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BEST OF 2017

遅くなりましたが2017年の年間ベストです。25作品選び順位をつけました。記事中の「今年」は「2017年」と読み変えてください。

画像クリックで試聴できます。ではどうぞ。

 

 

25. Maciej Obara Quartet『Unloved

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耽美なジャズ。

ポーランドのサックス奏者マチェイ・オバラのECMからは初となるリーダー・アルバム。近年耳にしたECM作品でも特にこのレーベルらしさを感じさせる一枚で素晴らしかったです。特に①、③、⑦など静かでメロディアスな曲における音量を絞ったサックス、ビート感の希薄な演奏をするドラムの音色と深いリバーブが合わさったサウンドはこれぞECMと言いたくなるような美しさ。

 

 

24. Félicia Atkinson『Hand In Hand』

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モノクローム電子音楽/ミュージックコンクレート。

これに関しては好きなんだけどこの音楽のどこにどういう理由で自分が惹かれてるのかずっとよくわからなかったんですが、《永久音楽blog》のレビューにある「全編通してある虚ろな感触が、私のアシッド・フォーキーな嗜好と合致した」という箇所を読んでたしかに電子音で描かれたアシッドフォークみたいに聴ける部分もあるなあと。それなら自分が惹かれるのもまあ頷けるし…。あとこれぼーっと聴いてると声とモジュラーシンセの音ばかり印象に残るんですけど、ところどころで小物(木琴?とかトライアングルとか金属のボウル的な音とか)だったりフィールドレコーディングが使われててその塩梅がすごくいい感じ。  

 

 

23. David Virelles『Gnosis』

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キューバ音楽、クラシック音楽などの要素を大きく取り入れたアンサンブル/ジャズ。

キューバ出身のピアニストによるECMからは二作目となるリリース。自身の故郷であるキューバ音楽の意匠を大きくフィーチャーしたような内容という意味では前作『Mbókò』と地続きであるのですが、本作では管弦楽器の導入をはじめ器楽編成を大きく拡張し、ジャズやキューバ音楽だけでなく近現代のクラシック音楽の影響も大きく取り入れ、それらを小品的な曲も多く含んだ全18曲の繋がりの中で楽曲ごとに混ぜたり時に個別に表出させたりしながら、ひとつの組曲として聴くこともできそうな作品として纏め上げています。自らの音楽的語彙をフル活用して総合的な音楽作品を作ろうという意思が伺える渾身の一枚。異なる国や地域の音楽をジャズの言語で繋ぎ冷たい響きでパッケージングしたと捉えればエグベルト・ジスモンチやナナ・ヴァスコンセロスを大きく取り上げていた頃のECMを思い起こさせるものもありますし、そういった意味でこのレーベルらしさを強く感じる一枚でもありました。(こちらにもレビューあります)

 

 

22. Eliane Radigue『occam ocean 1』

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電子音楽の大家によるアコースティックなドローン・ミュージック。

電子音楽/ドローンのリヴィング・レジェンド的存在の作曲家エリアーヌ・ラディーグの新作。彼女は近年その代名詞でもあったシンセサイザーARP2500を用いずアコーステック楽器などによって演奏される生音を中心とした作風に転換しているようで、本作でもヴィオラバスクラリネットなどの管楽器、そして弓弾きによるハープによって演奏された楽曲が収められています。彼女の音楽の特徴であるドローン然とした音の持続は作風が変わってからも健在ですが、やはりシンセサイザーとアコースティック楽器では大きく事情は異なり、本作ではシンセサイザーの制御された音の変化では味わえない複雑な倍音のうねりなどに焦点が当てられたような、方向性としてはGiacinto ScelsiやHarley Gaberの名前が思い浮かぶ作品が多く収められています。個人的には彼女の音というと電子的な制御から生まれる最小限の揺らぎみたいな印象が強く、そこが魅力だと思っていただけに今作から聴きとれるものは彼女の音楽に求めていたものとは違うのですが、結果的にはこれはこれで面白く聴けてしまいましたね。まあこういうアコースティック楽器による偏執的な持続音って自分はそれほど多く聴いてきたわけでもないのでかえって新鮮に聴こえたってところもあるかもしれません。特にDisc 2の2曲目、ヴィオラバスクラ、ハープが重なった響きはとても魅力的です。

 

 

21. Molecule Plane『SCHEMATIC

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ミュージック・コンクレートの語法なども用いた現代的な電子音響/ドローン。

京都府電子音楽家大塚勇樹による「音色と音響の可能性の追求」をテーマにした名義Molecule Planeの2ndアルバム。昨年リリースの1stは数年に跨る作品群が収録されたいわばその時点までのベストセレクション的な内容でしたが、今作はそれ以降このアルバムのために録り溜められたもので成り立っているからかアルバムとしての統一感をグッと増した仕上がりとなっています。Molecule Planeの音楽に対してはいろんな切り取り方ができると思うのですが、そのひとつをここで挙げるならばいわゆるエレクトロニカIDMの技法を持った音楽家がメロディーやリズムに依らない方向へ振り切るとどうなるのか、といった見方でしょうか。エレクトロニカIDMはその黎明期から新たな音色の発見をその発展の駆動力としていた音楽だと思いますが、グリッチなどの手法が確立されるに従いそうして獲得された新たな音色をリズムなどの音楽的構造に当てはめるかたちで洗練されていったような印象があります。大塚さんもA.N.R.iとしての活動などそういった流れの中に身を置いている音楽家と捉えることもできると思うのですが、Molecule Planeとして鳴らされている音はそうしたエレクトロニカIDMの音楽的な洗練の流れに対し、あり得たかもしれない別の発展の可能性というかオルタナティブな流れの存在を示しているものと捉えることができるのではないでしょうか。新たな音色の発見という音楽家としては非常にシンプルかつ根源的な欲求の駆動や衝動性を感じさせながら、単なるその場限りの実験に終わることなくまとまりのある作品としてパッケージングされた(この部分で先述の“洗練”の流れに身を置いていることが活きているのでしょう)稀有な例だと思います。  

 

 

20. Matt Mitchell『A Pouting Grimace』

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コンテンポラリー/アヴァンギャルドなアンサンブル・ジャズ。

NYを拠点に活動しティム・バーンのユニットへの参加などで頭角を現している新鋭ピアニストの4作目。指揮を含め総勢13名が参加したラージアンサンブル作品ですが、全員が演奏に参加するのは④”Brim”のみで、他は5~10名の異なった編成で演奏されています。複雑な拍子からなる捻くれたリズムのコンポジションを軸に、管楽器の扇情的なブローイングや近現代クラシックの室内楽を思わせるような怪しげな楽想のパートなどが貼り合わされた作風となっており、特に切迫感のある演奏が繰り広げられる②”Plate Shapes”、④”Brim”などはインテリジェンスとヒステリーがない交ぜになったような独自の魅力を感じさせてくれます。

