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リリース情報:Shuta Hiraki『The Blessing From Wiring』

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日本のレーベルUnfinished Houseより新作『The Blessing From Wiring』がリリースされました。

bandcampでのデジタルリリースのみでの販売になります。

 

Nord Modular G2のみを使用して制作したドローン作品です。

2018年11月と2019年1月のライブでNord Modular使用した際に用いていたパッチを基礎に改良を加えいくつもテイクを録った中でいいものを繋げたり重ねたりして作っています。

パッチ作成の際にはLa Monte Young、Eliane Radigue、Yoshi Wadaなどのドローンの古典的名作をよく聴き研究していました。なのでこれらの作品の影響は少なからず出ていると思います。

録音期間は2018年11月から2019年2月。

 

マスタリングはレーベルのオーナーでもあるUeda Takayasuさん。

購入特典として旅する批評誌『LOCUST』の編集長であり批評家として活動されている伏見瞬さんによる作品についての論考(PDFファイル)が付属します。

単純にどう聴かれるのか興味があり、こちらからお願いし自由に書いていただきました。作者としては記されている全てが制作時に私が考えたことに合致するわけではありませんが、うなずける部分からそういう風に聴こえたり感じたりするのかと驚いた部分など、どれも興味深いものでした。作品について思索をする手助けにもなると思いますし、是非とも読んでいただきたいです。

 

 

 

 

今月のお気に入り(2020年3月)

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〈新譜〉

・Carl Didur『Natural Feelings Vol I』

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レビューはこちら

 

・Shuta Hiraki『Voicing In Oblivion

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・赤石拓海『Memoria

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・Beatrice Dillon『Workaround』

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・JNKMN『JNKMN NOW』

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Jóhann Jóhannsson『Last And First Men』

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・Roger Tellier-craig『Études』

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・Jasmine Guffond『Microphone Permission』

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・Yosuke Tokunaga『13 Monotonousness』

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・Yu Kawa Shizuka『minamiarupusunotennensui』

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レビューはこちら

 

・Emmanuel Holterbach & Blutwurst『Ricercar nell'ombra』

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・D Smoke『Black Habits』

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・Leo Okagawa『Ulysses』

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・Jason Lescalleet『The Tunnel at the End of the Rainbow』

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・Akito Tabira / Shuta Hiraki『Sprout and Phantom - 芽と幻』

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・John Also Bennett『Music for Save Rooms』

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・Orphax『Live in your living room』

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・5lack『この景色も越へて』

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〈旧譜/再発〉

・Marginal Consort『08.09.13』

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・Stefan Fraunberger『Quellgeister#3 Bussd』

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レビューはこちら

 

・Luc Ferrari『Hétérozygote / Petite symphonie…』

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・Luc Ferrari『Photophonie』

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・Joe Frawley『13 Houses and The Mermaid』

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・Joe Colley『No Way In』

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レビューはこちら

 

・Joe Talia『in/exterior』

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・Grace Cathedral Park『Grace Cathedral Park EP』

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・Sverre Larssen『Wind Harp Recordings (1976-1977)』

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・Ragnar Grippe『Sand』

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・Hiroshi Yoshimura『Green』

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リリース情報:Akito Tabira × Shuta Hiraki『Sprout and Phantom - 芽と幻』

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長崎を拠点にDJやライブ、パンクバンドのサポートや電子音楽の制作など多彩に活動されているAkito Tabiraさんとスプリットアルバムを制作しました。

Akito Tabiraさんのbandcampでデジタルアルバムのみでのリリースになります。

「異なる要素の共存」というテーマをそれぞれのやり方で表現した全4曲。

アンビエント的な音ですが小気味いい変化があって一枚のアルバムとしてもいい流れのある作品になっていると思います。

フル試聴、購入など是非ともよろしくお願いします。

 

以下は私の曲について。

3曲目は昨年リリースされたAkito Tabiraさんのトラック「Undulation」に自作の曲の断片を重ねたリミックス的なものです。

4曲目はある単語から膨らませた想像をベースに昨年末に導入した機材や最近の試行錯誤を合わせて曲としてまとめてみた感じです。タイトルSpirit Sinkはそのある単語をグーグル翻訳にかけたものです。曲聴けばもしかしたらわかるかもしれません。

 

 

 

 

 

リリース情報:Shuta Hiraki『Voincing In Oblivion』

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 スペインのアンビエントレーベルRottenman Editionsより新作『Voicing In Oblivion』がリリースされました。

 

母親が物置に放置していたレコード、長崎音浴博物館所蔵のSP盤やそこに手入れされず置いてある複数のアップライトピアノ、海沿いの道や井戸の近くなどの水辺の土地でカセットレコーダーを用いて録ったフィールドレコーディングを主な素材に物語性のあるコラージュといったイメージで制作したアルバムです。用いたレコードはクラシック音楽、日本の伝統音楽や和楽器を用いた録音作品が中心です。

制作期間は2019年4~7月。

 

ハンドメイドのコラージュを含むCDとデジタルアルバムで購入できます。

フル試聴もできますので是非チェックしてみてください。

CDは私のほうでも手元に届き次第こちらで販売する予定です。

 

 

 

 7/10 追記

BASEでCDを販売開始しました。よろしくお願いします。

https://retonal.thebase.in/items/31287440

 

今月のお気に入り(2020年2月)

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サブスク参入が嬉しすぎてDragon Ashばかり聴いていました。

 

〈新譜〉

・Ulla『Tumbling Towards a Wall』

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・Will Guthrie『Nist Nah』

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・Steve Beresford & John Butcher『Old Paradise Airs』

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・Against All Logic『2017 - 2019』

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・Jennifer Curtis & Tyshawn Sorey『Invisible Ritual』

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・Charles Curtis『Performances & Recordings 1998​-​2018』

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・Melaine Dalibert『Anastassis Philippakopoulos: piano works』

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・Rafiq Bhatia『Standards Vol. 1』

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・Thomas Köner『Motus』

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Tim Berne's Snakeoil『The Fantastic Mrs. 10』

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〈旧譜〉

・Machinefabriek『Stillness Soundtrack II』

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・ISSUGI『GEMZ』

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・Carl Michael von Hausswolff『Addressing the Fallen Angel』

