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『Sans Repères Session』at 日時計の丘

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10月10日に福岡市南区日時計の丘にて行われたライブイベント『Sans Repères Session』に行ってきました。出演はKenta Inamasu、Sho NAKAO、そしてメインにFrance Jobin。主催のpopmuzikは2012年にもフランス・ジョバンを招いたライブイベントを開いていて、後にレコードレーベルとして彼女の作品(イベントのタイトルにもなっている『Sans Repères』)を出してもいるので、その流れの中で今回のライブおよびツアーが企画されたのかなと。個人的にフランス・ジョバンはすごく思い入れのあるサウンドアーティストでもあるので最初このツアーの報せを聞いた時からすごく楽しみにしていました。出演者それぞれの演奏にしてもそうですし、それらをトータルしたひとつのイベントとしても印象深いものだったので簡単に感想をまとめておきたいと思います。では出演順に。

 

 

1. Kenta Inamasu

ピアノと詞のないスキャット的な歌唱によるパフォーマンス。全部で5曲ほどの演奏だったと思います。最後の曲のみSho NAKAOが演奏に加わり背景音的な役割のサウンドスケープを担当していました。即興演奏といった面も強いのでしょうが今回の演奏は聴いているぶんにはそこをあまり意識させないというか、1曲1曲で歌唱による旋律とピアノ演奏のしっかりとした結びつきを感じられる瞬間が多く、作曲されている面が強く印象に残りました。Inamasuさんの演奏は以前にもソロで一度、複数人の演奏で一度観ていますが、どちらも今回よりは抽象的な印象だったので少し新しい面を見れたような気分でした。この演奏では会場である日時計の丘に置かれているブリュートナー社製のグランドピアノが使われたのですが、一般的によく目にするグランドピアノより一回り小ぶりなボディから響く柔らかい音色はこの会場の大きさや雰囲気にとてもよく馴染んでいて、それだけで空間が充足するような感覚がありました。

 

2. Sho NAKAO

ラップトップ、ミキサー、複数個のエフェクターを用いたパフォーマンス。いつもは繊細に編まれた音楽的な音色のドローンと加工された環境音のレイヤーによるアンビエントを聴かせてくれるNAKAOさんですが、今回はそういった面もありつついつもよりは環境音がむき出しで配置され前景化したような印象で、中盤では音楽的な音色の存在がなくなりほぼ環境音のレイヤーのみで構成されたパートが現れたり、またパートの移り変わりや特定の音色のフェードイン/アウトの仕方も時に唐突だったりで“いつもと違う”面を多く見せてくれた演奏でした。終演後ご本人に確認したところによると、最初から最後までしっかり組まれたライブセットもあったようなのですが、それは二日前の東京公演で既に披露していて同じことをやるのはあまり気分が乗らなかったらしく、今回は東京滞在時に録ったフィールドレコーディングのサンプルなどを適当にタイムライン上に配置した状態で演奏を始め、再生されるサンプルにその都度場当たり的に対応するかたちで演奏したとのこと。演奏の終盤では讃美歌を思わせるようなトーンのドローンを中心とした安らかで美しいアンビエントのパートが現れたのですが、その部分だけあらかじめ組まれていたライブセットから抜粋されたもので、ご本人曰く「一応キリスト教徒なのでそれらしいものひとつくらいあったほうがいいかと思って作った」ものらしいです。

また前述のInamasuさんとNAKAOさんの演奏はまだ日の出ている時間帯に行われたため、会場の天窓から淡く日が差し込み演奏者のバックの白い壁にカーテンの影が映し出され控えめに揺れ続けていて(こんな感じとかこんな感じ)、それをぼーっと眺めながら聴くのがとてもいい感じでした。一緒にライブ行った方も同じ楽しみ方をされていたみたいで嬉しかった。

 

3. France Jobin

ラップトップのみによるパフォーマンス。演奏は今回のイベントのタイトルにもなっているアルバム『Sans Repères』のA面の冒頭のパートから始まり、今回のライブのために組まれたものと思しきパートへ移り、その後『Sans Repères』のB面の終盤のパートへ繋がれて終わるという構成でした。イベントのタイトルにもなってるくらいなのでこの構成はもちろんあらかじめ決められていたものだと思います。『Sans Repères』のA面の冒頭のパートというのはすごく開放的で目の前が開けていくようなサウンドなので、演奏が始まった時間帯に陽が傾き始めていた会場の雰囲気との折り合いがちょっと惜しいかなと思っていたのですが、驚いたのはその後、陽が落ちた会場の雰囲気に呼応するかのような濁ったトーンのドローンや曇り空を連想させるような加工されたサンプルの重なり合いが提示されて、あまり彼女のイメージになかったような低域よりのサウンドスケープを聴かせてくれたところですね。偶然の産物だとは思いますが会場の空気の移り変わりに音が同期していくような感覚があり、この場に居てよかったなーとしみじみ思ったり。他にもたしか前述の低域よりのサウンドスケープに移る前辺りだったと思いますが、静かなドローンが流れるだけのパートで外から犬の鳴き声や車の走行音が聴こえてきたり(犬の鳴き声に関してはジョバンさんも流石に気になったのか表情を崩していました)と、彼女自身が意図したものではないのかもしれませんが演奏が自身の出す音だけで完結しないものになっていることを強く印象づけられるような時間でした。

 

 

イベント全体を通して、演奏は聴衆が発する種々のノイズ(例えば足を組み替える際に服が擦れる音など)も耳に入ってくるような小さめの音量で行われていて、演奏外の音の干渉が良い方向に作用する場面と悪い方向に作用する場面がありました。この点に関しては、会場の大きさや立地(周辺が住宅地)などの条件からこうなっているのか、それとも意図的に抑えているのかはわかりませんが(個人的にはもう少し上げてほしいというのが正直なところ)、日が傾いていく時間に催されていることやそれと演奏との兼ね合いや同期、会場に据え置かれているピアノの響きなどと合わせて今回のイベント全体がその時限りの場(=空間)と時間の存在を強く意識させるものだったなと思います。演奏者の音“だけ”を聴かせるイベントではなかったというか、深読みのし過ぎかもしれませんが、出演者、主催者の方々がアンビエントの在り方というものをどう捉えているのかがなんとなく読み取れるような気もしてくる、それに基づいて様々なことが決定されているような印象を受けるイベントでした。