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秩父4D

9月26、27日に秩父の街にいくつかの会場を設けて行われたエクスペリメントな音楽のフェス、『秩父4D』に行ってきました。

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私は26日のみの参加で主な目当てはJohn Wiese、石川高、灰野敬二辺り。開演は午後一時からだったのですが、私は正午過ぎに新宿を出て2時過ぎに秩父へ到着。受付を済ませた後ひと通り会場の場所などを確認して実際に演奏を見始めたのは14:30開始の《鈴木學 + KASEO》からでした。当日はメイン会場の〈ladderladder〉での演奏が30分ほど押したりと多少のゴタつきはあったようですが私個人にはあまり影響はなく、目当て以外にもいくつかのアクトを周りながら余裕をもってそれぞれの演奏に接することができました。

 

今回は当日その演奏に最初から最後まで通しで接することのできた6つのアクトについて手短に。

 

 

《鈴木學 + KASEO》

 部品を買い集めるところから始めたという自作楽器(見た目はそっけない銀色の箱にレバーやツマミがついたもので、それらに市販のワウペダルなども併せて10個ほどのシンセ?エフェクター?セット)を用いて演奏する鈴木學と、七体のピカチュウのおもちゃ(?)が組み込まれ、それらが演奏の随所で光り、「ピッカ~」と鳴き声を上げるよくわからないエレクトロニクス(ピカチュウの鳴き声以外の音はモジュラーシンセっぽかったですが…)を演奏するKASEO(本人もピカチュウの安っぽいコスプレ姿で演奏)のコンビ。会場に着いて初っ端に見たのがこれだったもので、まずはその見た目にちょっと笑ってしまったんですが、電気ショックさながらの鋭いノイズが耳を刺す演奏自体も非常にエッジーで印象深いものでした。演奏が進むにつれて光り具合や鳴き具合が激しくなっていくピカチュウの怪しさたるやw

 

演奏序盤の様子

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終盤はこんな感じ

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大島輝之 + 中田粥 + 竹下勇馬》

ギター、むき出しの基盤を用いて電子回路をリアルタイムでショートさせて演奏する“バグシンセ”、ツマミや基盤やLEDなどがところ狭しとボディに接合された改造ベースによるトリオ演奏。とにかく中田粥のバグシンセの見た目のインパクトが強力だったんですが言葉ではうまく伝えられない・・・。音のほうはずっとアンプに腰かけて演奏していた大島さんが立ち上がってフィードバック主体の演奏になってからが特に良かったです。

 

演奏後の様子。映っている基盤を積み上げたり崩したりしてノイズを発していました。

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竹下勇馬さんのHPで改造ベースのビジュアルが確認できます。

 

 

 

灰野敬二 柴田聡子 見汐麻衣》

全体の流れは、柴田聡子(ひとりで弾き語り)→ 柴田聡子+灰野敬二 → 見汐麻衣(ひとりで弾き語り)→ 見汐麻衣+灰野敬二 → 最後に三人で演奏、というもの。

全編マイクやスピーカーも用いない完全なアコースティックセットで、演奏の内容も基本的には弾き語り+αのシンプルなもの。ただその+αを受け持つことになる灰野さんが(特にギター以外の打楽器などを演奏する際に)傍らの弾き語りなどお構いなしの本当に奔放な演奏をするので、柴田さん、見汐さんは相当神経使ったんじゃないかと。ただ灰野さんがギターを演奏する場面では少々饒舌すぎるくらいに歌うギターを素直に弾いていたりもして、ノイズ/アヴァンギャルドのシンボル的なイメージに隠れた一ギタリストとしての“素”の部分をかいま見れたような気がして嬉しかったりもしました。曲の合間にもやさしく微笑んでいたりでなんか客席の誰より灰野さんが一番演奏を楽しんでいたような気がします。