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・Thomas Méreur『Dyrholaey』

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・Keller Quartett『Ligeti: String Quartets / Barber: Adagio』

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・Rhodri Davies『Over Shadows』

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・Anna Webber's Simple Trio『Binary』

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・Danial Schmidt『Abies Firma』

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・『Microtonal Works by Partch, Cage, Labarbara, & Drummond』

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MerzbowSphere

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BEST OF 2019

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 2019年の年間ベストです。ジャンルなど関係なく30作選び順位を付けています。

テーマなども特にないのですが、どれを入れるかや順位で迷った場合は以前から好きだったアーティストの場合は過去の作品を上回る価値を感じるかやそのキャリアの中で重要な作品だと思えるかを考えて、その作品で初めて知ったもしくは魅力がわかったというケースのものが持つ衝撃度と比較判断するみたいな感じで選びました。

作品名の後に○がついているものは上半期ベストでも取り上げた作品で、それらの作品については印象に特別な変化がない限りは感想は同じ内容を使いまわしたり、書き直すにしても短めにまとめてあります。

アートワークの画像には試聴や購入ができるページのリンクを貼っているので、気になったものは是非クリックしてみてください。

サブスクで聴けるものは末尾のプレイリストにまとめてあります。

 

  

 

30~21

30. Steve Lehman Trio + Craig Taborn『The People I Love』

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ジャズ。NYを拠点に活動するサックス奏者スティーヴ・リーマンの作品。2012年にアルバム『Dialect Fluorescent』をリリースしていたMatt Brewer、Damion Reidとのトリオに、Craig Tabornをゲストとして加えた編成での一作。『Dialect Fluorescent』でも約半分がメンバー以外の作曲を取り上げたカバーでしたが、本作でもAutechreKurt Rosenwinkel、Jeff "Tain" Watts、Kenny Kirklandの曲が演奏されています。また自作曲に関してもうち2曲はSteve Lehman Octetで既に演奏されていた曲なので、新曲と言えるようなものは2、3曲目の2つと少なめ(1、5、10曲目は短い即興みたいな感じ)。しかしその2曲がこの人たちの演奏におけるリズム解像度の高さをビンビンに感じさせるやつで本当に最高。もちろん新曲もっと聴きたかった~という欲を抜きにすれば他の演奏もそれぞれにめちゃくちゃスリリング。演奏の中でそれぞれがどういうグリッドや枠組みで音を発しているのか掴めない時間が多いんですが、にも関わらず(むしろだからこそ?)それらの絡みにすぐに自分の手をすり抜けていってしまうような危うい魅力を感じます。Steve Lehmanのリーダー作という意味では前作と前々作にあたる『Sélébéyone』と『Mise en Abîme』があらゆる意味で傑作という凄すぎる作品だったので今作は割とライトな佳作という風に感じてしまうんですが、これをそんな風に感じさせてしまうこの人のディスコグラフィーのヤバさ……。

 

 

29. billy woods & Kenny Seagal『Hiding Places』

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ヒップホップ。ブルックリンのラッパーであるビリー・ウッズとロサンゼルスのプロデューサーであるケニー・シーガルによるコラボレーション・アルバム。不穏さ7 : メロウさ3 くらいな音使いに歪んでるけど図太いグルーヴを感じさせるビートといいラップの声質といいCannibal Oxとか思わせるものがあってたまらんほどかっこいい。そういう意味では緊張感と同時にどこか懐かしさを感じられるサウンドでもあったり。一方で先人達とは異なる何かだったり、またはそこにクオリティ的に差をつける要素があるかというとちょっと疑問だったりもするんですが、新作でこういう音はしばらく聴いていなかったので新鮮には聴こえました。4曲目辺りからの流れがかっこいい。④、⑦、⑪特に好き。

 

 

28. Kali Malone『The Sacrificial Code』

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ミニマルな作曲作品。スウェーデンストックホルムを拠点とする音楽家Kali Maloneによる、シンプルなオルガンの演奏をCD3枚組に渡って収めたアルバム。今年いい作品が多かったオルガンを用いたドローン的な作品の中でも最も多方面から高く評価されたのが本作でしょう。音楽の成り立ちを見るとドローンに分類するのには疑問符がつくようにも思いますが、そこから得られる感覚から多くのドローン・ミュージックを、それを聴く時の感覚を相対化して捉えさせる作品ということができるのではないかと思います。(詳しいレビューはこちらにあります)

 

 

27. Barrio Lindo『Fulgor』

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スロウ・テクノ/エレクトリック・フォルクローレブエノスアイレス出身で現在はベルリンを拠点に活動しているプロデューサー、バリオ・リンドの作品。民族楽器などのサウンドを織り交ぜたテクノ・トラックも、そこにボーカルが乗るフォルクローレ(?)色の強い楽曲もどちらも素晴らしくかなりハマりました。Voodoohopなどに連なる民族音楽とクラブ要素の混成みたいな音楽性は以前から興味あったもののアルバムといったかたちでは愛聴するものを上手く見つけられずにいたんですが、これはめちゃくちゃしっくりきました。

 

 

26. Dos Monos『Dos City』○

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ヒップホップ。日本の3人組グループのデビュー作。フリージャズからフランスの映画?まで用いたアブストラクト、と思いきや結構律義にグルーヴは外さないトラックに、ゴツゴツとしたフロウとライミングで入り組んでんのか入り組んでないのかよくわからんリリック吐き出すラップが乗るカルチャー闇鍋みたいな一作。トラックもリリックもネタ選びでわざとらしくかつ周到にスノッブ臭醸し出してる策士感とともに脳内ぶちまけただけみたいな本能性も感じられて、歪でスリリングなバランスで成り立ってる感じが本当にクール。全編やたら快楽性の高いアルバムですが特に荘子itのラップのネームドロッピングのセンスが反則級で、“アンドロイドが見た電気羊の夢”から“諸葛亮”~“内田裕也”~“ドストエフスキー”まで強引にねじ込む「マフィン」とか脳汁ドバドバもので何度聴いても興奮してしまいます。

 

 

