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BEST OF 2020(上半期)

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 2020年の上半期ベストです。20作選びました。今回は順位付けはなしです(聴き込みが足りていないせいか付けるのが難しかったです)。この半年は電子音楽ばかり聴いていたので、セレクトもそういう感じになってます。 モノトーンなジャケが多いんですが、そういう作品にはどことなく通じるものを感じたりもするので、抜き出して聴くのもいいかもしれません。

 

 

 

・Against All Logic『2017-2019』

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Nicolas Jaarの変名プロジェクトの2作目。前作『2012-2017』はソウル~ファンク~ディスコの情景がありありと浮かび上がるサンプリング/エディット度高めのハウスって感じでしたが、今作はヴォーカルサンプルなどの使用はそれなりにあるもののそれらは元音源の姿が捉えにくい状態で用いられてる印象で、前作のように特定の種類の音楽、時代、情景に思考が結びつき難い、謎に抽象度の高いダンス・ミュージックになってます。前作より格段にエッジーな音像ながらいかがわしさはアップしてるみたいなところが不思議かつ惹かれます。

 

 

 

・Carl Didur『natural feelings vol I』

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アンビエントニューエイジ電子音楽。とても安らげる、だけでなく響きに興味を引かれる瞬間もそれなりにあり、この半年で出会った音楽の中でもいい塩梅で身を預けられる一作でした。

こちらにレビュー書いてます。

 

 

 

・crys cole『Beside Myself』

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 カナダの女性アーティストcrys coleの作品。昼寝中にバイノーラルマイク付けてうわ言、周りの環境音、寝返りによる雑音を捉えたみたいに聴こえなくもない1曲目がすごくいい。Felicia Atkinsonとか好きな人にも是非聴いてみてほしい。

 

 

 

・drøne『the stilling』

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 Mark Van HoenとMike Hardingによるユニットdrøneの4作目か5作目かわからんけど新作。今まではシンセ、エレクトロニクスのサウンドを編集した電子ドローンって色合いが強い印象でしたが今作ではその他のラジオ音声的なサンプルだったり、Mike Hardingが運営しているTouchに関わってる(リリースなどしている)音楽家の楽器演奏なども取り込みコラージュ度がグッと増してます。本作自体はTouchからのリリースではないんですが、この一作でTouchってレーベルが抱える音楽性の結構な部分(電子音楽、インダストリアル、ノイズ、フィールドレコーディング、クラシカル、現代音楽などなど)をカバーしているようなダイナミックで懐深くエッジーで美しいサウンド……こんなん反則ってくらいいいです。

 

 

 

Eiko Ishibashi『Impulse of the Ribbon

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石橋英子が今年bandcampでリリースしてるアルバムはどれも本当にいいんですが、今選ぶならこれが一番好きかな。 「ハローキティ 演奏会!」で始まって機関車トーマスのおもちゃ(?)の音声とかも入るんでちょっとネタっぽく感じるかもしれませんが音めちゃくちゃかっこいいですよ。マシニックに打ち込まれるリズムとそれをリボンのように彩り飾る様々な電子音。17分過ぎで一度リズムが止んでからしばらく続くアンビエント的な時間も、当たり障りなく過ぎていくようでかなり手の込んだ音のレイヤーや展開があって本当に素晴らしい。

 

 

 

・Eva Kierten『Vardyger』

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物憂げなピアノのリフレインとテープ変調によるごくシンプルなアンビエント。音階の持つ色合いや音の質感、空気感がとにかく好み。とても落ち着く。雨音に合います。このレーベルすごく惹かれる。

 

 

 

・Félicia Atkinson『Everythin Evaporate』

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フランスのサウンド・アーティストでレーベルShelter Pressの運営者でもあるFélicia Atkinsonの作品。彼女のここ数年のリリースはどれも好きですが今作はもしかしたら一番かも。今作はドローンがしっかり中央で鳴る曲だったり電子音が空間をそれとなく埋める時間が、全体に占める割合としてとてもいい感じに配分されているのがよかったです。自分は彼女の作品では2017年の『Hand In Hand』が最も印象に強く残ってて、そこでの各音源が空間の中に点的に配置されているような感触、そしてそれが呼び起こす中心が空いているようなサウンドイメージに彼女の作家性を強く感じるんですが、前作『The Flower And The Vessel』ではそこが意図的に塗りつぶされてある種の息苦しさを生んでいたのが、なんというか「そうきたか…」って感じでした(これはこれで好きです)。で、本作はそこから塗りつぶしの色調を何段階か下げた感じというか、“空”とそこが侵食されていく様を(微かな不安感や心地悪さを伴いながらも)平静を保って眺めていられるバランスに落ち着いていると感じました。捉えようによっては凡庸な地点に近づいているのかもしれませんが、個人的にはこのバランスはすごく好みです。

