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Schiaffini - Prati - Gemmo - Armaroli『Luc Ferrari Exercises D'Improvisation』

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イタリアのフリージャズ/インプロの黎明期から活動するトロンボーン奏者Giancarlo Schiaffini、Schiaffiniとはよく共演しEvan Parker Electro Acoustic Ensembleの中心的メンバーとしても知られるチェロ/エレクトロニクス奏者のWalter Prati、クラシックピアノや作曲を学びバロックから現代まで広いレパートリーを持つピアニストのFrancesca Gemmo、ミラノ音楽院卒でクラシック/現代音楽の演奏も行い近年はジャズの分野で主にヴィブラフォンマリンバを演奏している打楽器奏者Sergio Armaroliというイタリアの演奏家4名による共演作。リュック・フェラーリの作曲作品であるExercises D'Improvisation(即興のエクササイズ)を取り上げた一枚で、現代音楽の演奏を行ったりエレクトロニクスの扱いに長けた者も居るこの4者らしいというか、技術的な達者さを披露しながらも非常にクールな印象の即興が収められています。

フェラーリのExercises D'Improvisationという作品は5~7つの楽章を続けて演奏されるステレオ磁気テープと楽器のための作品で、用いられる楽器に関しては「最大8つまでの楽器または楽器グループ」という指定があります。各楽章は演奏の内容においても連続性に基づくとのことで、それはハーモニーやメロディーの色彩、リズムなどに適用されると記載があります。*1

即興がどのようなかたち、割合で用いられているかの詳細はわからないのですが、他の録音*2を聴き比べた限りでは演奏家によってその内容は非常に異なったものとなっており、演奏者の裁量や即興に委ねられている部分が大きい自由な形式の作品と思われます。

本作の演奏では速度感のあるフレージングが耳を引く場面もあるんですが、 “連続性”の指定を意識した結果なのか、フレーズを用いて何らかのやり取りを行うというより、ある音に別の音を層のように重ねていくイメージが強く感じられ、早いパッセージでも音が直線的に伸びていくような線的な印象は崩れません。

個人的にはこの辺りの感覚はティグラン・ハマシャンとノルウェーの音楽家3名の共演作『Atmosphères』(の1、3曲目辺り)と通じるように思います。『Atmosphères』が霧深い山奥の風景や営みを描くような有機的な空気感を宿していたのに対し、こちらはやや視界が明瞭で、細部までクッキリ照らし出された人工的な建築物を旋回しながら眺めているようなイメージが思い浮かび、趣は違えど映像喚起力に優れている点も共通するかなと。

音の数や動きが少ないわけではなく決してわかりやすく寡黙なアプローチを取ったような演奏ではないのですが、テンションや速度感の変化はあれど総体として騒がしい印象に結びつくことはなく、クリアさ、明晰さを保ったサウンドが持続していて、意識がどこまでも醒めていくような、メディテーティブともいえる(?)感覚をもたらす興味深い作品となっています。

 

本作の存在へはAlvin Curranの楽曲を本作にも参加しているGiancarlo Schiaffini、Sergio Armaroliなどが演奏したアルバム『From The Alvin Curran Fakebook - The Biella Sessions』と同じレーベルから出ているということで辿り着いたんですが、これらを出してるイタリアのDodiciluneっていうジャズレーベルは他の作品もなかなか面白そうです。ザッと近年の作品を聴いてみた感じちょっとコンテンポラリーに寄りつつオーソドックスなジャズって感じの作品が多いのかなという印象ですが、中にはここまでに挙げた現代音楽だったり、ジョニ・ミッチェルの楽曲をイタリアのジャズミュージシャンが演奏した『Song for Joni』なんてのもあります。

本作に参加している打楽器奏者のSergio Armaroliはこのレーベルから多くの作品を出していて、個人的に最近パーカッションのサウンドにハマってることもあって彼の関わった作品は特にオススメしたいです。まずはマリンバソロのアルバム『Early Alchemy』から是非どうぞ。

*1:https://www.discogs.com/Luc-Ferrari-GOL-Brunhild-Ferrari-Exercices-DImprovisation/release/2831039

*2:リュック・フェラーリの妻Brunhild Ferrariが演奏に参加したPlanamからのLPや、ピアニストのCiro Longobardiが演奏したCDなどがあります。前者は磁気テープを担当するBrunhild Ferrari以外の4名の演奏者が数え方によっては8つ以上あるようにも思える多様な楽器を用いているのに対し、後者はピアノのみと楽器編成が大きく異なっているので聴き比べると楽しいです。前者はNEWTONEのページで試聴可、後者はSpotifyなどのストリーミングにもあります。