25. AGI Yuzuru『Bricolage Archive: 2』○

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ブリコラージュ/DJミックス。音楽評論家、編集者、オーガナイザーなどとして多くの功績を残した阿木譲が自身で立ち上げたスペースenvironment 0gで度々行っていたブリコラージュ・パフォーマンスのアーカイブ録音集。2014年の前半の録音を4つ収録。ご本人が亡くなられてまだあまり時間が経っていないので、タイミング的にどうしてもある種の重みを帯びてしまう作品ではあるんですが、少なくとも聴いてる間はそういった出来事に関する感情はほとんど浮かんでこない、バッチバチに鋭利な感性と美意識に貫かれたコンクリートの壁の鼓動のようなエクスペリメンタル~テクノ・ミックス。特にDemdike StareなんかのModern Loveの音源がハマりまくっててこのミックス中で聴くといつにも増してクッッソかっこいい。スタイリッシュというのは割合気軽に用いられる形容かもしれませんが、それをあり得ない程の意思と強度で追い求めた先に出てきた表現物。聴くたびにいつも気力のようなものをもらえます。

*今回のCDとは違う内容ですが参考にyoutubeにある阿木譲のブリコラージュの動画リンクを貼っておきます。

https://youtu.be/dCb2EFXw8DQ

https://youtu.be/bNlIPdaefMY

 

 

24. Larry Ochs, Nels Cline, Gerald Cleaver『What is to Be Done』○

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フリージャズ/インプロ。とにかくNels Clineこんなやべーギタリストだったのか!っていうそれに尽きる一作。

 

 

23. Solange『When I Get Home』○

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R&Bアンビエント(?)。2019年特に広く話題になったアルバムのひとつ。断片集のような佇まいの作品で、ヴァース~コーラスの繰り返しのようなお馴染みの構成をしっかり描く前に次へ移ったり、またあるパートを繰り返すにしてもそれはしっかりと法則やより巨視的な構造へ意識の中で素直に落とし込みにくい回数で行われたりと、全体の輪郭や像を結ぼうとするこちらの思惑を逃れていくような仕掛けが施されています。多くを語らない素っ気ないトラックに乗る歌も、ハミング的な軽やかに流れていくフィーリングを第一に感じさせながらも、その実かなり技術的に高度な繊細な抑揚でそれを表現していて、ザックリとしているようで意外と(?)細かな部分でのこだわりや作り込みを経てこのかたちになったのかなあと。音楽自体が目の前を人や意識が通りすぎることを受け入れているような、他への干渉より自己の空間や時間を慈しむような情感で満たされていて、結果的にアンビエント的な聴取も可能な仕上がりになっているのが個人的にめちゃくちゃ気に入りました。私は音楽に対して感性の反射神経がかなり鈍い人間なので、今は好きな作品でも初めて聴いた時はよくわかんないとか、自分が好きか嫌いかの判断すらうまく付けられないなんてのがザラで、故に聴き込んでいくことで価値や聴きどころの焦点が絞られていくような感覚を特に大事にしてるんですが、これに関しては今思えば初聴時の構成が掴めないが故に感じられた音楽が現れては消えていくような感覚が最も作品の核に触れる聴取体験だったのかもという気がします。一人のリスナーとしては繰り返し聴くことで“覚えてしまう”ことがなんだか惜しく感じられるような、決して印象を書き留めず上澄みを軽く触れるような接し方をいつまでもしていたいと思わせられるような、これまであまり感じたことのない欲求を喚起させられる作品でした。

 

 

22. William Basinski『On Time Out of Time』○

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主にアンビエントの系譜で語られることの多いNYのアーティストの新作。“13億年前の二つの離れた巨大ブラックホールの合体音を捉えたLIGO(レーザー干渉計重力波観測装置)の干渉計からの音源記録を利用したもの” と何やらヤバそうなキャプションがついています。バシンスキーの作品では音楽家としてのバシンスキー個人の姿というのは、まるで滲みや汚れや擦れの堆積した古い写真の中で見るように、時間や何かしらの障壁を経て変形/抽象化されたかたちでしか認識できない感覚があったんですが、本作に関しては本人がシンセを弾いている姿がかなり素直に浮かんでくる仕上がりで、故に異質で評価の分かれる作品なのではないかと思ったりします。自分としてはとにかく冒頭から10分くらいの低音や打音、チリチリとしたノイズっぽい高音、そしてそこに入ってくる中音域のシンセといった辺りのサウンドが好きすぎて、それだけで重要な価値を持つ作品になってしまったという感じでした。特に前半部では固定的に鳴り続けるサウンドの扱いにとても惹かれるものがあります。

 

 

21. Axel Dörner / Toshimaru Nakamura『In Cotton and Wool』○

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即興演奏/ノイズ。多彩な特殊奏法を駆使するドイツ出身のトランペット奏者アクセル・ドゥナーと、ノー・インプット・ミキシング・ボードを用いる日本人演奏家中村としまるのデュオ作。元々その特殊奏法によって多彩なノイズ的音響を発することを得意としていたアクセル・ドゥナーですが、本作では近年試みているラップトップによるトランペットの音の即時加工も用いています。両者の(プロセスは全く異なれど)電気を用いた発音が高速で行き交う場面が多く、めちゃくちゃフレキシブルなノイズ・セッションといえそうですが、鳴っている音は紛れもなくノイズであっても爆音ハーシュ的な表現とは異なりエグさより機微に耳が向くところが何気にもの凄く巧み。この速度感で音発しててこの感じにはなかなかならないでしょう…。アクセルのトランペットの音が音色を加工されていない状態で聴こえてくる場面も随所にあるんですが、そういった場合でも定位の操作は加えられているということが珍しくなく、すべての響きを一度電気を通した状態でステレオ上にマッピングし扱うような意識があるようにも聴こえます。どちらか一方でもアコーステック楽器をそのまま鳴らすスタイルを取っていればそのセッションはその楽器が本来鳴らしていた音量で再生することで “本来の演奏” の近似値が得られると考えられそうですが、本作に関しては演奏の “あるべき音量” について演奏家本人らがどのように想定しているのかが聴きながら気になってきました。ある意味アコースティックな響きを間接的に介在させながらも “演奏の本来の音量” を無化する演奏のようにも思えるような…。2019年はインプロ系の音源を聴くことはあまり多くなかったんですが、中村としまると管楽器奏者の共演作はこれとか合わせてよく聴いていました。どれも信じられないほどかっこいいんでおすすめです。