 

 

 

・FUJI|||||||||||T『iki』

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完全自作のオルガンを用いた録音作品。

こちらにレビュー書いています。 

 

 

 

・Jim O'Rourke『Shutting Down Here』

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純化して捉えるならジム・オルーク流のGRMなどの正統的ミュージック・コンクレートというところに落ち着くのかなとは思うのですが、彼でなければこうはならないよなというようなサウンドや展開が随所に(それも相当な時間をかけないと味わいきれない程に)仕込まれており、 近年の作品の中でも “精巧さ” という尺度では頭一つ抜けているような印象があります。留まることなく変化し、現れる様々な音響に逐一反応していくだけでも十分に面白い作品ですが、モチーフの再現や展開からは(明確に物語とは言わないまでも)記憶に関わろうとする、それによって聴き終えた後に鑑賞者の中で作品内の様々な場面が乱反射し陰影や立体性を生むことを目論む、といった指向性が滲み出ているように感じます。

 

 

 

Jóhann Jóhannsson & Yair Elazar Glotman『Last and First Men』

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 Jóhann JóhannssonとYair Elazar Glotmanが作曲、アレンジを担当したサントラ。ヨハン・ヨハンソンの過去のサントラワーク(例えば『Sicario』『Arrival』など)でも非常に存在感のある働きを見せていたHildur GuðnadóttirやRobert Aiki Aubrey Loweも参加していて鉄壁の布陣という感じです。不安感を煽る弦楽の浮き沈み、墨をたっぷりと含んだ筆でゆっくりと線を引くように奏でられる悲哀の旋律、そして音楽を怪しげに彩る声の用法の素晴らしさと、自分がヨハン・ヨハンソンの音楽の中で特に惹かれるいくつかの面が濃厚に映し出された一作でした。

 

 

 

・Kassel Jaeger Jim O'Rourke『in cobalt aura sleeps』

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2017年の『Wakes On Cerulean』に続く2度目のコラボ作。電子音、環境音の執拗なレイヤーで描かれる展開が本当に見事。モジュレーションによって常時変化や揺れ、うねりを続ける個々の音がいつの間にか大きな流れに結びつき、そして境目なく別の流れに書き換えられていくのですが、相当に聴き込まないとその様相を掴むことが難しく、どういった手順を経てこの状態へ辿り着いたのかと妄想が止みません。本当にディープな電子音絵巻。

 

 

 

・Lawrence English『Lassitude』

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Eliane RadigueとPhill Niblockがインスピレーションとなった2つの素晴らしく真摯なオルガンドローン。

 

 

 

・Marja Ahti『The Current Inside』

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 スウェーデン出身のサウンド・アーティストMarja Ahtiの2ndアルバム。フィールドレコーディング、シンセサイザー、フィードバック、アコースティック楽器の音響、テープ・プロセッシングなどを駆使した精巧なミュージック・コンクレートという印象です。Ina GRMやEMSで録音された素材も用いられています。前述した異なる素材をつづれ織りにして雲のような音響を作り出しているところが耳を引きます。こういった手法は別段新しいものではないですが、彼女の場合はそこで用いる音程関係の妙なのか、クールで緊張感のある(しかし個人的には耳障りではなく落ち着く)ハーモニーを導き出しているように感じます。

 

 

 

