Aram Shelton(Saxophone,Clarinet,Trumpet,Computer), Johnathan Crawford(Synthesizer,Percussion,Melodica)
単独での作品紹介は久しぶり。
今回紹介するのは主にサックス、クラリネット奏者として活動するアラム・シェルトンと、こちらは主にパーカッション奏者として活動しているジョナサン・クロフォードによるユニットGrey Ghostの作品。
このユニットは2015年現在までに2枚のアルバムをリリースしているようですが、こちらは2003年の1stアルバム。
レーベルはフリージャズ系の音源を多く出しているニューヨークの482 Musicから。
この作品はその482 Musicが手掛けるDocument Chicago(サブレーベル扱い)というシリーズの第3弾としてリリースされています。
主な演奏形態としてはサックス及びクラリネットとパーカッションによるデュオになるのですが、
上記の担当楽器の記載にもあるように今作中では、アラム・シェルトンが加えてトランペットとコンピューターを、ジョナサン・クロフォードが加えてシンセサイザーとメロディカを担当し、
曲によってその多彩な音色と電子加工やオーバーダビングを用いてジャズの枠組みを大きく外れるサウンドを提示しています。
話をことサックスとパーカッションのデュオによる演奏部分に限ると、そこから聴こえてくるのはAACMなどから連なるシカゴに根付くジャズ・シーンの奥深さを感じさせるような、底の部分から温かみと歌心、そしていささかの古めかしさを醸し出す音なのですが、
それ以外の部分に目(耳)を移すと、その多彩な音使いに見られる音色への探求心や、電子加工やオーバーダビングへの抵抗のなさには、この時点ではまだ進歩的な立ち位置を保持していたであろう同地のシカゴ音響派の存在を連想してしまいます。
その辺り(シカゴ音響派)との直接的な繋がりがないかと調べてみると、どうやらアラム・シェルトンは少なくともトータスのメンバーでもあるジェフ・パーカーとは共演歴があるようです。(というかそもそも私が知らないだけでこのGrey Ghostというユニット自体がシカゴ音響派として認知されている可能性も…)
アラム・シェルトンのその他の共演歴を見ると、音響派寄りの人脈というよりはPeter Brotzmann Chicago TentetやKen Vandermarkのユニットに出入りしている面子が多いので、どちらかというとそういった硬派なフリージャズ寄りのプレイヤーではあると思うのですが、
一方で彼は(アラム・シェルトンの公式HPによると)2005年からオークランドに移り電子音響音楽や録音技術を学び、生楽器の音をリアルタイムで録音、再編成するための自作MAX/MSPパッチを用いた音楽を書いたりもしているようなので、
(それらの学習の成果であると思われる『Tonal Masher』というサックスとエレクトロニクスを用いたプロジェクトが彼のHP上やbandcampで公開されています。)
Grey Ghostは後に彼をオークランドへ向かわせることになるテクノロジーへの興味が初めて具体的な音になって現れた結果なのかもしれません。
具体的な収録曲や音作りに話を移すと、1曲目の冒頭からそうなのですが、まず先に電子加工が施された音やオーバーダビングなどを用いてループ感の薄いシーケンスのようなものが提示されて、曲の中盤辺りから主にサックスとドラムスによる生々しいデュオ演奏が(シーケンスを背景に追いやるようなかたちで)開始されるというパターンが多く用いられていて、
背景音的な役割を果たす(時にドローンのような)シーケンスに用いられている音も生楽器の音を加工して作られているようなものが多く、
フリージャズと音響面への創意工夫を曲ごとに分けて用いるのではなく、1曲の中で折衷的に用いるところにこのユニットの方向性がよく表れているように思います。
また電子音響的なパートにおいて、加工された音響の中から時折無加工の演奏の断片が姿を現したりする部分には、個人的な愛聴盤であるThomas Ankersmit『Live in Uterecht』を連想したりも。
サックス奏者でありながら電子音響への関心が高く、そちら方面に躊躇なく踏み込んでいく辺りはアラム・シェルトンとトーマス・アンカーシュミット両者に共通しますしあながち的外れではないかも?(トーマス・アンカーシュミットとシカゴの(音響およびジャズ)シーンの繋がりなど考えたこともありませんでしたが、思い返すと彼はジム・オルークとスプリットLPを出しているんですよね。)
いつになくダラダラと書いてしまいましたが、ポストロックの一派としてだけでなく、フリージャズの新たな解釈のひとつとしてシカゴ音響派を認識するには絶好のサンプルといえるのではないでしょうか。
デジタルリリースもされている割には、ネット上でもあまり言及されているところを見かけない作品ですが、そんな扱いがあまりに勿体ない出来、ポストロック好きにも是非!
youtubeなどに動画はアップされていないようなので、試聴はiTunesで。
※5/5 追記