 

 

20~11

20. Meitei『Komachi』○

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アンビエントエレクトロニカ。広島在住の作曲家によるデビューアルバム。「the lost Japanese mood」がコンセプトで活動し、怪談のサンプリングを用いるなどしているようですが、本作ではわかりやすく奇怪な音使いが前景化したり語りの音声が現れる場面はなく、とても心地よく、安らげる音楽です。基本的には柔らかさやチャーミングさを感じさせる音色と音階のループフレーズを基調として、小節ごとに明確にシーケンスの変化や抜き差しがあるテクノ~エレクトロニカ的な成り立ちの音楽だと思うんですが(そういう音楽をしっかり作っていたキャリアとかありそう)、聴き心地はハメるっていうよりフワ~っと流れていく感じのほうがだいぶ強くてとてもアンビエント。くすんだ感じのローファイともいえるようなサウンドの手触りがかなり独特でどういう機材で作ってるのかとても気になる。推測ですが、今作においては怪談のサンプリングとかもわかりやすく異物感やある種のエキゾチックさを出すためというより、そういうローファイなサウンドに紛れ込ませて微かに独特な“ムード”を付すような用いられ方がされているのかなーと。テクノやエレクトロニカ的な技法による音楽でありながらフワフワと漂うようなアンビエント感を見事に表現している音楽という意味では個人的はsora『re.sort』(ド名盤)に非常に近しいものを感じました。そういえば『re. sort』は夏の夜に聴くのが最高なんですが本作もそんな感じしますね。これは正に怪談的。といえるか(?)

 

 

19. Caterina Barbieri『Ecstatic Computation』

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電子音楽。シンセと声を用いるイタリア出身の女性音楽家の作品。彼女の作品はこれまではドローン寄りの作風(特に最初の『Vertical』ってアルバム)の印象が強かったんですが、今作はアルペジエーターによる機械的な反復と変容を主要素としたような作風へ。最初聴いた時はちょっと自分の好みからは離れてしまったかなーと思ったんですが何故か繰り返し聴いてしまう魅力があっていつの間にかかなりハマってました。なんというか聴く時によって、特定の信号の繰り返しが徐々に抽象化されどこかのタイミングで原型が再現されるみたいな展開にクラシック的な構造の美しさ強固さを感じることもあれば、その反復の要素が一寸先には崩れ去っていそうな酷く頼りなく信頼できないものに感じられたりもして、そういった印象の差異が何度聴いても飽きることのない新鮮さやスリリングさに繋がっているように思います。音の重なりや変化の様相にも、用いられる音の質感にも、割れて曇った鏡を通して絵を見せられているような “ゆがみ” や “粗さ” の感覚が聴き取れるんですが、それがすごく美しいものとして響いてくるあたりはAndy StottやDemdike Stareなどに通じるものを感じたりもします。(単純にアルバム再生して最初に聴こえてくる音とか彼らが出しそうな感じありません?)

 

 

18. Taku Sugimoto『Guitars』

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 現代音楽。日本のギタリスト/作曲家である杉本拓の作曲作品をロシアの3人のギタリストが演奏したアルバム。1、3曲目がソロのための作品で2曲目がトリオのための作品。微分音というか独自の調律による簡素な爪弾きが続く1曲目がとても好き。和音の個々の音がそれぞれに空間に滲み、それらが溶け合いながら消えていく推移のうちから、音が少し膨張するような、または伸びるような感じで倍音が聴こえてきたりする。ような気がする。とても美しい。

 

 

17. Christian Lillinger『open form for society』

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ジャズ。ドイツのドラマー/作曲家Christian Lillinger率いる9人編成のユニット作品。彼は2018年にリリースした『C O R』も素晴らしかったですが、本作もそれに連なる、音響やフレーズをモザイク状に配置していくような手腕が感じ取れる作品になっています。各楽器の音が点的にというか、分離して個別に耳に入ってくるような感覚がある一方で不思議な一体感があり、デコボコとしていながらも美しさを感じさせる抽象画を連想させるような、不思議な快楽性を持ったアンサンブルを構築しています。ドラム、ベース2本、アップライトピアノ、ピアノ、シンセサイザーヴィブラフォン、チェロ、マリンバというなんとも想像のし難い楽器編成なんですが、これらのサウンドがわかりやすく重奏という形容が当てはまらないようなかたちで噛み合わされることでこんなクールなサウンドが立ち表れるのか!っていう驚きがあります。サウンドを空間に配置していくことで徐々に音楽を組み上げていってるような感触もあってその辺の手つきは少しミュージック・コンクレート的なものも感じさせるような。また、これはツイッター上で繋がっている亡霊さんという方のツイートで気付かされた部分なのですが、Christian Lillingerのドラムの音色はサンプリングの質感をセッティングの創意工夫で再現したような、わかりやすく言うならChris Daveを思わせるようなものであり、グルーヴが前景化する場面がそれほど多くない中でこのサウンドを用いているところに目新しさが感じられます。ビート・ミュージックのエッセンスもラージ・アンサンブルの要素も見出せるけどそのどちらとも違う聴き心地を持った異形な一作。

 

 