 

 

19. Fabian Almazan『Alcanza』

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クラシック音楽や映画音楽の影響を取り入れたアンサンブル・ジャズ。

キューバ出身のジャズピアニストによる作品。前作『Rhizome』と同じくピアノトリオ+弦楽四重奏に時折ヴォーカルが加わる編成で、音楽性も地続きなものなのですが、洗練された美を感じさせた前作に対し今作は冒頭からやけに野性味溢れる演奏/アンサンブルで初めて聴いた時の印象は鮮烈でした。トータル1時間の組曲形式でピアノ、ベース、ドラムのソロパートがインタールード的な役割で配置されるなどトータルアルバムとしての表現に焦点が当てられ、構成の面での創意工夫が彼らの音楽が元々持っていたダイナミズムをよりくっきりと浮かび上がらせるように効果的に機能しているちょっと文句のつけようがないくらいの傑作。ラストでそれまでの各パートの旋律が断片的に貼り合わされ、これまでの道筋が走馬燈のようにリプライズされる演出なんかは猛烈に厨臭いんですが、好きです。

 

 

18. DJ Quik & Problem『Rosecrans』

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西海岸ヒップホップ。

ツイッターでフォローしているhikaru yamadaさんのツイートで知った一枚。DJ Quikって西海岸の結構有名な人だったけ?少しくらい聴いたことあったと思うけどあんまり印象に残ってない…みたいな感じだったんですがこれがめちゃくちゃよくてかなりリピートしました。ヒップホップについて何かを書くことに馴れてないのでここでもどう紹介していいか要領を得ないんですが、ひとつひとつの音がクッキリしててきちんと圧がありながらもうるさい感じにならないトラックがいちいち気持ちいいな~と。キーボードのアドリブ?とかで音をグワングワン揺らす感じとかもいかにもな猥雑さでいいすね。

 

 

17. DJ Yazi『Pulse』

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エクスペリメンタル~アンビエントからテクノまで用いたDJ MIX。

2017年という年は自分が今まであまり積極的に関わって来なかったDJカルチャーについて多少ではありますがこれまでより関心や理解を得られた年かなと思っていて、本作もそんな中で出会った一枚。ザラついたノイズ/エクスペリメンタル、空間を押し広げるようなアンビエント、そして階段を一段ずつ降りていくように徐々に徐々に深みへ誘うように鳴るビートが複雑に交錯し正に“ズブズブ”な音世界が描かれています。スピーカーに吸い寄せられるような、引力を感じる音。魔術じみた魅力があります。

 

 

16. The Necks『Unfold』

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即興演奏。

活動歴30年を超えるオーストラリアのピアノトリオ編成のバンドThe Necksのアルバム。彼らの演奏は全編即興によるものですが、リズムフリーなものではなく、3者それぞれが(おそらく別々の)緩いパルスの下で演奏を行い、その重なりと持続によって同期/非同期を超えたグルーヴのようなものや音の射程がどこまでも伸びていくような感覚を味わわせてくれる独自のものです。今作ではそんな彼らの現在の姿が20分前後の演奏4編という(彼らにしては)コンパクトなかたちで捉えられています。③、④は特に繰り返し聴きました。

 

 

15. Kassel Jaeger『Aster』

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電子音響/ドローン。

サウンドエンジニアやアートディレクターとしても活動しているフランスのアーティスト、フランソワ・ボネによるコンポーザー、サウンドアーティスト名義カセル・イェーガーの作品。近年コラボワークを中心に傑作を連発していただけに待望のソロ新作といった感じで、電子音響だったりドローンの界隈では今年随一の話題作だったのではないでしょうか。内容も素晴らしく、目の粗い電子ノイズやレトロな電子音など多彩なマテリアルを用いつつアートワークの月夜?にひとり佇むような孤独感だったり、その光に照らされて浮かび上がる生き物の気配だったりを感じさせるような、情景描写的なアンビエントとして聴ける音に纏め上げられててセンスあるなあと。特にノイズ的な音色以外の持続音の(ハーモニー的な面での)扱いは興味深くて、おそらく十二音の中で奏でられた和音と、そこから外れるような周波数が重なったり入れ替わり立ち代わりで表れたりで描かれる色合いが、場面場面で情緒は感じさせつつ安易にならない塩梅でなんというかとても参考になります。ノイズドローンでもなく器楽的なアンビエントでもないところを電子音響作品としての硬派さを維持しながらしっかりと突いていて、ノイズドローンが好きな人にも器楽的なアンビエントが好きな人にも今是非聴いてみてもらいたい一枚だなと強く思います。

 

 

14. Tyshawn Sorey『Verisimilitude』

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現代音楽の音使いを取り入れたジャズ/インプロヴァイズド・ミュージック。

ドラマー/コンポーザーとして活動するタイショーン・ソーリーの6作目となるリーダーアルバム。これまで作品ごとに異なる編成を採用してきたソーリーですが、今作は前々作『Alloy』と同じピアノトリオ編成(メンバーも同じ)。彼の作品は即興が比重として大きな役割を果たしながらも常に全体の構成だったり演奏のテンションの変化やそれに伴う展開への気配りや視線が感じられるものが多く、本作もその点は一貫しているのですが、しかしそれと同時に本作はアルバム中のどこから再生しても不思議と充実した音楽として聴けてしまう感覚があり、構成や前後に鳴っている音の存在により生じる価値とは別に、切り離された一瞬の単位でも耳を惹く強度を持った音が鳴らされている(≒即興演奏としての絶対的な意味でのクオリティの高さをより強く感じさせる)作品となっています。(こちらにもレビューあります)

 

 

13. Vijay Iyer Setet『Far From Over』

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コンテンポラリー・ジャズ。

現代のジャズシーンでも特に高い評価を受けているアメリカのピアニストが新たな編成で挑んだ意欲作。レビューはこちら

 

 

12. Phill Niblock『Rhymes With Water』

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アコースティック楽器とオーバーダビングを用いたドローン・ミュージック。

アコースティック楽器を多く用い、その音色の多層化による重奏的なドローンを長年偏執的に追及している作曲家/サウンドアーティスト、フィル・ニブロックの新作。レコードのみでリリースされた本作ではA面にフルート、B面にバス・フルートと声を用いた20分前後の楽曲を収録。彼の作品では違う音色によるユニゾンが非常に多く用いられ、それらの響きの微妙な干渉の集積から導き出される非常に複雑で高圧的、時にはヒステリックにすら感じられる音響がその最大の特徴かと思うのですが、今作ではフルートという楽器の持つノイズ成分の多さ(吹奏楽器の中では最も息の音が直接的に楽器の音色にその一部として混ざり込んでいるのではないでしょうか)が影響してか、オーバーダビングによって重奏的に重ねられた厚みのある音響にいつになく柔らかい印象を抱き、音響的な複雑さと耳当たりの滑らかさをとてもいいバランスで兼ね備えたアルバムに思えました。個人的には彼の作品で最も好きな一枚になりました。