・Nicolas Jaar『Cenizas』

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ジャンル的には何に分類されてるのかよくわかってないアーティストNicolas Jaarの新作。先に出たAgainst All Logicが凄くよかったんですがこっちも素晴らしかったです。歌が入るもの、リズムがしっかり打たれるトラック、楽器が前面で鳴る器楽の小品的なものなどなどいろいろ入ってる印象ですが、それらが歌もの、ダンストラック、器楽として個々に価値を主張してるような感じがあまりなく、かといって焦点の定まらないバラバラな作品集というわけでもなく、なんとなく統一感を感じながら聴けてしまえる不思議なアルバム。そういう意味ではサントラ的?といえるのかも。少なくとも自分は無意識的にそういう風に聴いてる気がします。そう考えると風変りなサウンドを随所で使ってるところにちょっとフォーリー的な発想を感じたりもします。

 

 

 

Nine Inch Nails『Ghosts V: Together』

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トレント・レズナーのサントラ作品にいくつか入ってるようなアンビエント寄りの作風って以前から結構好きだったんですが、そういうのはサントラっていう形式上あまり長くはないので、そういうのの長尺版を集めたのあったらなあと漠然と思ってたら本作が正にそういうのやんって感じで最初聴いた時からすごく印象がよかったです。ただ自分がサントラなど聴いてた時点でもっと長くあってほしいと思ってた理由は単純にもっとしっかり(それこそ眠くなってくるくらいに)身を預けさせてほしいからだったんですが、本作における曲の長さは聴き込んでいくとそういった意図よりも彼の音楽の持つ旨みの一つでもあるビルドアップ的な構成を織り込むためのものに思えてきました(特に最後の曲がそれを象徴してるような)。ただそう捉えてしまうと展開を追いたいって感性が働いてしまって、自分が求めていたただぼんやりと身を預けさせてくれる音楽としての効用はやや薄れるので、現状そういった捉え方の変化に伴う価値の変容にどう折り合いをつけるか難しい一作って状態になってます。でもまあどちらにしてもかなり好きなことには変わりないんですが。

 

 

 

・Shuta Hiraki『Voicing In Oblivion

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自分の作品を入れるのは多少気が引けるんですが、思い付いたのをわざわざ外すのも不自然なので入れます。アルバム通しての聴き心地とか、ここに並べてる他の作品にも全然引けを取らないと思います。

こちらにセルフライナーノーツ書いてます。 

 

 

 

・Takumi Akaishi『Memoria

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ハーディ・ガーディの演奏や環境音のダビングによって描き出される、何かの儀式の音を風景的に捉えたように響く音楽。不安定に揺れるハーディ・ガーディのサウンドが凄く雄弁な情報量を有していて、聴き終えると野外で催されている祈りの場面に偶然立ち会ったような感覚が残ります。

 

 

 

・Tatsuhisa Yamamoto『dokoniittemo / itsumadetattemo』

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即興/ジャズ、歌ものの伴奏、七尾旅人ジム・オルークのバンドをはじめとしたサポートなど幅広く活動するドラム奏者の山本達久がbancampでリリースした自主制作アルバム。随所でドラムや打楽器も用いながらもアンビエント的な機能性を持った電子音楽作品に仕上がっています。

こちらにレビュー書いています。

 

 

 

・tētēma『necroscape』

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オーストラリア出身の作曲家Anthony PaterasとFaith No Moreなどでお馴染みのヴォーカリストMike Pattonによるコラボレーション・プロジェクトの1stアルバム。自分はFaith No MoreもMr. Bungleもあんまりハマれなくてマイク・パットンはちょっと苦手意識ある存在だったんですが、Anthony Paterasの作品は聴いたことあるものはどれも好きだったので試しに聴いてみたらすごくよかったです。Will GuthrieやErkki Veltheimなど刺激的な音楽家を呼び込み、エレクトロニクスや打楽器的なサウンドを効果的に配した複雑だけど飲み込み難さを感じさせない音作りがいい導線になってる面もありますが、ここでのパットンのパフォーマンスには時折Jóhann Jóhannssonのサントラワークで聴くRobert Aiki Aubrey Loweにも近いような妖しげな魅力と深みを感じます。騒がしさを表現するような演奏も結構な割合であるんですが、常にしっかりと重心を保っているような安心感があって不思議と落ち着いた心地のまま全編聴き通してしまえるのがとても気に入っています。ラストはChico Buarque De Hollanda - Ennio Morricone「Funerale Di Un Contandino」の割と律義なカバー。

 

 

 

・Yu Kawa Shizuka『minamiarupusunotennensui』

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 エッジーで小気味いい電子音楽。

こちらにレビュー書いてます。