16. Joshua Sabin『Sutarti』

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電子音響/アンビエントスコットランドエディンバラを拠点とするサウンドアーティストJoshua Sabinが、リトアニア音楽アカデミーが所蔵する民族音楽アーカイブを研究したうえで、その音源や影響を取り入れ制作した作品。彼は研究の中でリトアニア民族音楽の音楽形式の一つであるスタルティネスの “複数の声が意図的に衝突して、非常に正確な不協和音と聴覚的な 「鼓動」 現象を作り出す” 部分に共鳴を感じたそうで、本作でも音程のベンディングなども巧みに用いることで音がこすれ合うような和音を生み出す場面が多く表れます。また 「鼓動」 に関しても、打楽器的なサウンドでそれを強く印象付けるような場面だけでなく、持続的な音が表れる/消える際の強弱のニュアンスや、そのゆったりとした抜き差しからも(自分の言葉にするなら)呼吸感のような感触でそれが伝わります。そのような要素が結実してか、全体的に冷たさや不穏さを感じさせる音使いが多くインダストリーと表現していいような歪んだサウンドも表れる作品でありながら、そこからは音響的なスタティックさや工業的な世界観は感じられず、薄暗い森の重たい空気や動物の鳴き声や呼吸音の反響みたいなイメージで響いてきます。電子的な音の生成、操作によって形作られている音楽ですが、音の強弱のニュアンスにアコースティック楽器や声からの影響を如実に感じさせる豊かさが感じられるという点は近年のジム・オルーク電子音楽作品に通じるものがあると思いますし、また階段上の音程の積み重ねだけでなくそのグリッドを横切ったりフローティングするような音(例えばベンドする音)の存在によって、冷たい音使いの中にもある種のオーガニックさや “生き物” 感を忍ばせる手つきはJóhann Jóhannssonが担当した『Arrival (邦題: メッセージ)』のサウンドトラックにも近しいものを感じました。これらの例に挙げた作品どれもが自分が近年強く惹かれた作品であるので、当然ながら本作もめちゃくちゃ気に入りました。

 

 

15. Ecker & Meulyzer『Carbon』

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エレクトロニック/ジャズ(?)。ベルギー出身で現在はベルリンを拠点に活動する電子音楽家Koenraad Eckerと、ジャズやサイケデリックロックのバンドなどで活動するベルギーの打楽器奏者Frederik Meulyzerの共演作。この2人はこれまでにStray Dogsというデュオユニットでの活動歴があってアルバムも何枚か出してるんですが、本作ではなぜか名義が変わってます(検索しにくいから?)。音楽性はStray Dogsからストレートに地続きな感じで、Eckerの発する不穏な電子音とMeulyzerのアブストラクトすぎない反復性のあるドラムの絡みからダークな世界観というか何かの映画の中での儀式の場面が想起されるような、情景描写的な音楽となっています。Meulyzerのドラムはめちゃくちゃ込み入ったパターンを叩くというわけではないんですが、ポリリズムの折り込み方がいい感じに効いてるパターンが多くてそれに加えて強弱の付け方が巧みなのか同じパターンをずっと叩いていても印象が平坦にならない感じがすごくいい。また音楽性はStray Dogsから地続きと書きましたが、本作では打楽器の録音の質感と電子音のリバーブのニュアンスから生まれる空間イメージがすごく魅力的で、この点が作品の完成度を数段上げてるように感じます。人気のない広い地下空間を思わせるような冷たい空気感と、鼓動や足を踏み鳴らす音のようにも聴こえるリズムによって、ダンスというよりも舞踏と表現したくなるような妖しくヒプノティックなイメージがバキッと仕上がってて本当にかっこいい。広い空間で強固なシステムで鳴らしてみたいと思わせるサウンドという意味では近年のRafiq Bhatia『Breaking English』やJeremiah Cymerman『Decay of the Angel』などと近いものも感じました(音楽性はそれぞれ違います)。

 

 

14. Bill Orcutt『Live In L.A.』

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電子音楽/アヴァン・ミニマル。ノイジーなブルースまたは即興のギタリストとしてのイメージが強いアメリカの演奏家Bill Orcuttによる電子音楽のライブ録音。彼の電子音による演奏は過去の作品でもいくつか聴いたことはあったもののあまり惹かれないって感じだったんですがこれはヤバかった。歪んだ音質でアルペジオの反復みたいなのが変化しながら複数走るハードなトリップミュージック。決して綺麗ではないロウな録音も見事すぎるくらいに音の快楽性を増す方向に作用してて32分間ひたすら最高な気分になれます。マジで最高。演奏に関しては “Cracked” っていう自身で開発したノイズ演奏プログラムを使っているようです。

 

 

13. Kris Davis『Diatom Ribbons』

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ジャズ。カナダ出身でニューヨークを拠点に活動しているピアニストKris Davisの作品。彼女はMary HalvorsonやIngrid Laubrockなど共演の多い音楽家の中でも近年評価の高まりが著しい印象があり、本作も様々なメディアの年間ベスト的な記事でよく見かけました。多くの音楽家の参加が表記されていますが、その全員が一つの曲に同時に参加することはなく、基本的にはKris Davis、Trevor Dunn(ベース)、Terri Lyne Carrington(ドラム)のトリオに曲によって1~3人がゲスト的に加わるといった成り立ち。ゲスト的な奏者たちの人選も面白く、曲によっては互いになかなか共演することがなさそうな組み合わせが実現したりしています(Esperanza SpaldingとTony Malabyなんてそう実現しなさそう)。内容もそのような人選の妙を反映してか、これぞコンテンポラリー・ジャズって感じの創意工夫が凝らされた形式を持つ①、エスペランサの歌をフィーチャーした比較的柔らかい雰囲気の②、DJのエフェクティブなサウンドや声を用いた実験的な印象の④や⑦、真っ向からフリーな演奏をかます⑨など音楽性に結構幅があります。それでいてアルバムとして聴いた時に流れに違和感を感じるといったことはなく、そこから音楽的な多様性やバランスを考慮しながら一つの作品を形作るといった面でのKris Davisのディレクション能力の高さが伺えます(これには全ての曲でスマートで地に足のついた演奏を披露しているTerri Lyne Carringtonの貢献も大)。思えば彼女の2016年作『Duopoly』も活動領域や音楽的方向性の異なる様々な奏者とデュオ演奏をしつつトータルでの聴き心地も素晴らしいという仕上がりでしたし、本作にもどこか繋がる部分があるように感じます。このような創作でしっかりクオリティがコントロールされた作品を出せる音楽家は多くないですし、それができる彼女は今後もきっと素晴らしいものを出してくれるだろうと確信させられるような一作でした。

 

 