 

 

11. Tim Berne's Snakeoil『Incidentals』

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コンテンポラリー/アヴァンギャルドなジャズ。

2010年代に入ってからのティム・バーンのメインユニットと言ってもいい感のあるスネークオイルの5作目。屈折したような(ポリ?)リズムで奏でられるコンポジションとフリーキーなインプロヴィゼーションを行き来するようなティム・バーン独自のスタイルは今作でも相変わらずですが、今作ではところどころでその電子的な音色でグループの音楽にアンビエント的なニュアンスをもたらすギターの存在や、ドラムセット以外(ヴィブラフォンなど)も演奏するチェス・スミスの機動力がこれまで以上に効果的に機能している印象で、作曲と即興の行き交いだけでは説明がつかないダイナミズムが生まれています。またそのようなダイナミックな起伏や展開がありつつも収録曲は5曲中4曲が10分程度で纏められていて、このグループの作品の中でも気軽に再生ボタンを押せる一枚になっている点も個人的には大きかったです。10分程度とはいってもその中でこのグループが持つ爆発力はしっかり捉えられていると思いますし、5曲目なんて食い足りなさを感じるどころか4分辺りからラストまで続くティム・バーンのブローイングが本当にヤバくて感動してしまいました。

 

 

10. Bruno Duplant & David Vélez『Preservation』

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無機質なドローン/アンビエント

サウンドアーティスト2者による共演作。電子音の持続とそこに微かなざわめきのように加わるフィールドレコーディング。私は聴き始めた時と聴き終わった時の自分が精神的に全く1ミリも動いてないような音楽が生きていくのに必要なタイプの人間なんですが、自分のそういった嗜好に今年最も応えてくれたのがこれでした。

 

 

9. tricot『3』

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変拍子を多用したロック。

2015年リリースの前作『A N D』を散々聴いてただけに今回のもめっちゃ期待してた一枚。最初こそところどころで多少とっつき難さ感じる部分あったものの2017年終わって振り返ってみればそんなん霞むくらいに聴きまくりました。前作と比べるといろんな意味でソリッドになってる印象で、こっちに慣れると過去作がちょっと重鈍にすら感じるくらいキレのいい演奏が最高。持ち前の変拍子キメまくりな楽曲ももちろんいいんですけど今作においては聴き込むほどに「よそいき」「スキマ」「エコー」「メロンソーダ」辺りのそれにあまり頼っていない楽曲の存在感が自分の中で大きくなっていく感じありました。

 

 

8. Kazuya Ishigami『A-Z-B Men』

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電子音響/ドローン。

大阪の電子音楽家/サウンドアーティスト石上和也の作品。レビューはこちら

 

 

7. 今井和雄『the seasons ill』

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フリージャズの要素もある爆発的な即興演奏。

これについてはこちらこちらでだいたい書きたいことは書いてしまってるんですが…。26分の1曲目、28分の2曲目ともにずーーーっといろんなタイプの快楽的な音が出てるといって差し支えないような内容なんですが、中でも時折出てくる(弾いて出してる時もあれば弦を擦るような奏法の合間に不意に出ているようなこともある)金属的な音なんかはフリージャズやインプロというよりはGang Of Fourのアンディ・ギルのカッティングのようなエッジーさが感じられてめちゃくちゃかっこいい。

 

 

6. Chiyoko Szlavnics『During A Lifetime』

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現代音楽。

Another TimbreのCanadian Composers Seriesよりリリースされたカナダの作曲家チヨコ・スラヴニクスの作品集。作風としてはロングトーンの連なりで描かれるドローン的ともいえそうなもので、ひとつの楽器が複数の音程を行き交いするようなフレーズと呼べるような動きをすることはありません。おそらく純正律微分音などを用いているのでしょうか、聴き慣れた和声の移り変わりから得られる進行感や、特定のイメージの想起をほとんど感じさせない音の抜き差しと移り変わりの中で、不安定さとそこから時折浮かび上がる美しさがせめぎ合うような非常に偏執的な“ハーモニーの音楽”が形作られているように思います。特にアコースティック楽器に加えサイン波を用いた①、③が素晴らしく、1曲目「During A Lifetime」において個別に鳴っている数種のサックスがそこに加わるサイン波とそれによってもたらされるうなりによって広がりや溶け合うような音響の変化を見せる場面などは、音の揺らぎが持つ底知れない豊かさを純粋なかたちで取り出したような美しさを感じさせてくれます。

 

 

5. Haptic『ten years under the earth』

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サウンドアートの視点で演奏、録音、編集された電子/アコースティック/楽器/物の境界を跨ぐ音の連なり。

シカゴを拠点とするJoseph Clayton Mills、Steven Hess、Adam SonderbergによるユニットHapticによる作品。今作では新たにメンバーとしてTim Barnesが加わっているようで初の四人編成でのアルバムとなっています。本作はこれまでの作品でも感じられたインスタレーション/サウンドアート的な場や空間を活かした表現と、その視点による演奏行為の及ぶ対象の拡張がより強固に前景化した印象。楽器以外のモノによる“演奏”が本作では非常に抽象的というかまばらに配置され、音楽的に捉えればとりとめのない、しかしそこに縛られなければフィールドレコーディング的なリアルタイム性だったりある種の自然さや無常感?のようなものが感じられる音の連なりに結実しているように思います。本作の後に過去作を聴き返すと今までは音のマテリアルを編集によってかなり音楽的な構造に寄せているような印象すらあって面白いです。  

 

 

4. Matthew Stevens『Preverbal』

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ジャズミュージシャンが音作りや録音、編集におけるエレクトロニックな手法を大きく取り入れ制作した音楽。

アメリカのコンテンポラリージャズシーンで活躍するギタリストのセカンドアルバム。ギターのエフェクテブな音色の多用やオーバーダビング、エレクトリックベースまたはシンセベースの使用、サンプラーパッドの使用、加えておそらく録音後の加工(ポストプロダクション)なども用いギタートリオという編成でできうる限りの選択肢を活用したポストロック的とも捉えられそうな一枚。しかし方法論の面でそのような捉え方ができる一方、実際に聴こえてくる音はというと作曲の面ではなかなかロック系のミュージシャンでは到達できない和声的な複雑さと豊かさを、その展開や演奏の端々からは強いリアルタイム性を、音作りの面では電子的な音色を多く用いながらも1stと地続きなどこかアーシーさを感じさせる響きを、といった具合にジャズや彼がフェイバリットに挙げるダニエル・ラノワの作品の影響が随所に反映されていて、方法論に自らの音楽が引っ張られているような部分はなく見事に自分の音楽を鳴らし切っています。「美しく必然的なやり方で、アコースティックとエレクトリックの要素を混ぜ合わせる能力に驚かされる」とは彼がダニエル・ラノワの音楽について語った言葉ですが、本作は正にこれがそのまま当てはまるように必然的なやり方でエレクトリックの要素が取り入れられた一枚ではないでしょうか。

