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John Russell / Phil Durrant / John Butcher 『Conceits』

 

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ジョン・ブッチャーの近作を紹介。

 

70年代から演奏活動を続けているイギリスのギタリストのジョン・ラッセルと、近年はエレクトロニクスを用いた演奏を積極的に行っているイギリスのヴァイオリン奏者(本作ではトロンボーンも演奏)のフィル・デュランとのトリオでのファースト・アルバムになる作品の2015年再発盤。

オリジナルの録音、リリースは1987年ですが、再発に際し1992年のストックホルムでの演奏が1曲追加収録されています(ストックホルムでの演奏を録音したのはThe Thingなどで活動するサックス奏者Mats Gustafsson)。

 

このトリオは84年に結成して以来断続的ではありながらも長く活動を続け、本作以外にも二枚のアルバムをリリースし、他にもこのトリオにPaul LovensとRadu Malfattiを加えた5人編成での『News From The Shed』や、ジョン・ブッチャーとフィル・デュランのデュオ作品(このデュオではデュランはエレクトロニクスを担当)のリリースなどもあり、三者にとっての演奏活動の基盤として機能していたところも大きいのではないかと思います。

 

演奏の内容は、線が細く渇いた音の質感と、それによってか音色の多様さの割に色彩感に乏しく、がらんどうの空間を思わせるような、正しくジャケ写そのままといった印象。

それをもたらしている要因は、アルバム中の多くの曲で弦をミュートして擦るような音や管から息が漏れる音など多様な奏法を駆使しつつ、それらのノイズよりの音を音量の面である一定のラインを超えない、抑制的な表現にのみ奉仕させるような演奏の在り方にあるのではないかと。

個人的にこの三者の中では最も多くの音源に接しているジョン・ブッチャーに話を限っても、全体通してソプラノサックスを多用して散発的に音を発している瞬間が多く、彼の用いる奏法の中でも特に好きな循環呼吸を用いてテナーの中低音でとぐろを巻くような演奏が聴けるのは3、6曲目くらいだったりと、現在であればもう少し多く用いるのではないかと思われるダイナミックな表現は避けているような印象ですし、

発音時のそれも、現在のどんなに突飛に聴こえる音色であっても顔色一つ変えず出してくるようなある種スムーズとまでいえそうな姿に対して、この時点では管体に無理な圧を加えて音を出している様な窮屈さがやや強く感じられます。

 

このように書き連ねていくと、自然にデレク・ベイリーエヴァン・パーカーの演奏との印象の共通性に思い当りますし、このトリオの演奏はそれらのフリー・インプロヴィゼーションの第一世代のものと地続きであるのだなと強く実感させられますね。

 

デレク・ベイリーなどの狭義のフリー・インプロヴィゼーションを聴く際に私は、その演奏の前後感のなさに大きく惹かれるのですが、それは調性などの楽理的拘束だけでなく、起承転結や演奏者の感情などからも自由であろうとするがゆえに現れる特徴であり、それは本作でも全編において感じられますし、

多く収録されている2、3分台の短い演奏であっても、そのような前後感のなさによってか物足りなさのようなものは感じさせず、演奏時間による印象の変化というものからの解放といった面もこういった即興演奏にはあったのではないかと認識させられます。

 

個人的な話が続いて申し訳ないですが私はこういったフリー・インプロヴィゼーションを聴き始めたのがここ2、3年で、比較的最近の作品を中心に聴いていることもあってベイリーやパーカーなどのパイオニアの作品であっても有名である程度容易に入手できるもの以外はあまりチェックできてませんし、故にその史的変遷も普段あまり意識せずに聴いているのですが、そんな私でもこの作品の特にラッセルとブッチャーの演奏からは先人から続く脈絡を感じとれますし、そういった新規のリスナーというのはある意味この作品の持つ価値を最も新鮮に受け取れる立場であるのかなと。

黎明期としての60年代、ベイリーやパーカーの代表的な作品の発表が相次ぐ70年代とあって、そこに続く80年代というものを今までしっかり認識できていなかったのですが、本作に参加している三者をはじめ「第二世代」とでも呼べそうな奏者達が表舞台に立ち始める時期という面は確実にありそうですね。

 

「再発されるからには意味がある」との思い込みから書いてるんじゃないかと自分で疑ってしまいそうな論の展開ですが、それをスムーズに行わせてしまうのも演奏が持つ説得力あってのことではないかと。

 

まぁ聴いて確認していただくのが一番ですね。

 

 

↓ アルバム収録曲

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↓ 1992年のライブの模様(ブッチャー本人による投稿のようです。)

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