LL

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moers festival 2015

 

ここ一週間ほど、見逃していた今年のメールス・フェスティバルの模様をアーカイブで少しづつ見てました。

個人的に興味のあるアクトは一通り見終えたかなと思うので、特に良かったものをピックアップしておきます。

 

 

 

・Pulverize the Sound

concert.arte.tv

今年Relative Pitchから初アルバムをリリースしているPeter Evans参加の新ユニット。

一応曲を演奏しているような雰囲気やその終わりととれるような箇所もありますが、続けざまに演奏されるのでほぼ50分丸々インプロ一本勝負といってもいいような内容にも思えます。演奏の主役はやはり終始ピーター・エヴァンスという印象。ベースは歪んだ低音で輪郭の曖昧なほぼ持続音にも聴こえるような音を発したり、短いリフの繰り返しやドラムと合わせてのグルーヴィーな演奏、ルーパーを用いたシーケンスの生成、高音域での速いフレーズでソロをとるような場面などその多彩さで全体に起伏をつけるような役割を担っているのかな。初っ端の三者がフルスロットルで吹きまくり叩きまくり弾きまくりな演奏もいいですが、個人的には15分辺りからの2曲目(?)の演奏が、音量、手数を抑えながらもゴツゴツとしたグルーヴを感じさせるベース&ドラムの上ではっきりとしたかたちでピーター・エヴァンスのトランペットが聴けて気に入りました。

しかし汗だくになりながら吹き続けるピーター・エヴァンスの唇は大丈夫なんだろうか…。

こういう後先考えてない風なパワーインプロ系の演奏って生でみると圧倒される瞬間の連続でもちろん楽しいんですが、こういうアーカイブなどのかたちで何度か見たりすると結構明確な構成が浮かび上がったりしてきて面白いですね。

この演奏は3回見たんですがその度に随所に挟まれるリフ的なものやベースのアプローチの変化などが興味深く感じられてきますし、そういった“鑑賞”にも耐えうるいい演奏ではないかなと、回を重ねるごとに思えてきました。

 

 

 

・Eve Risser “White Desert Orchestra”

concert.arte.tv

リーダーのEve Risser(ピアノ)に加え、ギター、ベース、ドラム、管楽器奏者が6人(テナーサックス、バスクラリネットトロンボーン、トランペット、フルート、ファゴット)、さらに中盤からヴォーカルと、関係者片っ端からステージに上げてんじゃねえかってくらいの人数のコーラス(?)が加わる大所帯“White Desert Orchestra”の演奏。

全4曲、1曲目から順に20分、10分、20分、10分というステージで、3曲目でヴォーカル、その途中から例のコーラス隊が加わります。

1曲目の7分辺りで音楽が立ち上がってくるまでの淡くしかし緊張感のある音響の連なりにはJakob Ullmann『Disappearing Music』を思い出したり。その後のアンサンブルとファゴットのソロ、一旦グッと音量を絞ってからトランペット、フルートのソロへ・・・といった具合に練られた構成が全編にわたって冴えてますね。その構成ゆえなのかはわかりませんがなんだか映像的な演奏でもあってこの1曲目は森の中の古城をゆっくり歩きながらその周辺に住む動物の声に耳を澄ますみたいなイメージが。個人的にはこういうことはジャズのライブでは珍しいことかも。

以降もどこか不安げな旋律が管楽器のやわらかなアンサンブルで繰り返される2曲目、ヴォーカリストの特殊な歌唱が目(耳)を引く3曲目(森のざわめきを具現化したような擦音アンサンブルとでも言えそうな風変わりな演奏ですが素晴らしいです。終盤のパワープレイ的な展開はちょっと余計かなって気もしますが)、それまでとは打って変わって具体的な単音リフの反復を中心に音が組み上げられていく4曲目と、曲調とギミック的な編成の変化も効果的に用いて最後まで飽きさせないステージングだったと思います。

好みを言わせてもらうと大人数のコーラスは(客席をウロウロさせるのは面白かったですが)余計かなぁ。あの大所帯がステージに上がった瞬間から音楽全体の面白味が大分落ちてしまったような印象があります。前半は文句なし、後半はあの個性的なヴォーカリストをもっとフィーチャーしてほしかった…。

 

この演奏はyoutubeにもアップされているようですね。

youtu.be

 

 

 

・Eivind Opsvik Overseas

concert.arte.tv

 継続的なユニットとしてこれまで4枚のアルバムを発表しているEivin Opsvik Overseas。時期によってメンバーが変わっているようですが今回はリーダーのEivind Opsvik(b), Tony Malaby(sax), Brandon Seabrook(gt), Jacob Sacks(p), Kenny Wollesen(ds) という編成。

調べてみると今のところのユニットとしての最新作である『Overseas IV』と同じ編成でそこからの変更はないようですね。

eivindopsvik.bandcamp.com

トニー・マラビー目当てで見たのですが(サングラス姿は笑ってしまいました)、その主張が控えめというかリフを挿入することに徹している1曲目ではジェイコブ・サックスのピアノがいいですね。誰かひとりが大きくフィーチャーされるような演奏ではないですがマラビーがリフを吹いている裏でのピアノの動きなんか結構面白いですし何よりいい曲だなと思います。もっと長く演奏してくれてもいいくらい。

2曲目はマラビーの独壇場で、ジミヘンじゃないですけど紫の煙が立ち上るような入りから割れた音を多用するフリーキーなソロへ。映像で見ればわかってもらえると思いますが、この人の左脇にはエフェクターでも仕込んであるんじゃないかと疑ってしまうような吹きっぷりが最高です。マラビー以外も総じて熱の入った演奏で特にギターはテナーとチェイスするように忙しく弾いていていいんですがちょっと音量が小さいのが残念。途中からそれまでとは打って変わって耽美な室内楽的演奏へ転換(別の曲へ移っただけかもしれません)する10分ほどの演奏。

3曲目はこれまでで最もオーソドックスにジャズ的(?)な色っぽいテーマが印象的な1曲。ここでもマラビーは無伴奏のソロでフィーチャーされていて魅せてくれます。

4曲目はベースとピアノのみによる素朴な旋律を味わうような小品的な演奏。他楽器が加わり、続けて演奏される5曲目の図太いリフ曲も併せて小休止といったところでしょうか。

曲調の変化が鮮やかな6曲目、徐々に加速していくようにフリージャズ的な演奏になだれ込みますが、それだけで終わらないところがニクいですね。ゆったりとした7曲目も併せてですが、トニー・マラビーのサックスが本当によく歌ってます。先日その訃報が伝えられたオーネット・コールマン、その影響を多分に受けたと思われるティム・バーンにも感じることですが、このトニー・マラビーも間違いなく一般的なアドリブの方法論などとは別の次元で独自の“歌”を持っている人だと思います。

アンコールでリーダーの短いソロ演奏が披露され終了。

Eve Risserもとても良かったけれど、贔屓目もあってベストアクトはこちらかな。このユニットのアルバムは聴いたことなかったんですが、作曲センスも好きな感じだし、なによりトニー・マラビーをたっぷり聴けたのが個人的に美味しかったです。

 

 

以上3つのアクトが特に印象に残ったところですかね。普段ライブに行った際は終わってしまうと細部をあまり覚えていないことが多い人間なので、こういう風に詳細に書けるのはストリーミングとアーカイブならではの楽しみ方かななんて思います。