 

 

3. Hisato Higuchi『Kietsuzukeru Echo』

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アシッドフォーク。

ヒスノイズ、とギターと歌。彼の音源には他のアシッドフォークと形容されるシンガーソングライターと比べても異質なほど実況録音性があるような気がしていたんですが、本作ではそういった感覚がさらに増している印象で、なんか朝起きてなんやかんやの身支度して出かけたりといった生活すべてを録っていてその中からふと一息ついてギターを持ち歌った部分だけを抜粋して聴かされているような感じがあります。日常とグラデーショナルに続いたようなアンビエンスからギターと声が浮かび上がり、そして消えていく様に眠りに落ちる瞬間のような沈み込む(浮かび上がる?)感覚と官能的な美しさを感じます。あとこれ、何度聴いても曲をしっかり覚えきれない感じがあって、ギターと声による弾き語りってスタイルにも関わらずとても抽象的な(アンビエント的な?)音楽として成立してしまってるところが本当に素晴らしいですね。

 

 

2. Colin Vallon『Danse』

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フレーズの反復を多用したコンテンポラリー・ジャズ。

スイスのピアニスト、コリン・ヴァロン率いるトリオの現メンバーでは二作目となるアルバム。叙情的な曲調と変拍子ポリリズムなどを用いたリズム面の創意工夫を融合させた音楽性で高い評価を得ている彼らですが、本作では反復されるピアノのフレーズに非常に耳に残りやすいものを用いたメロディアスな楽曲が多く収録され、彼らの音楽に初めて触れる方には特におすすめできるような聴きやすさを持った作品となっています。前作から参加し、多彩な金物の仕様や電子的なエフェクトを模したと思われる創造的な演奏で注目を浴びたドラムのジュリアン・サルトリウスもそういったメロディアスな楽曲ではエフェクテブな音色は控えめに用い、いい意味でその存在が楽曲の持つ美しさの中に溶け込んでいるような印象です。時間としては短いものですが④、⑥、⑨などでは反復といった形式に収束しない引っかかりの多いリズムの演奏だったり、速度感のあるインプロ寄りの演奏、プリペアドピアノ的な音色の使用も行われていてこの辺りの方法論にこの後のグループの可能性を聴きとることもできるかもしれません。

 

 

1. Linda Catlin Smith『Drifter』

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現代音楽。

カナダの作曲家リンダ・カトリン・スミスの2枚組作品集。印象派から無調前夜までを巧みに行き来するような和声感覚、モートン・フェルドマンのような掴みどころのない発音のタイミング(リズム)、そしてなにより特殊な奏法などを用いないオーセンティックなクラシック音楽の範疇に収まる表現方法を用いて、ここまでテクスチャーの豊かな音楽を構築することができるということに感銘を受けました。詳しくはこちら

 

Linda Catlin Smith『Drifter』

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カナダの作曲家リンダ・カトリン・スミスの2枚組作品集『Drifter』は間違いなく2017年に手に取った音楽作品で最も感銘を受けた1作でした。楽曲の制作時期に開きがあり、それぞれ独立して制作されたものを纏めた作品集という趣が強いためなかなかアルバム作品として何らかの位置づけを示したり、いわゆるレビューを書いたりといったことが難しいもののように思えていたのですが、しかし1年通して非常に聴き込んだ作品でもあるため何か書き残しておきたいという思いもあり、ここでは収録曲全曲についてその感想を覚え書きとして置いておきたいと思います。

 

〖Disc 1〗

1. Cantilena

ヴィオラヴィブラフォンのための作品。冒頭から4:10辺りまでをモチーフの提示、休止を挟みそこから8:40辺りまでをその大胆な変形、また休止を挟み11:30辺りまでをモチーフの再現、と聴くことができそうな構成となっている。モチーフの提示と再現のような場面においてはヴィブラフォンは和音やアルペジオ的な演奏で和声感の補助的な役割を担っているように聴こえるが、変形の場面においては時間が進むにつれヴァイオリンが発する音との関係性が素直に見出し難くなり、またヴァイオリンも徐々にフレーズという認識がし難いようなロングトーン中心の演奏に移行していくこともあって非常にとりとめのない印象を受けるものとなっている。

 

2. Piano Quintet

ピアノと弦楽四重奏のための作品。冒頭から非常に複雑な(対位法的な?)弦のフレーズの絡み合いが提示され、それによって耳の焦点があちこちに振られるような、弦楽四重奏という編成がもつ物理的な立体性(横の配置とそれに伴う広がり)を意識させられるような音楽が形作られる。5:20辺りからは大きく様相を変え、弦はユニゾンや協和度の高いハーモニーを非常に長いトーンで演奏し、4つの弦楽器がまるでひとつの楽器として機能するような用い方をされている。前半とは立体性を意識させられるといった意味では通じながらもこちらは音がスピーカーの前後に伸びていくような感覚。ピアノは多くの時間でいくつかの和音を行き来するような演奏をしているように聴こえるが、弦の様相の変わり目(5:20~6:00辺り)で落とされるいくつかの音は事情が違うのかとても印象的に響く。終盤のアルペジオ主体の演奏も美しい。

 

3. Drifter

youtu.be

ピアノとギターのための作品。いくつかのパートから成り立っているが、その多くで楽器間でのフレーズの反復(模倣といったほうが適切かもしれない)が用いられている。演奏は一方が出した単音なり和音をもう一方が反復し、それを交互に(厳密には交互ではないだろうけど入れ替わり立ち代わりしながら)行うことで進んでいくのだが、音の反復は一方がいくつかの単音または和音が連なったフレーズを弾いた場合にはそれらをすべて繰り返すのではなく、フレーズの最後の音のみであったり一部の音を抜き出して反復するというかたちをとることが多い。

*各パートの大雑把な概要を記しておく

[00:00~01:30]  単音と簡素な和音を中心としたフレーズを2つの楽器が模倣し合う。微かに仄暗く虚ろな感触の、しかし非常に美しいメロディー(のようなもの)が聴き取れる。テーマの提示部のような位置付けか。

[01:30〜04:08]  和音を中心とした発音と楽器間での部分的反復、模倣。

[04:08〜05:18]  冒頭のテーマの変奏のように聴こえる。ギターの単音の爪弾きが非常に印象的。パートの終結部で2度繰り返されるギターの和音の響き、とその後に演奏される1音への動きがとても美しい。
[05:18〜08:45]  再び和音中心の発音と楽器間での部分的な反復、模倣。6:45辺りで2つの楽器が同じ和音をユニゾンで奏で始め、7:05辺りで一度終始感がある。それ以降はそれまで同時に発音されていた和音の中に時折アルペジオでの発音が加わる。