12. Leo Svirsky『River Without Banks』

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クラシカルなアンビエント。ワシントン出身でオランダのハーグを拠点に活動している作曲家Leo Svirskyの作品。2台のピアノを左右に配し、それらがディレイで響き合うようにそう長くない単位の作曲フレーズを繰り返し演奏していくといった成り立ちの楽曲が収められています。同じフレーズの反復が基調となるスタイルですが、その演奏は表れる度に微妙な時間の伸び縮みをニュアンスとして持っており、そこが非常にクラシック的な素養というか演奏感覚を感じさせます。そしてそれが左右から響き合うように鳴らされることで非常に魅力的な音の揺らぎが表れていて、クラシックピアノの持つ音色のテクスチャーから優しい肌触りの部分のみを抽出しそれに包まれるような心地よさを感じます。弦楽器、管楽器、打楽器などの音色も曲に少し彩りを足すようなかたちで一つ一つ丁寧に扱われていて、時間経過の中で過度に耳を引くような変化は避けられ、人間的な呼吸感を持って続いてゆく音のたわみや揺らめきに安心して身を預けることができます。ロッキングチェアに乗った経験がしっかり記憶にあるわけじゃないですが、なんかかけているとそれに通じる心地よさを感じる作品で、寝る時にかけとく音楽としてもとても重宝しました。

 

 

11. Lifted『2』

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エレクトロニック/クラブ/ジャズ。Max D、Motion Graphics、Co Laによるユニットの2作目。メンバー個々の作品はあまりしっかり聴いたことがなく(強いて挙げるならCo La『No No』は好き)、ユニットの前作『1』も恥ずかしながらこれが出た時点では未聴でした。なかなか特定のジャンルにきっちり収まってくれない音楽ですが、何か挙げるならアンビエントフュージョンというのが最も適切か…。それに加えメンバーが個々の作品で聴かせるレフトフィールド・ハウス由来なちょっと奇抜かつキャッチーな音色の多様と、それぞれが奔放に音を発し合っているようなシンセ・ジャム的フィーリングが強く出ているのが特徴かなと思います。前作『1』では特定のリズムパターンが楽曲の進行をリードし、そこからの逸脱がアクセントとなる作風が多い印象でしたが、今作では楽曲の骨格となるリズムなりフレーズなりが最初からより分解/断片化されたかたちで鳴らされることが多く、抽象性が増していると感じました。ゲスト奏者の参加も多く、特に管楽器が入る②、⑤、⑥辺りは直接的にジャズな聴き心地があります。また他の曲でも即興的に発せられるフレーズの背景として曲やリズムパターンが機能している感触があって、こういった成り立ちはジャズ的といえるかなと。ただし演奏の中で個々が発するフレーズの間には例えばソロと伴奏のようなわかりやすい関係性に収まることはあまりなく、かといって緻密に練り上げられた対等なアンサンブルみたいな感じでもなく、緩い連帯のような塩梅でずっと漂っているのがとても面白いところです(“フローティング”って形容がよく似合う音楽だなと思います)。シンセ奏者の割合が多いためかフレーズを奏でるというより飛び道具的な音色が演奏に介入してくることも多く、特に①や②ではそれがとても効果的に活かされ、アコースティックな楽器演奏では生み出すことが難しい継ぎ接ぎアンサンブル感が生まれてるのも楽しい。

 

 

10~1

10. Tim HeckerAnoyo』○

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雅楽を取り入れた電子音楽アンビエント。『Ravedeath, 1972』辺りから嫌いではないんだけど何故かハマり切れない作品が続いてちょっと苦手意識すらあったティム・ヘッカー、前作『Konoyo』はどうにも掴み切れない感触は相変わらずあるものの結構いいかも(?)みたいな感じだったんですが今作でようやくというか、確信を持っていいと思える作品きました。雅楽って自分的にはすごく独自のアンビエンスを持った音楽であるもののそれはいわゆるシンセサイザーなどを中心として作られるアンビエント・ミュージックとは傾向が全然異なるものってイメージがあって、例えば雅楽は柔らかさを感じさせる中音域を(倍音としてはともかく)直接的/恒常的にはあまり鳴らさずに高い音域へ伸びていく笛や笙の倍音やノイズでアンビエンスを感じさせる一方で、シンセ・アンビエントなどは中音域に表現の旨みがあるものが多いんじゃないかとか思うわけですが、今作はその辺りを互いが補える部分としてパズル的に組み合わせたり、雅楽の楽器を普段あまり鳴らさない中音域に落とし込んでシンセに溶け込ませたりといった工夫で緊張感と安らぎがいい感じのペース配分で訪れる一遍のアルバムにできてると思います。アルバム全体で見た時に雅楽然とした音域のバランスの音楽がドーンと提示されるのが2曲目や5曲目なのかなと思うんですが、例えば5曲目の前半でおそらく雅楽の楽器の響きを殺さない意図もあって低い音域に潜る電子音が、サウンド全体という視点で果たして上手く馴染んでいるかというとちょっと疑問に思えたりもして、他にもいろいろな部分で立ち上がってきたであろう難しさを想像させられたり。ラストである6曲目の前半とかはその辺りかなり上手い落としどころに思えて、素直に美しさを感じました。個人的に雅楽だったり、他の国や地域の伝統音楽は少しずつ興味が出てきてる分野だったので、本作はそういった関心を自分にとって身近なところからドライブさせてくれる作品となり、いいタイミングで巡り合えたなと思います。

 

 

