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Kevin Drumm『Elapsed Time』

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昨年末に《Sonoris》からリリースされたケヴィン・ドラムの2012~2016年という比較的近年のドローンワークスからセレクトされた6枚組ボックス。初出の音源として紹介されているのも見かけましたがきちんと調べてみるとすべてケヴィン・ドラム自身のbandcampで既に公開/販売されている音源だったので、それらのリンクをディスク毎にまとめておきます。簡単な内容の紹介も書きましたので、トーンの明るいものだけ聴きたいとか、ある程度展開があったり尺が短いものを手始めに聴いてみたいといった方は少しでも参考にしていただければと思います。

購入は《Sonoris》に直接注文するか、国内のショップで取り扱いのある《Meditations》、《Art into Life》、《オメガポイント》、《Ftarri》辺りで。これをアップした時点ではメディテーションズとフタリに在庫があるようです。

 

 

【Disc 1】

kevindrumm.bandcamp.com

オルガン、オーディオジェネレーター、ギター、声、テープディレイを用いた40分超えのドローン作品。ひとつの音色が延々持続するタイプのそれではなくいくつかのパートから成り立っており明確に音が途切れる場面も存在する。音色は澱んだトーンで統一されていて時折メタリックなものが入ってくる。全体的に変なリバーブを多用したような音作りで音の芯というかクッキリとした定位が掴みにくい。音の定位の動きが効果的なパートから人の声(コーラス?)を引き延ばしたような奇妙な音色とホラーチックな和声感のパートへ推移する15~30分辺りが面白い。

 

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サイン波によって作られたオルガンのような音色を中心に描かれる20分間のドローン。和声的にもトーンは明るめ。ちょっと中域が膨れすぎな気もするけどかなりいい。

 

 

 

【Disc 2】

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オルガンのような音色を軸とした30分のドローン。サイン波、ノコギリ波、パルス波が用いられている。音の抜き差しや音色の推移はそれなりにあるんだけど10分辺りまでは和声が変化しないのでどっしりとした印象。そこからは5分おきくらいの間隔で軸となる音色/音程が差し替えられていく。

 

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リンク先のアルバムから4~7曲目を収録。どれも10分程度。

「Gradual Extinction」は曇り空のようなスタティックなドローン。鳴りっぱなしの音がひとつあってそれより下の帯域で音の抜き差しなどの表現が行われている。ラスト2分で急に陽が射すような明るいパートへ転換。

「Return」は壁を一枚隔てたところで鳴っているような存在に距離感を感じる鈍い色合いのドローン。中盤からは何かの音を無理矢理潰したような輪郭の崩れた音色が近い距離感で鳴る。自律神経に悪そう。

「Grace」は前曲の崩れた音色がそのまま鳴るかたちで推移する。全然「Grace」ではない。

「Dimming the Gas Lights」は左右へ行き交う軽く歪んだ音色や物音などが入るややノイズドローン寄りの内容。徐々に音の厚みが増していき濁流のようになる。かと思いきやそこまで極端な盛り上がりはなく割合あっさりと落ち着く。

 

 

 

【Disc 3】

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いくつかのパートから成る30分のダークアンビエント/ノイズドローン的な作品。

CDには短波、パルスジェネレーター、ディストーションのためのComputer Assisted Musicとある。(どう訳せばいいかわからない)

最初の10分は不安定に揺れるいくつかの音色が入れ替わり立ち代わり表れる綴れ織りのようなドローン。音色のフェードイン/アウトの周期はある程度機械的に制御されたものなのか無機質で同じところをグルグル廻っているような印象。かなり暗いし音色もあまり心地いいものではない。

続いて霧の向こうから聴こえてくる生き物の声や風の音のようなパート。2分程で終わる。

続いてホワイトノイズが左右へ動くノイズドローン的なパート。イヤホンやヘッドホンで聴くと面白そう。途中からは波の音のようにも聴こえる。音色はあまり面白いとは思わないけど音の動きやうねりがあって意外と飽きない。13分ほど。

ラスト5分はアタックのある音とそれが削られた持続音が重ねられたパート。どちらの音にも過剰な空間系の処理が行われているようで輪郭が掴み難い。30秒ほどの無音を挟んで始まる。

 

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リンク先のアルバムから1曲目のみを収録。

冒頭からモーターなどの機械音にも虫の声にも聴こえるような歪んだノイズがあちこちで鳴る。Stephen Cornfordのカセットプレイヤーを用いたインスタレーション/音源を連想するような音も。

すべての音が同じ(または2,3種類ほどの)サンプルの回転数を上げ下げすることによって作られているように聴こえないこともない。疑似テープコラージュ・オーケストラ?*1

5つのパートに分かれているけどそれぞれのパートは元となるサンプルや加工の度合が変わる*2だけでやってること自体は変わらない。

 

 

 

【Disc 4】

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トーンジェネレーターとベースペダルを用いたとても重心の低い30分のドローン。特に冒頭の5分はギリギリ聴こえるくらいの低域のみが鳴っているというハードコアさ。それ以降は音のフィルターの開き具合や粒の大きさが変化する*3音と、そのオクターブ下(?)で鳴る動きの少ない音の持続が中心。ラスト5分は小さな音量でポツポツと音が鳴るとても寡黙なパート。

 

