ジョン・ブッチャーの近作を紹介。前回の記事から結構経っていて、それ以降に入ってきた作品が数枚あるので纏めて紹介しようと思ってたんですが、長くなりそうなので一枚ずつ書いていこうと思います。
スイスを拠点に活動するドイツ人ピアニスト、クラウディア・ウラ・ビンダー(読み方あってないと思います…)との共演作。
「近作を紹介」って言っちゃってますがこれは私が最近になって入手しただけでリリースは2010年、演奏、録音が行われたのは2008年となってます。
ビンダーの名前は本作で初めて知りましたし、スイスの即興演奏シーンってものを普段意識したことはないですが、個人だと他にUrs LeimgruberやJonas Kocherなどいくつか名前も浮かびますし、こういった音楽の地盤がしっかりある国なんでしょうかね。
短いものでは1分半、長いものでも6分程のコンパクトに纏められた演奏が15編。その中で曲によって演奏のアプローチを変えていくってタイプのアルバムになってます。
初めて聴くビンダーの演奏なんですが、e-bowを用いたと思われる持続音に始まり、弦を引っかいたり、つまんでその張力を変えるような音、おそらく弦の上に物などを置いたと思われるプリぺアド・ピアノ的な音なども多く用いて、“様々な音響を引き出す”という面では数段有利だと思われるサックスを自在に操るブッチャーに上手く対応していると思いますし、多様な奏法や音色を用いながらもそれに溺れず、常に各要素の配置に気を配りながら冷静に音を紡いでいく俯瞰で自己を捉えている様な姿勢はとてもブッチャーに近いものを感じます。
同じくブッチャーとピアニストのデュオ作品だったマシュー・シップとの『At Oto』が、フリーインプロとフリージャズ、それぞれに軸足を置く者の他流試合的なものだったとすると、こちらは近い感覚を持つ者どうしの共感をベースにした作品といったところでしょうか。
収録形態にしても、前者が30分一本勝負の長尺(他にそれぞれのソロ演奏を収録)だったのに対し、後者はコンパクトに纏められた15曲、
その内容についても他作品では見られないような激烈なブロウや危うさを垣間見せる前者と、アルバム中の最初と最後の曲においてのみビンダーのe-bowによる持続音をフィーチャーするなどアルバム全体に及ぶ設計の意識が見える後者といった具合に、様々な面で好対照な二作といった認識ができてしまいます。
続けてブッチャーの他作品と比較すらなら、演奏に漂うどこかこじんまりとした室内楽的な雰囲気は、同じくピアノとの共演(デュオではなくヴァイオリンも加えたトリオ)作品である『Clearings』に近いですかね。白を基調としたアートワークも共通してますし。
「現代音楽の室内楽作品集に聴こえなくもない」ってのは私が『Clearings』を初めて聴いた時の印象だったんですが、本作にもそれを適用したいところ。そう考えると『Under The Roof』ってタイトルも正にって感じですね。
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最後に動画を。
↓ アルバムに収録されたものではないですが、ごく最近の演奏の様子がyoutubeにあがってました。この二人はとても音楽的に合っていると思いますし、定期的に共演しているのかもしれませんね。
↓ これはベースのジョン・エドワーズを加えたトリオでの演奏ですが、ビンダーのピアノのスタイルの多様さをよりよく捉えていておすすめです。ちなみにCDのライナーには“Sound Birds Under The Piano Roof”という題の文章(論文?)がついていて、内容は英語のためよくわかりませんが少なくともそのタイトルはビンダーのピアノ演奏を上手く表現しているなと思います。