9. Grace Cathedral Park『Grace Cathedral Park』

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都内を中心に活動するドラムレス編成(ギター、ベース、ボーカル&キーボード)の3人組バンドの1stアルバム。女性ボーカルが歌う親しみを覚えるようなメロディーを空間系多用のサウンドで包み込んだ音楽。ギターを中心としたアンビエント的とも形容できるようなサウンドは例えば4ADのバンドだったりいろいろなバンドの影響が思い浮かぶ類のものではあるんですが、オーバーダビングなどアレンジにおける足し算的な思考が抑えられていて一音一音が空間に滲んでいく様をしっかり感じさせるような「間」があること、それを実現するゆったりとした演奏感覚にとても惹かれました。ボーカルの歌がある時間においては(空間系の使用により音の不足感こそないものの)楽器演奏は非常にシンプルであることが多く、めちゃくちゃ曲に自信あるんだろうな~っと思わせられる潔さ。それに後述するメロディーの魅力が合わさって、自分にとっては曲が自然に聴き手に染み入る空間を実現させた歌ものの作品としてすごく強度を感じる仕上がりです。そういう意味ではRopes『dialogue』に通じる価値を持つ音楽だなと思いますし、自分にとってそれと同様に長く聴き続ける作品になるかもしれません。メロディーに関しては初めて聴いた時にその音の動きの数々にクリシェ的なものを多く感じつつも不思議と再生を止められず、以降何度か聴くうちにクリシェ的という印象も剥がれ落ちて、親しみ深さや懐かしさを覚えるポジティブな印象に転じていきました。歌詞の端々からも感じられるものですが、「幼心に見た風景」みたいなテーマが淡く思い浮かぶようなアルバムだなと。個人的に外から聞こえてくる子供のはしゃぎ声と合う音楽って好きなんですが、これは今まで聴いたことある音楽の中でもちょっと例がないレベルで合います。

 

 

 8. Anna Webber『Clockwise』

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アメリカのサックス奏者/フルート奏者/作曲家Anna Webberの作品。自身のフェイヴァリットである20世紀の作曲家(Iannis Xenakis、Morton Feldman、Edgard Varése、Karlheinz Stockhausen、Milton Babbitt、John Cage)へのオマージュとして、彼らの打楽器作品を研究し制作された一作。レビューはこちらにあります。

 

 

7. Jim O'Rourke『To Magnetize Money and Return a Roving Eye』

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電子音楽ジム・オルークによるCD4枚、トータル4時間に及ぶ作品。継続的にリリースを続けているSteamroomの作品群、中でも30番台後半辺りから顕著になってきた音楽性の延長線上にありつつ、環境音をより積極的に取り込みじっくりプロセッシングを施した作品という感じでしょうか。Steamroonの43や44で顕著に聴き取れたハーモニーの反復もうまく用いられていますし、その辺り含めトータルの印象では42の正統進化系みたいに思えました。本当に音響的な情報量が途轍もなく多い音楽で、ここの音が好きとか凄いとか挙げ始めるとキリがないんですが、総合的にはディスク3が一番好きかな。最初聴いた時はすごくいいけど自分はSteanroom作品くらいの規模であったほうが好きかなと思ったりしたのですが、聴けば聴くほどこちらのほうに深くハマれるものを見出し始め流石……となりました。2019年はBen Vidaとジム・オルーク、キャリアの中で共通項が見い出せるこの二者が近いタイミングで同じく4時間の作品を出した年であり、そのことに不思議な縁を感じてしまいました。それもあってこの2作は傑作が多かった2019年のドローン・ミュージックの中でも特に強く印象に残るものとなりました。

(Steamroom作品についてはこちらにまとめています。『To Magnetize~』を聴くうえで役に立つ情報もあると思うのでよかったら目を通してみてください。)

 

 

6. Thomas Brinkmann『Raupenbahn』

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機械録音/テクノ。テクノやその延長線に浮かび上がった視点に基づく実験音楽などを制作しているケルン在住のアーティスト、トーマス・ブリンクマンの作品。様々な織機の反復する稼働音を全21曲に渡り収めた、いわばそれだけの作品。機械の稼働音に原始的な “テクノ” を見出すこと自体は目新しいものだったりはしないですが、その一つ一つが生み出すパターンの多様さ、そしてそれをしっかりと捉えた録音の見事さ(ワンポイント録音的な自然な空間性がありながらも違う可動部による音がしっかり異なる定位に配置されていたり)など、質と量ともにこれほどのクオリティで一つの作品に纏めたものはなかなかないのではないでしょうか。織機の仕組みをしっかり把握しているわけではないので収録されている音が具体的に何がどうなることによって発されているのかあまりわからないのですが、機械の音と聞いてまずイメージするような金属がぶつかり合うようなラウドさはなく、トラックによっては音の質感にオーガニックさみたいなものを感じるものすらあるのもとても興味深いです。

 

 

5. Sunn O)))『Lifemetal』○

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ドゥーム・メタル/ヘヴィー・ドローン。歪み潰れたギターの音響と長い間合いで演奏されるリフを中心とした音楽ですが、音を観察して音を出しまたそれを観察し…という視点を強く感じさせる、一種の実験音楽のようにも響く作品でした。演奏者の音の立ち上がりや減衰に対し鋭く研ぎ澄まされ機微逃さず追いかけるような意識の連鎖と持続が、サウンドにも聴く者の意識を逆立てない深い呼吸感として反映されていて、爆音のノイズ音響でありながら聴いていると心身が整えられるこうな心地がします。これをスピーカーから鳴らして集中して聴いている時の感覚はほんと言葉にしようがない素晴らしさ。

 

 

4. Yann Novak『Slowly Dismantling』

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電子音響/ドローン。2010年代を通して何枚もの傑作ドローン作品を生み出し続けたロサンゼルスを拠点とするアーティストYann Novakの最新作。素材としてEMS ElektronmusikstudionやMelbourne Electronic Sound Studioで録音されたサウンドを使用。2019年には彼は『Scalar Fields』、『Stillness』、そして本作と3枚のアルバムを発表しましたが個人的な好みでいえば本作がダントツでした。前2作が20分の作品2つを収めた構成や、その中で音のレイヤーの塗り替えが起こらない持続性が非常に強い作風などあらゆる点で共通しているのに対し、本作は音が途切れない実質40分の作品ではあるもののその中で音の出入りやレイヤーの移り変わりは小気味いいペースで起こります。また使用される音色の特性やその扱いにも異なる点があり、前2作が複数のサウンドが既に同時に鳴っている、レイヤーが形作られている状態でフェードインしそのままフェードアウトしていくのに対し、本作は飛行機の稼働音のようなボワボワとした低音、オルガンを思わせる優美なドローン、ザラついた質感を残しながらも耳に痛くないようトリートメントされたノイズ的なサウンドなどが個別のタイミングで現れ重なり消えていくという構成ですし、前2作がシマーリバーブ的なギラギラとした倍音をメインとしたサウンドだったのに対し本作はそちらであまり聴かれなかった低音やオルガン的な音色が多用されています。自分がこれまでの彼の作品で特に惹かれる部分は長時間の切れ目ない音の繋がりの中でノイズ/雑音のような響きが入り混じる中から優美なドローンが徐々に前面に出てくる音の遷移の部分にあったので、それが味わえない『Scalar Fields』と『Stillness』はこれはこれでいいと思えはするもののあまり求めてはいない方向性だと感じたのですが、本作はある意味自分が求めているものがコンパクトに凝縮されたような一作で(まさかこういう風にくると思ってなかったので)すごく驚きました。本当に大好きな一作。

