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Daniel Zamir 『One』

 

One

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イスラエルで生まれ、ニューヨークでジョン・ゾーンに見いだされTzadikから3枚のアルバムをリリース、その後再びイスラエルに戻り活動しているサックス奏者ダニエル・ザミールの2009年作。イスラエルのレーベルからのリリースでブックレットもヘブライ語

 

彼の作品はこれとTzadikからの『Children of Israel』のみしか聴けていないのであまり踏み込んだことを言えないのですが、基本的には両作ともジューイッシュなメロディーを持った曲と、どんなに長くなろうと澱みなく紡がれるサックスのフレージングが聴きどころかなと。クレズマーを取り入れたバンドMasadaを率いるジョン・ゾーンの目に留まったのが必然と思えるような音楽性です。(調べてみると『Children of Israel』の収録曲はほとんどがイスラエルフォークソングのようです。)

 

前述のようにTzadikからのリリースの時点で彼の故郷であるイスラエルの色は作品に大きく反映されていますが、『One』はイスラエルに戻ってからの作品ということもあって、民族的な色合いはより濃くなり、本作で大きくフューチャーされている自身の声による歌唱も相まってさらに深く、呪術的な魅力を放っています。

 

また、ジャズと民族的/宗教的な要素の邂逅というと、まず思い出されるのはジョン・コルトレーンの活動だと思いますが、コルトレーンが主に精神的な面においてそれらの要素を取り入れ表現した音楽が混沌としたものだったのに対し、本作はダニエル・ザミール自身の突出した表現がどれほど大きく扱われようとも全体の調和を乱すような瞬間は一切なく、(もちろん時代の隔たりなど考慮される点はいくつもあるとは思いますが)グループの一体感という点では圧倒的に洗練されていて、聴き辛さもありません。

 

しかしグループ全体が放つサウンドの印象としては対照的ともいえる両者ですが、ダニエル・ザミールとジョン・コルトレーン、それぞれの個人の演奏に焦点を当てると二者の間には非常に近しいものが感じられます。『One』の5、6曲目でのザミールのソプラノサックスによる長尺のソロからは、特にモードジャズ期のコルトレーンの澱みないフレージングによるどこまでも登り詰めていくような高揚感を聴き取ることができ(循環呼吸を用いていると思われる長いフレージングには瞬間的にエヴァン・パーカーをも想起しました)、この2曲に関しては時代を隔てたモードジャズの“続き”としての聴取も可能ではないかと思います。

 

“モード”という概念が元々は宗教音楽や民族音楽からジャズへと輸入されたという経緯もありますし、それを考慮するとダニエル・ザミールの音楽はある種理想的なモード・ジャズと呼べるのかもしれません。

 

 


Daniel Zamir - Part C - Six - YouTube

 


Hatikva - Daniel Zamir - YouTube

 

アマゾンでは在庫切れですがディスクユニオンさんに在庫有るみたいです。

http://diskunion.net/portal/ct/detail/JZ090619-07

 

 


John Coltrane - The Father and the Son and the Holy Ghost (1966) - YouTube