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コンピューターによって制御された(?)オーディオジェネレーターを用いた作品*4。冒頭から右側では何かの警報の再生速度を落としたような音が、左側ではピッチのはっきりしたノイズ混じりの音が偏執的に鳴り続ける。7,8分辺りまではそこに何種類かのブーーーとかビーーーといったような持続音が重ねられたり切断されたり。8分辺りで数種のオシレーターを使って出したような強迫的な和声感の音が鳴り始め左右で鳴り続けていた音に溶け合っていくような場面へ。数分後には全体でひとつの響きとして認識されるような*5クラスター的な音響が形成される。以降は全体としてその様相を維持したまま個々の響きが細かに変化しながらラストまで続く。JMT Synthとかから出てるような鍵盤のないノイズシンセを何台も用いたような音でオシレーター・オーケストラみたいな雰囲気。すごく今っぽいとも言えるかも。ミニマリズムというか引き算的な発想で描かれたというより様々な音響の足し算によって構築された巨大な建造物のようなドローン作品。自分は根本的にはミニマリズムが好きな人間なので自分でドローンとか作ろうとするとこういった方向には向かわないんだけど、聴くぶんにはとても好きだし自分にはできないって思いと情報量の多さに圧倒されてすげえ。。。ってなる。

 

 

 

【Disc 5】

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リンク先のアルバムから3曲すべてを収録。インスタレーションとして制作されたものらしくスピーカーでの再生を推奨している。

「Wider Distance」は11分のドローン。冒頭から6分ほどは少ない音数で音をあまり足さず音量やパンの変化のみで推移していく。和声的に明るくないが、かといってダークという感じでもない、色合いを感じさせないような無機質なトーンがとても好み。6分過ぎた辺りでわかりやすく音が足され和声的にダークな色合いを帯びてくる。9分辺りからは音の足し引きのペースが急に速くなるが全体のトーンは保ったままであまり忙しい印象にならないところが巧い。それぞれのパートの長さを倍にして20分くらいの尺で聴きたかった。かなり好き。

「Waterbed Music Part 1」は15分のドローン。冒頭からクラスター的な強迫感のある持続音が鳴る。そこから複数の音色が次々に表れては消えるが冒頭からのクラスター的な和声のトーンは維持される。和声的には緊張感が高いが音色の質感はどれも柔らか。個別の音色がしっかり左右に振られていたり、その間を行き来したりするので時に全体でひとつの音に聴こえたりそれぞれの音が分かれて耳に入ってきたりする様が面白い。9分辺りで中央に定位した複数の音色をメインにしたパートへ展開。さらに11~12分辺りで左右へ広がりのある音がメインに。

「Waterbed Music Part 2」*6は8分ほどのドローン。和声的な色合いは乏しく新たな音色が入ってくるといった意味での展開もないが、複数の周波数の音が鳴り続ける中でのそれらの音量のバランスの変化、それに伴う干渉の度合を聴き取ると常に音が変化し続けていることがわかる。こういったドローンはとても好き。

 

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リンク先のアルバムから1曲目のみを収録。

30分のドローン。かなりぼーっとする音。22分辺りで一旦音が途切れ、それまでよりかなり重苦しい音色のパートが始まる。

語彙が尽きてきた。

 

 

 

【Disc 6】

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リンク先のアルバムから2曲とも収録。Editions Megoからリリースされた『Shut-In』というカセット作品の初回20部に特典CDRとして付属していた音源らしい。

「Shut-In Extra 1」は18分ほどのドローン。冒頭からの5度の和音を中心とした力強い和声感の持続が新鮮。

「Shut-In Extra 2」は16分ほどのドローン。こちらも前半に引き続き和声的な安定感は強め。8分辺りでオルガンっぽい音色が入ってくるのでそのまま大団円に向かうかと思いきや、それを期待させた程度でしぼんでいく。

 

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リンク先のアルバムから2曲とも収録。

「The Whole House 1」は20分のノイズドローン/アンビエント。ギシギシといった物音、モーターの稼働音のような音、遠くの水の流れのような淡いホワイトノイズが鳴り続ける。中盤からは音量やノイズの迫力が増し濁流のような響きになる。音の足し引きや音色の変化などもあるが、音響的な快楽性を念頭に置いたという感じではなく音がただ鳴っているような、そういう意味では自然音/環境音に近い印象*7。ノイズ的な音色がメインなので和声的な色合いやそれによって発生する情緒などもない。“アンビエント”というものの解釈にもよるだろうけど、空間に音が放たれ、何らかの場が発生すること、それ以外の機能を持たないことなどからかなりハードコアなアンビエント作品のように聴こえる。音が減衰することなく次の曲へ切り替わる。

「The Whole House 2」は13分のノイズ。前曲の空間を埋めるようなノイズを切断するようなかたちで始まる。このボックスの収録曲の中では音色自体のエグさやその変化の具合、展開の作り方などが最も忙しなく、いわゆるノイズミュージック寄りの演奏。これだけ色合いは違えどドローンばっかり入ってる中で最後にこれやられるとそれは当然かっこよく聴こえる。あーかっこいい。最高。前曲とのコントラストある構成も効果的だしこれはとてもいいアルバムだと思う。

 

 

 

*1:CDを確認したところCasette Tape Musicとあるのでやはりカセットテープを用いたものらしい

*2:第二、第三のパートでは声のサンプルの使用が目立つ

*3:サンプラーのサンプルの再生範囲を伸ばしたり縮めたりするような感じ。機械的に制御というよりはツマミを回して操作してそう。

*4:Audio Generators, Spectral Computer Assistanceとある

*5:音数自体はかなり多いが

*6:リンク先のアルバムには「Slanted Floors」という曲名で収録

*7:ただ結果的に音響的快楽性は発声している