 

 

3. 田我流『Ride On Time』○

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ヒップホップ。間違いなく2019年で一番再生したアルバム。今作での田我流は例えばラップのスキルとか同時代のラッパーの中で何かが飛びぬけて秀でた存在とかでは全然ないように感じられますし、アルバムの中でのささくれだったような緊張感や棘のあるユーモアなんかがもたらす瞬間的な強烈さでは前作『B級映画のように2』に劣るようにも思うのですが、本人の身近なトピックを中心としたテーマ設定をアルバムという単位で音楽的なバリエーション/クオリティをしっかりとキープしながら表現しきるという意味ではこれほどのものを作れる人はそうそういないんじゃないかってくらい、めちゃくちゃ凄い出来です。実は今一番脂ののってるラッパーなのでは?と思うほど非の打ち所がない完成度というか充実度。好きな曲ばっかなうえに全然飽きない。

 

 

2. Akira Rabelais『cxvi』○

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物語性のあるアンビエントAkira Rabelais以外にもBen Frost、Harold Budd、Kassel Jaeger、Cedrick Coriolis、Biosphere、Stephan Mathieuなどエグいくらい豪華な面子が参加。構成要素は電子音、ピアノ、ギター、声、といったところ。20分近いトラックが4つ、どれもいくつかの場面が接続されたような成り立ちで、その一つ一つの場面がじっくり聴き手に馴染んでから次へ移っていくような時間の扱いに “品” のようなものを感じて、そこに身を任せているだけでとても贅沢な経験をさせてもらってる気分になります。ゲスト的な参加者が多く、その個性がはっきりとわかるようなサウンドが表れるところもあるんですが、全ての音が一貫してAkira Rabelaisの美意識を決して阻害しないように音楽の中に組み込まれているのが何気に凄い。これだけの面子を擁していながら、このアルバムは完全にAkira Rabelaisの音楽です。

 

 

1. Ben Vida『Reducing The Tempo To Zero』

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電子音楽/ドローン。Town And CountryのメンバーでありJoan Of Arcの元メンバーでもあるという、何気にシカゴ音響~ポストロックの重要人物的な位置づけも見出せそうなBen Vidaの作品。彼は近年はソロリリースに力を入れていて、作風は割とリリースごとにバラつきがあるフリーキーな作家というイメージでしたが、本作はトータル4時間に及ぶハードコアなドローン作品。フィジカルはUSBカードでのリリース。およそ一時間前後の4つのトラックが収録されており、その個々のトラックもまたいくつかのドローン状のパートが移り変わっていくような成り立ちなので、ちょっと入れ子構造的な感じがあります。録音期間が2016~2019年と長い期間に渡っていて、作品のキャプションにはデジタルとアナログの音合成の産物といった記述があるので、最初から完成図を描いて制作されたとうよりは日常的に行っている音実験によって得られた様々なサウンドを纏めた作品という傾向が強いのではと思います。全体通しての構成や表れる個々のサウンドについても特に目新しさなどは感じなかったのですが、時にチェロやコントラバスの弓弾きのようであったり、オルガンのようであったり、またはただただ扁平な電子音であったりと表情を変えながら、そしてゆったりとした時間配分で現われるドローンサウンドがどれも本当に素晴らしく、こういった音楽を聴いていて強く求める部分である音が徐々に身体の奥深くに浸透していくような感覚を存分に味わえる4時間なので、聴いている間は本当に幸せな気分になります。例えば自分がどういう音楽が好きか他人に伝える場合にはこれ差し出すのが一番適切なのではとか思えるほど、とてもシンプルに好きな作品です。

 

 

以上30作、最後までご覧いただきありがとうございました。

2019年の音楽についてはジャンルやテーマを設定して書いた年間ベスト的な記事もいくつかnoteのほうにアップしていますので、よかったらこれらの記事も覗いてみてください。

ジャズへのシンパシーを感じさせる2019年のエレクトロニック・ミュージック5選

 

2019年のベストアルバム - ドローン・ミュージック

 

2019年のベストアルバム - ドローン・ミュージック その2

 

2019年のベストアルバム - ジャズ

 

2019入眠時の音楽

 

 

〈プレイリスト〉

 

 

 

 

 

 

今月のお気に入り(2020年1月)

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今年もやっていこうと思います。よろしくお願いします。

 

〈新譜〉

・Okada Takuro『Passing』

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・drøne『the stilling』

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・Awich『孔雀』

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・Brunhild Ferrari / Jim O'Rourke『Le Piano Englouti』

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・Chris Watson『The Rail Trail』

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・T. Liefhold『The Singing Work』

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〈旧譜〉

いろんな方の年間ベスト見て知ったものをはじめ、2019年の作品が多めです。当然ですがまだ旧譜って感じがしませんね。

 

・Pedro Martins『Vox』

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・…『Notitle』

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・Ulla Straus『Big Room』

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・John McCowen『Mundanas I-V』

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・(Sandy) Alex G『House of Sugar』

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・Our Lady of the Flowers『Holiday in Thule

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・Tomeka Reid Quartet『Old New』

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・Lifted『1』

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・Stray Dogs『And the Days Began to Walk』

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・Orphax『Live Circles - Remix』

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Akira Rabelais『Elongated Pentagonal Pyramid』

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・asa『危言危行』

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・杉本拓『Guitars』

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・Rhodri Davies『Term』

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Led Zeppelin『Presence』

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・Vanessa Amara『Like All Morning』

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・Melaine Dalibert『Cheminant』

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