[08:45~12:05]  ピアノはメインとなるひと連なりのパートを演奏し、ギターがゆったりとしたコード弾きや単音でそれに応じる。10:30辺りからは楽器間で単音のフレーズの反復や受け渡しも行われる。(*上掲の動画はこのパートの冒頭から2つ先のパートの中盤辺りまでとなっている)

[12:05~15:16]  単音による息の長いメロディーをふたつの楽器がユニゾンで奏でる。ソナタ形式における再現部のような位置付けか。ソナタ形式では提示部において違う調で演奏された2つの主題が再現部において同じ調で演奏されることで統合性を演出するということが行われるわけだが、ここでは冒頭から一方が一方を追いかけるように演奏され、時間の上でのズレを強く認識させていた2つの楽器の関係性が初めてぴったりと重なるという方法でそれが示されているのかもしれない。

[15:16~18:05]  同じ和音をギターとピアノが交互に発音することから始まり、その後はひとつのメロディーラインの音を交互に演奏するような(いわばひとつのラインを2つの楽器が共同作業で奏でているような)場面へ、さらにコール&レスポンスのように同じ音型を発しあう場面へと移行する。前のパートとは違ったかたちで2つの演奏パートの統合性を演出しようとする意図が伺える。

[18:05〜21:53]  和音を中心とした発音と楽器間でのその部分的な模倣。ところどころに前パートで演奏された単音のフレーズの断片のようなものが聴き取れる。最後はユニゾンで終始。

 

4. Gondola

弦楽四重奏のための作品。複数の楽器がひとつのラインをユニゾンで演奏し、他の楽器がそこに切れ切れに単音のロングトーンを重ねたり、全員で演奏される厚みのあるパートとヴァイオリンのか細い高音のロングトーンが入れ代わり立ち代わり表れたり、ヴァイオリンとヴィオラの和音のピッチカートの上でチェロが朗々と旋律を弾いたり、「Piano Quintet」の前半部のような立体的なフレーズの絡み合いが提示されたりと様相の変化が著しいが、どのパートでも非常に息の合った演奏でとても聴き応えがある。この作品集には弦楽四重奏が演奏に加わった作品がいくつか収録されているが、その中でも本作は弦の音域を(特に高域のほうに)広く使っている印象で、ヴァイオリンの高音の擦れた音なども(意図的なものかはわからないが)聴くことができる。

 

5. Moi Qui Tremblais

ピアノ、ヴァイオリン、パーカッションのための作品。ピアノは3、4つほどの和音をフレーズとして意識される一定の順序での発音を随所に挟みながら、固定のリズムパターンの上で鳴らし続ける。ヴァイオリンはロングトーンのみを演奏。パーカッションはバスドラムとシンバルを用い、それらを常に同時に鳴らす。楽曲をかたち作る中心はピアノが発するいくつかの和音とそのリズムパターンで、複数用いられている和音も色合いとしては近いものが多く彼女の作品の中では比較的素直にミニマルな印象を残す。しかしピアノが演奏するリズムパターンに対しパーカッションが打たれるタイミングが(おそらくきちんと書かれたものであると思うがその複雑さ故に)非常に掴みどころがなく、印象としてはどこかインプロヴァイズド・ミュージックに近い感覚がある。ちなみにこの楽曲は彼女のデビューアルバム『Memory Forms』にも収録されているが、テンポの大きく異なる演奏で本作に収録されているものより演奏時間が3分以上短い。

 

 

〖Disc 2〗

 1. Ricercar

無伴奏チェロのための作品。同時発音があまりできない無伴奏チェロという演奏形態においても彼女の作品独特の和声感やそれに伴う雰囲気が減ぜられることなく感じられる1曲。このことから彼女の作品の和声感覚においては、同時に発音される音の組み合わせ(いわば縦の積み方)以上にどの音からどの音からへ動くか(つまり横の動き)に大きな特徴があるのではないかと推測できる。

 

2. Far From Shore

ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための作品。ヴァイオリンとチェロはリズムが同期した異なる旋律を演奏することでハーモニーを生み出し、ピアノはそこに和音を落とす。4分辺りで一度弦楽器の演奏が途絶えるとピアノはモートン・フェルドマンの楽曲を想起させるような和音を繰り返し発し、再び演奏に加わった弦楽器はそれまでより速度感を落としたようなやや重い足取りで旋律を演奏する。9分辺りからはヴァイオリンの高音と、この作品集ではあまり耳にしなかったピアノの低音の不穏な響きが合わさり非常に現代音楽的な響きへ。「Piano Quintet」からヴァイオリン1本とヴィオラを抜いた編成のためそちらと通じるような音楽性も感じられるが、やはり楽器が少ない分だけ弦楽器の動きなどはこちらのほうが非常に把握しやすく、結果的にピアノの音やその美しさがより強く耳に残る1曲になっている。楽曲は終始虚ろなトーンで進むが15:10秒辺りでピアノが演奏する和音にはそこに微かに差す光のような違った色合いが感じられる。


3. Galanthus

無伴奏ヴァイオリンのための作品。演奏形態のためかモチーフの反復と変形により成り立っていることがわかりやすく聴き取れる1曲。またここまで聴いてくるとモチーフ自体に非常に強い記名性を感じることもできる。モチーフの変形やその記名性は他作品でも随所に表れており、そう考えると非常にクラシック音楽の正統をいく音楽の作り方をしていると捉えることもできそう。

 

4. Poire

ロピアノのための作品。他の作品では聴くことができないピアノの強い打鍵が耳に残る作品。多楽器編成では聴くことができない強弱を強調した作風であることから、彼女は作曲家としてひとつの方法論を様々な楽器編成に持ち込むタイプというよりは、その編成だからこそできることを都度持ち出し表現する(または表現したいことに必要な編成を組む)タイプなのかもと思わせられる1曲。

 

5. Folkestone

youtu.be

弦楽四重奏のための作品。演奏時間は32分を超える長大な作品で短い休止を挟んで演奏されるいくつものパートから成り立っている。演奏には何らかの特殊な演奏法などが用いられることはなく(途中で一か所大胆な音程のベンディングが聴こえるが、それ以外ではピッチカートすら用いていない)、オーセンティックな弦楽四重奏の書法からはみ出すようなことはほとんどしていないように思う。休止を挟んで表れる様々なパートの中で、「Piano Quintet」で大胆に提示してみせた弦楽四重奏の持つ立体性をよりグラデーショナルなかたちで提示しているようにも聴こえる。そういった部分が作用してか、弦楽四重奏という古めかしい演奏形式と32分という長大さがありながら、その響きに聴き飽きることはあまりなく、オーセンティックな演奏法のみを用いているとは思えないほどテクスチャーの音楽としての豊かさを感じる作品になっている。各パートにおける音楽の様相の変化などについてはその長大さ故にまだまだ把握しきれていないが(その辺りは波形を見ながら聴くと多少掴みやすいかもしれない)いくつか特に印象的な箇所を挙げるならば、

