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Dan Weiss『Starebaby』

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Dan Weiss (drums, compositions), Ben Monder (guitars), Trevor Dunn (electric bass), Craig Taborn (keyboards, piano), Matt Mitchell (keyboards, piano)

 

NYを拠点に活動するドラム/打楽器奏者ダン・ワイスの4作目(?)となるリーダー作。

前々作『Fourteen』、前作『Sixteen』はそれぞれタイトル通りに14人、16人編成からなるラージアンサンブル作品でしたが、今作は2人の鍵盤奏者、ギター、ベース、ドラムというやや風変わりな小編成となっています。

ラージアンサンブル作品であった前2作とは編成の違いが大きく影響してか音楽の色合いは相当異なったものになっていて、声や管楽器などの参加で彩り豊かな印象のあった前2作に比してエレクトリックな楽器の(特にベン・モンダーとトレヴァー・ダンの放つ)歪んだ音色の存在感が強く、トーンの落ちた重い雰囲気が前面に出ています。

Pi Recordingsの作品ページの解説には本作の影響源が多く挙げられているのですが、その中でも目を引くのがメタルのバンドで、具体的にはMeshuggah、Burning Witch、High on Fire、Gorguts、初期のMetallica、Wormed、Confessorが挙げられています。本作の歪んだ音色の多用はこの辺りを参照としたものと見てよさそうです。

 

 

本作において音楽はすごく大雑把にいってMbase的なフレーズのズレであったり、インド音楽のビートサイクルを取り入れたものと思しきリズムの掴み難さ、面白みに主眼を置いた部分と、前述のような歪んだ音色を用いたメタル的な場面から成り立っていて、それらが④では前後半でハッキリと区別されたかたちで、⑤では混ざり合うように提示されたりするのですが、どちらにせよメタル的な場面であったり音要素が自分にはダン・ワイスの音楽に以前からあったリズムのドープさみたいなものをより増幅させるかたちで作用しているように聴こえ、そこが本作の一番の旨みであるように感じました。層の多さや複雑さといった面では以前の作品に劣るかもしれませんが、いちプレイヤーとしてダン・ワイスが叩きだすリズムに関してはその魅力(一音一音の音の重み)がよりずっしりと響いてくる印象です。これは自分がロックなども聴く人間だからかもしれませんが、メタルなどの影響を大きく取り入れた結果彼の音楽のグルーヴミュージック的側面がこれまで以上に素直に入ってくるような感覚があります。

他のメンバーの演奏に関して特に耳を引くのはベン・モンダーの存在でしょうか。リフを奏でる場面もありますがそれよりも楽曲のリズム構造に深く関わることはせず文字通り浮遊したような演奏をソロ的な扱いで披露する場面が印象的で、そこでの演奏は時折浮遊系と称するにはかなり暴力的なことになっていて本作における極上のアクセントとして機能しています。

本作のメタル的な場面では複数の楽器が変拍子の複雑なリフをユニゾンで奏でることが多く、直線的(単線的?)に疾走するような印象があるのでこの辺はジャズ的なグルーヴに耳が馴染んだ方には賛否わかれるところかもしれません。自分としてはこういった場面の演奏はリフの複雑さだったりそのストップ&ゴー的な連結の仕方だったりからメタルっていうよりマスロックに近いように聴こえました。特にラストの⑧は全編その方向性で押し切ってくる曲なのでマスロック好きな人には無理やりこの曲だけ聴かせてみたいところです。

 

 

 

本作の影響源としては他に電子音響音楽(Karlheinz StockhausenBernard Parmegiani、Luc Ferrariなど)、Sidney BechetからHenry Threadgillまでのあらゆるジャズ、テレビ番組「Twin Peaks」の第3シーズンなどが挙げられています。電子音響に関しては⑥の終盤や⑦の冒頭だったりで特に面白い音が聴こえますね。