがなんだか曖昧になってしまっている気も…まぁそのトラック自体がかっこいいので通りすがりのリスナーとしては全然結構ですけどね(笑)
個人的にはこのコンピ、電車の待ち時間にとてもしっくりきて、重宝してます。
なんといっても19曲で15分!ここで知った人は素通り厳禁で軽い気持ちで聴いてみては。もちろんフリーダウンロードできます。
・Haptic 『Excess of Vision: Unreleased Recordings, 2005-2014』
シカゴを拠点に活動する実験音楽トリオのカセット&デジタルリリース作品。
今のところ最新作になるのかな。
メンバーはON、Dropp Ensembleなど多くのユニットに参加しているSteven Hess、昨年リリースしたカフカのメモを楽譜として演奏した作品が話題となったJoseph Clayton Mills、よく知らないけど結構キャリアがあるっぽいAdam Sonderberg。
不穏な響きで推移するドローンがじっくりとした間で徐々に厚みのある音の層へと変貌する1曲目。
16分過ぎた辺りで左右から空間を覆うように鳴っていたドローンが消失し、ガシャガシャとしたノイズ的な音がクッキリと立ち現われてくるとこなんかスリリングでこの人らうまいな~と。
違う周期で回転する小型のプロペラ音のようなノイズがベッタリと左右に定位したまま、輪郭を明らかにしない重心の低さで蠢く低音や遠くからの打音、現れては消えていく金属的な電子音あるいはアンプリファイされた具象音の揺らめきが、
高層建築から見下ろした都市の騒音を思わせる2曲目もめちゃくちゃ好みなたまらんインダストリアル&ロマンチック音響。
これは昨年のうちに聴いていたら年間ベスト入れてたってくらい気に入りました(←よく言うヤツ)。
ひとつひとつ感想を書いていたら思いの外長くなってしまいましたが、以上10作品です。