[25:25~]  ヴィオラがゆったりと旋律を歌い上げる。ショスタコーヴィチヴィオラ・ソナタop.147の第三楽章を想起するような官能性と微かな不穏さを感じさせる色合いが美しい。(ちなみに上掲の動画はこのパートの直前で終わっている……)

[29:08~]  ヴァイオリンが擦れた高音で旋律を歌い上げ、そこに他の楽器が同時に重なり和音を形成する。ヴァイオリンの高音の音色は最早口笛のようにすら聴こえる不安定で寒々しいものだが、そこに加わる他楽器による和音はそれを包み込むような温かさや(ベートーヴェンの後期弦楽四重奏を想起させるような)慈しみ深さを持って響きその対比が素晴らしい。

といった辺り。どちらもテクスチャーの豊かさで聴かせることに主眼があるように聴こえる本作において、旋律の持つ力を濃厚に感じさせる瞬間でやはりどうしても印象に強く残る。

今月のお気に入り(2017年12月)

Tim Berne's Snakeoil『Incidentals』

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・Jon Hassell『Last Night Moon Came Dropping Its Clothes Street』

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Merzbow『Hyakki Echo』

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Merzbow『kaoscitron』

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・Haptic『Scilens』

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・The National『Sleep Well Beast

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・Eleh『Home Age』

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・Radio Ensembles Aiida『IN A ROOM (Radio of the Day#1)』

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・Samuel Blaser Quartet『Pieces Of Old Sky』

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・Víkingur Ólafsson『Philip Glass: Piano Works』

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・Agrima『Indo-Pak Coalition』

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・Fabio Perletta『Ichinen 一念』

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・Michael Pisaro『Asleep, Street, Pipes, Tones』

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・Dante Boon『Düsseldorf Recital』

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・Sarah Davichi『All My Circles Run』

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・jjj『HIKARI』

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Untitled Medley「音楽ファンが選ぶ2017年のジャズアルバム12選」

現代のジャズを中心に取り上げるレビューサイト《Untitled Medley》の企画「音楽ファンが選ぶ2017年のジャズアルバム12選」に参加させていただきました。

前後編合わせて24枚のアルバムが紹介され、2017年のジャズの多様性を物語る面白いセレクトになっていると思います。

私は前編、後編共に3作の選盤とレビューを担当させていただきました。

是非ともお読みください。

untitledmedley.com

untitledmedley.com

今月のお気に入り(2017年11月)

月の半ば辺りからはストリーミングでECMばかり聴いてました。

 

・Eliane Radigue『occam ocean 1』

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・JUSWANNA『湾岸 SEAWEED』

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・Yuji Takahashi and Kazuhisa Uchihashi『U9』

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・Muhal Richard Abrams with Malachi Favors『Sightsong』

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Brad Mehldau『Largo』

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ポルカドットスティングレイ『全知全能』

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・For Tracy Hyde『he(r)art』

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・Celano / Baggiani Group『Una Noche en Bimhuis』

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・Tomoko Sauvage『Musique Hydromantique』

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・Claire M Singer『Fairge』

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・Carl Michael von Hausswolff『Still Life - Requiem』

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・Olivier Alary『Pieces for Sine Wave Oscillators』

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・Maciej Obara Quartet『Unloved

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・David Virelles『Gnosis』

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・Björn Meyer『Provanance』

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・Rainer Brüninghaus『Freigeweht』

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・Dino Saluzzi, Palle Danielsson, Jose Maria Saluzzi『Responsorium』

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Kenny Wheeler『Music For Large & Small Ensemble』

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・Haptic『ten years under the earth』

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・Nakama『Worst Generation』

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・Lasse-Marc Riek『Saison Concrète』

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ECMレーベルのストリーミング解禁に寄せて ~50/51のディスクガイド~

一週間ほど前でしょうか、ジャズを中心にリリースするドイツのレーベルECMの全カタログが各種サブスクリプションサービスで配信されることが発表されました。

私自身Apple Musicにはよくお世話になっている身ですが、音楽好きな知人との会話など身近なところでその欠点(?)として「でもあれにはECMないからね~」なんて口に出すことも結構あったくらいなのでこれは本当に衝撃で、それ以降片っ端からECMの作品ばかり聴いてしまっています(笑)

ですがツイッターなどで繋がっている音楽好きの反応など見ていると、ジャズを多く聴くような方に関しては好きな作品を話題に出したり何らかのリアクションをしていることが多いのですが、それ以外の方となると勿論喜ばしいこととして受け入れつつも一気に膨大な数の作品が聴取可能になったことでどこから手を付けたらいいのか…といった戸惑いも見受けられるように思います。

たしかにECMというレーベルはジャズを中心としながらもカタログ数が膨大なだけに非常に多様な面を持ったレーベルで、どこから手をつけるかによってその印象も大きく変わってくるでしょうし、ある程度の数このレーベルの作品を聴いた方でも各々が思い浮かべる「ECMらしさ」みたいなものにはかなりギャップ出てきてもおかしくないような把握しきれなさを持った存在です。

なのでここではその広大さを前に戸惑っている方の足掛かりになることを念頭に、私個人が好きなECM作品をそこから読み取れる何らかの共通項からいくつかのカテゴリに分けて紹介してみたいと思います。

結果として個人の観測範囲からこのレーベルの大まかな見取り図を描く試みになればという思いもありますが、ここで示されるカテゴリはあくまで私個人が好きで聴いていたものから導き出したものでしかなく、レーベルの全体像を示すことを最優先としたものではないので、相当に偏りのある視点から書かれたものであることに留意して目を通していただければと思います。

前提として、私のECM作品の聴取の傾向としては2010,2011年辺りから徐々にその作品を手に取り始め、新譜や比較的近年(2000年以降)の作品を優先的に聴いています。70年代後半~80年代初頭などレーベルの代表作といえるようなものが多くリリースされた時期はともかく、80年代半ばから90年代の作品についてはまだあまり手をつけられていないのが現状です。なのでここで紹介する作品もそういった傾向が大きく反映されたセレクトになるかと思います。

 

すみません、前置きが長くなってしまいましたね。

本投稿はECMのストリーミング解禁を祝した意味合いも大きいので、作品名にはApple Musicのリンク付けを、各カテゴリの最後にはその項で取り上げた作品から1曲ずつ登録したSpotifyのプレイリストの埋め込みを行っています。気になったものがあれば是非リンクからすぐにでもお聴きください。