柴田さん、見汐さんに関しては詳しく存じ上げないので確証はないのですが、弾き語りの際はふとりともそれぞれの持ち曲を歌っていたのではないかと思います。どちらも独特の味のある演奏(柴田さんは歌詞や発声、見汐さんはギター伴奏に特に個性的なものがあるように感じました)で良かったですし、中でも見汐さんがひとりで弾き語りの際に歌われていた英語詞の曲はギターのハイフレットでの印象的なフレーズとローコードの行き来、開放弦も交えた和音の平行移動など趣向を凝らした伴奏に軽やかなハミング調のボーカルが乗るすごく洒落た雰囲気の曲でとても気に入ってしまいました(演奏後に一度会場内ですれ違うことがあったのでこの曲のことだけでも聞いてみればよかったなぁ…)。

演奏の途中では近くで行われていた祭りの囃子や太鼓の音が鳴り始めて一時は弾き語りをかき消さんばかりに威勢よく響いてくるなんてこともありました。演奏の邪魔になっているような気もしましたがまぁこれも風情かな?(そう呼ぶには少々存在感が大きすぎる気もしましたがw)

演奏が行われていたのはメイン会場(8階建てか9階建てだったと思います)の屋上だったので祭囃子以外にも電車の踏切の音や車の交通音が遠くからややぼやけた音で演奏に入り込んできていて、特に柴田さんひとりでの弾き語りの際にはそういった環境音と音楽との融和がとても心地よい空気や響きを作り出していたように思います。

会場の特性もあって他のステージ、演奏とは違った空間、時間に迷い込んだような不思議なパフォーマンスでした。

 

 

 

《石川高》

特に楽しみにしていたアクトのひとつ。Skogenなどへの参加で耳にしていた奏者のソロ演奏とあってなかなか耳にする機会のない貴重なものだったのではないかと思います。そもそも笙に限ったことではないですが、和楽器の演奏って(日本人でありながら)普段接する機会ってなかったですし、笙の音色も生で聴くのはおそらく生まれて初めてのことだったと思います。演奏内容は至極シンプルで衒いのない吹奏による持続音(笙は息を吹いても吸っても同じ音程の音が出るため循環呼吸などを用いずとも持続音の演奏が可能なのだそうです)がハーモニーを変えながら移り変わっていく、だけ。このアクトに関してはその音、演奏の内容だけでなく、この秩父4Dというイベントのノイズステージで見れたということが個人的にはすごく印象深くて、各者20分の出番の合間10分で多くの機材が搬出、搬入される慌ただしさの中にあってこの人だけは笙の入ったケースひとつだけもってステージに上がり、椅子に座り、ケースから笙を取り出し、以上で準備は終了。目にも耳にも情報量の多い演者の中、椅子、身体、楽器それぞれひとつずつのみが佇む凛としたパフォーマンスが本当に美しく感じられてドローンの素晴らしさを目一杯体感することのできた幸せな20分間でした。最高のブッキングだったと思います。ありがとう。

 

 

