ミュージック・コンクレート、アンビエント、ノイズなどを跨ぐ音楽性で大阪を拠点に精力的に活動する音楽家、石上和也の作品。
30分、10分、30分の3曲入りでトータル70分超えという思い切った構成。石上さんの作品はトータルの収録時間が1時間を超えるといったことは珍しくない印象ですが、その場合でも(私が現時点で聴いたことのある作品では)10分に満たない曲が10数曲ほど連なるというパターンで、今作のように長尺の楽曲のみで固めた構成は珍しいのではないかと思います。
内容は音色の面では昨年の『cleaner 583』、今年前半にリリースされた『Canceller X』と地続きな部分を感じさせながらも、やはり曲の長さの違いが大きく影響しているのか非常にゆったりとした展開で、ダイナミックに音が動く瞬間も極力抑えられている印象があります。
発信音、ノイズ、深くリバーブのかかった持続音や環境音の断片(?)などのレイヤーで描かれるインダストリアルとも受け取れそうなザラついた質感のサウンドスケープはトーンの明るいものではありませんが、1曲目の中盤以降(13分過ぎた辺りから)のパートではロマンチックさを感じさせる和声が形作られているように聴こえ、奇しくも同月にリリースされたKassel Jaeger『Aster』(の1曲目)と近しいものを感じたりしました。
個人的には石上さんの作品はアンビエントとして空間に流しておくというより、しっかりスピーカーの前に座って音の動きなどをしっかり追いながら聴くことが多かったのですが、本作は前述したような曲の長さと展開の緩やかさなどから買ってから毎日のように寝る時に小さめの音量でかけっぱなしにして楽しんでいます。特に3曲目は30分のうち28分辺りまではメインとなる持続音が差し替えられることなく鳴り続ける構成と、その深くリバーブのかかったような耳にあまり負担にならない音色も相まって安心して音に身を委ねることができます。
アンビエントとしてイメージされる音というのは個人によって大きく異なると思いますが、器楽的な要素がなく、甘い和音が前景化するでもない、ある種電子音楽然とした響きを頑なに保持した本作が今自分にとってはとても感覚的にしっくりくるアンビエント・ミュージックで、間違いなく現時点で氏の作品で最も好きな作品となりました。
正直こういう音が作りたいと思っていたところを先にやられてしまったみたいな悔しさも感じてしまいました。