アートワークが大き目のものは特にオススメの作品です。

ではどうぞ。

 

 

 

 

 

1. ソロ、スタンダーズ以外のキース・ジャレット

 ECMといえばキース・ジャレットのソロ*1やスタンダーズをまず思い浮かべる方は多いと思います。しかしもちろん彼の活動はそれだけではなく他にも多くの印象深い作品をこのレーベルに残しています。ここでは例えばケルン・コンサートなどから入り他のECM作品へ手を伸ばす際の足掛かりになればと思い、ソロ、スタンダーズ以外の作品から個人的に好きなものをいくつか。

 

Keith Jarrett, Jan Garbarek, Palle Danielsson, Jon ChristensenSleeper (Live)

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 キース・ジャレットヤン・ガルバレクなどのヨローッパの奏者達と組んだヨーロピアン・カルテット*2によるライブ盤。キース・ジャレットの活動で個人的に最も好きなのがこのヨーロピアン・カルテットだったりします。メンバーのヤン・ガルバレクヨン・クリステンセンなどはECMの看板奏者でもありその美学に沿った耽美な演奏もよく聴かせてくれますが、ここではジャズ的なビート感や熱気によってこのユニットの持ち味である歌心が加速されたような、高揚感のある演奏が繰り広げられています。

 

Kenny Wheeler, Keith Jarrett, Dave Holland, Jack DejohnetteGnu High

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 今となっては珍しい感もある、キース・ジャレットがサイドマンとして参加した作品*3。冒頭からふくよかな音色を聴かせてくれるケニー・ホイーラーのフリューゲル・ホルン、1曲目中盤でのキースのソロをはじめ非常に聴きどころの多いアルバムとなっています。キースは後にジャック・ディジョネットをスタンダーズのメンバーとして迎えるわけですが、それも大いに頷けるくらいここでも見事に双方が高め合っていくような演奏を聴かせてくれます。キース好きでこれ見落としている方がもしいたらとても勿体ないので是非聴いてみてください。

 

Keith JarrettDmitri Shostakovich: 24 Preludes and Fugues, Op. 87

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 キース・ジャレットクラシック音楽の録音もECMから結構リリースしてるんですよね。正直そういった作品に対しては個人的にこれまで興味がなく、この機会にと思って初めて聴いてみたのですが案外いい感じでした。まあショスタコーヴィチ前奏曲とフーガの演奏は他ではリヒテルのものを少し聴いたことがあるくらいなので、曲自体が新鮮に響いたのか演奏がよかったのかはちょっとわからないんですが…。

 

 

 

 

2. プログレッシブ・ロックフュージョンニューエイジなどの影響

 ECMは基本的にはジャズのレーベルという認識で間違いはないと思うのですが、特に70年代後半から80年代初頭辺りの時期はジャズと合わせて同時代音楽としてのプログレッシブ・ロックフュージョンニューエイジなどにも大きく影響を受けたと思われるサウンドの作品が多くリリースされています。ジャズに馴染みがなく、ECMに対しても敷居が高いイメージで敬遠されている方などはこの辺りの作品から入るのもいいかもしれません。

 

Terje RypdalWhenever I Seem To Be Far Away

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 ノルウェーのギタリスト、テリエ・リピダルの作品。メロトロンとか入っててかなりシリアスなプログレっぽいサウンドなのでキング・クリムゾン好きな方とかに是非聴いてみてほしいです。

 

Terje RypdalWaves

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 上掲の『Whenever~』と比べるとややリラックスしたムードで聴きやすい作風。こちらから先に聴いたほうがいいかもです。

 

Eberhard WeberThe Colours Of Chloe

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 パッと見ではまずECMだと思わないようなメルヘンチックなジャケが面白い一枚。ジャズの要素もありますが、それも移り変わる場面のうちのひとつといった感じで厚い弦楽が旋律を奏でる場面やエレピなどが加わるジャズロック的場面などと並列に扱われている印象です。ベーシストのリーダー作ということもあってかわかりやすく大き目な音でミックスされたフレットレスベースの音色に耽美で静かなジャズからこのレーベルに入った身としては最初は面食らいました(笑)

 

・Rainer Bruninghaus『Freigeweht

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 シンセのレトロな音色のシーケンスのうえでピアノ弾いた時のサウンドがとてもニューエイジっぽい、ここで挙げている作品でも特に人を選ばない一枚かと思います。名作。ジジ・マシンとか好きな方も是非。

 

・Steve Swallow『Home

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 リーダーはベーシストのスティーブ・スワロウですが、詩人ロバート・クリーリーの詩とのコラボレーションという体裁のアルバムみたいです。これは何曲かでライル・メイズのシンセ(パッド的な音色でコード流すだけ)が入ってたり、曲の後半で歌が入ったりするくらいでバランス的にはフュージョンってほどでもない気がしますが。

 

David TornCloud About Mercury

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 ベース(スティック)にトニー・レヴィン、ドラムはビル・ブラッフォードといういかにもプログレなメンバー。音楽性としては全体的にシンセ(シンセ・ベースやシンセ・ドラムなども含む)が多く用いられていて浮遊感やエキゾチックさ?も感じられる面白い内容です。

 

Jan GarbarekIn Praise of Dreams

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 ECMの看板奏者といってもいいサックスプレイヤー、ヤン・ガルバレクは70年代や80年代といった時期にはどちらかというとアコースティックなサウンドを志向していた印象がありますが、近年では電子音などを用いたニューエイジアンビエント的に聴こえる作品をリリースしています。これは2004年の作品。

 

Jan Garbarek, Nana Vasconcelos, John AbercrombieEventyr

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 項の最初で書いたような同時代の音に影響を受けたといったかたちではないと思いますが、ヨーロッパ、南米、アメリカと異なる地域の奏者によるコラボレーションによって生まれた本作もECMならではのかたちで実現されたフュージョンという認識もできるかもしれません。エキゾチックさのようなものを感じる瞬間は多くあるのですがそれが何らかの特定のイメージに結びつかず、架空の民族音楽といった趣があります。

 

 

 

 

3. 静音

 ECMというレーベルを大きく特徴付けている「沈黙の次に美しい音」というコンセプトですが、リリースされる作品の方向性が多様化した現在では必ずしもその文言とストレートに結びつかないように聴こえるものも多いように思います。しかしやはりECMというレーベルを語るうえでは“静けさ”やそれに伴う“美しさ”は外せない観点ですし、そういった価値観をジャズの分野で大きく打ち出したことがこのレーベルの一義的な功績といっても過言ではないでしょう。

 

Bobo StensonGoodbye

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 ECM的な美意識を最も体現しているピアニストといえばボボ・ステンソンではないでしょうか。北欧のメンバーで固めたAnders Jormin、Jon Christensenとのトリオ作も是非聴いていただきたいのですが、ここでは彼のディスコグラフィーにおいて“静けさ”という面では特に秀でていると思われる、ドラムにポール・モチアンを迎えたアルバムをチョイス。1曲目、5秒間の無音の後の曲の出だしの音、ジャケットを見ながら聴いてみてください。