《John Wiese》

 さて間違いなく今回の個人的メインアクト。私はこの人の作品はいくつか聴いたことはあるもののそれ程大きく惹かれていたわけでもなかったんですが、来日の情報に接したタイミングで今年出したアルバム『Daviate From Balance』を聴いて完全に打ちのめされまして、このコンクレートスタイルでやってくれるならライブでこれをどう表現するのか自分の目で確かめてみたいと、すごく鮮度のあるモチベーションでライブに臨みました。用いた機材は23日の落合SOUPでのライブに行かれていた方から伝え聞いていた通りラップトップとミキサー。ラップトップから出力された多様な音源をミキサーのフェーダー操作でリアルタイムにミックスしていくことで立体的な音の行き来、出し入れを行い音楽を提示していくスタイルでした。演奏は静かにスタートし徐々に投げ込まれる音素材の数が増え、同時に低音部で鳴っていたように思われた持続音が浮上、インダストリアルな音色や音の輪郭をくっきりと感じとれる帯域で定まるとさらに存在感を増し、それが数分定位した状態で音素材のミックスが激しくノイジーになり、ドローンが断ち切られると同時に更にミックスの速度が加速して終了という非常に展開の練られたものでした。終盤に進むにつれてノイジーな音の割合も増えていったように思いますが全体通してそういった“うるささ”の印象は強くなく、一言で言うと“繊細さ”を感じるパフォーマンスでした。こういった音素材をコラージュして作られるコンクレート作品を聴く場合って全く関係のない音が並列な扱いで同時に鳴っている状態自体のスリリングさだったり、それらが切り替わる際のある種の唐突さに私は大きな魅力を感じていたのですが、今回のジョン・ウィースのパフォーマンスはドローンが存在している際の“ドローン+コラージュ音”という成り立ちでの層を除くと、他に音をレイヤーしている感触が見当たらないというか、多くのそれぞれ独立した音源が投げ込まれているであろうにも関わらず、それらをミックスされて作りあげられるコラージュ音は常に音素材個々の性格や質感にではなく全体のバランスの変化に耳がいく状態が保たれていて、“いくつかのものがひとつに”というよりは“そもそもひとつだった”音源がその姿を変えていくといったほうがしっくりくるような切れ目のなさスムーズさを獲得しているように感じられました。このノイズステージでの他の演奏が音と音の軋轢だったり音自体の暴力性でアピールするようなものが多い中でウィースが提示したこの音は異質で、ある意味(これは私の思い込みかもしれませんが)終演後の客席のどこか拍子抜けしたような空気も納得のいくものではなかったかと思います。なぜなら彼は別の方向を見ていたから。ステージ名にも題されているいわゆる“ノイズ”ミュージックとしてより、現代音楽の一派としての伝統的なミュージック・コンクレート、中でもアクースマティック音楽に距離的に近い印象で(彼は多チャンネルでのインスタレーション制作などもおこなっているようですし)そちらからの影響、またはそちらへの関心なども気になるところです。まぁ実際にアクースマティックを体験したことがない私が言うのもお門違いな気もしますが。

 

 

《黒電話666》

 名前は耳にしたことあったんですがよく知らずで、一緒にライブに行った方(写真の提供ありがとうございます!)曰く「バリバリのノイズ」ってことだったんで正直ビビッてたんですが会場への配慮か音量はそれほどでもなく意外と余裕をもって楽しめました。名前にもなっている黒電話のオブジェ?も一部として組み込まれたノイズセット(仕組みは分かりませんが受話器を持ち上げ叩きつけるようにするとハウリング的な音が出ていました)に歪んだ叫び声も絡めて20分間を全速力でぶっちぎる非常に前のめりなパフォーマンス。本人の独特ないで立ちもあってひとつの世界観みたいなものが作り上げられてて客席最前で女性客が恍惚としてたのもなんかわかる感じでした。例えばこれが1時間だと印象は大分違ったかもしれませんが、20分という絶妙な尺を一息で駆け抜ける様は爽快でライブでノイズを聴いた感というか手応えのある演奏でした。かっこよかった!

 

演奏の様子。右手で押し付けるようにしているのが例の黒電話なんですけど、ちょっとわかりにくいですねw

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以上が通しで見ることができた6アクト。他には屋上ステージへの移動のため5分ほどしか見れなかった《ワイキキチャンピオンズ》もさながらコントーションズをポップにダンサブルにしたみたいでかっこよかったし、時間の都合で見れなかった(泊まりじゃないのでメシ食って帰らなきゃだった…)福岡が誇るノイズアクト《電子たくあん》もできれば見ておきたかったなーなんて。実はこういうちゃんとしたフェスって行くの初めてだったんですけど(それほど音楽に対して長く集中できるタイプじゃないですし、体力的にもハードなイメージがあったんでなんとなく避けてました)、自分なりに調整しながら余裕を持って行動したのが良かったのか、特にマイナスな点が見当たらないほど存分にイベント自体を楽しむことができました。目当てのアクトもばっちり期待に応えてくれるものを見せてくれましたし、とても幸せな気分で秩父を後にすることができました。また当日の新宿からの電車移動に始まり、秩父での各会場のライブ聴取や夕食、そして帰りの電車まで行動を共にしていただいたツイッターのフォロワーさんにもこの場を借りてお礼を言いたいです。ライブごとの感想に始まり移動中にもこれまで聴いてきた音楽の話などを延々できたのが、もしかしたらこの日が楽しいものになった一番の要因かもしれません。本当にありがとうございました。また東京行く際は是非お会いしましょう!