 

Paul BleyOpen, To Love

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 ECMの代表的な作品として挙がることも多いポール・ブレイのピアノソロ・アルバム。例えばキース・ジャレットのそれと比べると非常に緊張感の高い演奏に聴こえますし、静けさといってもここにあるのは安らぎを覚えるものというよりは神経質で、今にも崩れてしまいそうな刹那的なものに思えるのですが、それ故に過剰なほどの美しさが表現されている一枚だと思います。

 

Jan GarbarekDis

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 共にECMの看板プレイヤーといってもいい存在のヤン・ガルバレクラルフ・タウナーによるデュオ作。冒頭を含めいくつかの曲で鳴るウィンドハープの音色が示すような寒々しいアンビエンスを放つ作品で、静けさがありながらも厳しい冬の乾いた風や荒涼とした大地を思わせるサウンドはイージーリスニング的なものとは一線を画しています。リアルタイムで聴かれた方には勿論違って聴こえたと思いますが、2000年以降のECMの静かな作品などに馴染んだ自分からすると遡って聴いた70年代の作品などには意外なほど力強いジャズといった印象を受けることが多く、今作にもサックスとギターのデュオとは思えないほど骨太な鳴りを感じます。

 

・Jakob Bro『Gefion

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 ECMレーベルからリリースのあるギタリストというと、ラルフ・タウナーテリエ・リピダルジョン・アバークロンビービル・フリゼールなどが挙がるかと思いますが、近年のリリースでは78年生まれのデンマーク・出身のヤコブ・ブロが欠かせない存在でしょう。前述したギタリストたちとはフォーキーな音楽性やエフェクトを多用した音色といった面で共通項がありながらも、それらを用いて淡いアンビエンスを生み出す演奏は彼にしかできない個性的なものではないでしょうか。本作はギタートリオという編成でありながら、ギターはまるで背景に退くかのように空間を意識したプレイが多く、それによって共演のトーマス・モーガンヨン・クリステンセンの演奏の素晴らしさが浮かび上がってくるような不思議なバランスで成り立った音楽となっています。

 

・Colin Vallon Trio『Le Vent

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 スイスのピアニスト、コリン・ヴァロンをリーダーとしたトリオの作品。静けさと叙情性を持ったECMらしいピアノトリオといった面もありながら、彼らはそこに変拍子ポリリズムといった構造的な創意工夫を巧みに持ち込み、独自の美しさとグルーヴを持った音を奏でています。

 

・Tigran Hamasyan, Arve Henriksen, Eivind Aarset, Jan Bang『Atmosphères

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 アルバム毎に違った試みを聴かせてくれる多彩な活動によって所謂ジャズリスナー以外の層にもその存在を大きくアピールしているアルメニア出身のピアニスト、ティグラン・ハマシアンがノルウェー演奏家たちとコラボレーションした一枚。聴き心地としては私が耳にしたことがあるECM作品の中ではトップクラスにサウンドスケープアンビエント的な内容で、それに加えて即興性が高いことに由来するのか適度な緊張感も感じられる、なんとも痒い所に手が届くアルバムです。Jan Bangのライブサンプリングが大きな存在感を放つ場面においてはニューエイジ的な趣が感じられる部分もあるので、そちらのカテゴリの作品が気に入られた方にも強くオススメします。

 

・Maciej Obara Quartet『Unloved

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 つい最近出たばかりの新作なんですが、近年耳にしたECM作品でも特にこのレーベルらしさを感じさせる一枚で素晴らしかったです。特に①、③、⑦など静かでメロディアスな曲における音量を絞ったサックス、ビート感の希薄な演奏をするドラムの音色と深いリバーブが合わさったサウンドはこれぞECMと言いたくなるような美しさ。

 

・Masabumi Kikuchi Trio『Sunrise

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 菊地雅章ECMデビュー作でありポール・モチアンの遺作ともなったアルバム。私は菊地雅章の作品は現時点で僅かしか聴いたことがなく、その個性についてもしっかりとした認識を持てていないため、本作についてもその音楽性をどこまでECMの美学と結びつけていいのかわからないのですが、静けさという点でそこに沿うものを感じさせつつもECMの録音の特徴によって多くの作品で感じられるような湿度や曇った音のイメージはほとんど感じられず、とてもドライでどこまでも意識を覚醒させる音といった印象を持ちました。ECM録音の特徴であるリヴァーブ処理は本作でも行われているのですが、にも関わらずここまでドライで毅然としたものを感じさせる作品はなかなかないような気もします。

 

Arvo PartAlina

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 エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトの楽曲を取り上げたアルバム。こちらはECMといっても現代音楽やクラシックなどをリリースするNew Seriesからの一枚。無音を多く用いるといった方向性でなく、「静けさ」を“奏でる”音楽という観点ではECMのみならず他のあらゆる音楽を含めてもこれほどのものはそうないのではと思わせられる、簡素な秩序によって純化された美しさを湛えた音楽です。アンビエント好きな方も是非。

 

 

 

 

4. 現代音楽

 先に別作品を紹介したArvo Partのアルバム『Tabra Rasa』を端緒としてECM1984年より現代音楽や古楽クラシック音楽ECM New Seriesとしてリリースし始めます。作曲家のセレクトに関してはライヒなどの著名な作曲家からそれまであまり注目されていなかったのではないかと思われる東欧の作曲家などひとつの観点で括ることは難しそうですが*4、節操なく出している感じは全くなく、聴いてみるとどれもECMの録音の特徴などにうまくフィットしている印象で丁寧なディレクションが行われていることがわかります。

 

Gavin BryarsAfter The Requiem

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 「タイタニック号の沈没」などの楽曲で著名であり、また同曲をブライアン・イーノのオブスキュア・レーベルからリリースしたことでアンビエントの源流的な位置づけをされることも多いイギリスの作曲家、ギャビン・ブライアーズの作品。演奏にはビル・フリゼールエヴァン・パーカーなどが参加。サスティンの効いたフリゼールのギターと弦楽が合わさる場面の響きなどはすごくECMならではといった趣があります。

 

・Veljo Tormis『Litany To Thunder

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 エストニアの作曲家ヴェリヨ・トルミスの合唱曲集。ECM New Seriesは他にもウクライナハンガリー、ベルギーなど普段なかなか意識することのないヨーロッパの作曲家を積極的に紹介している印象があります。*5

 

Steve ReichTehillim

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 ミニマル・ミュージックの代表的な作曲家スティーヴ・ライヒによる声楽と小編成のオーケストラのための作品。複雑な変拍子で成り立っている楽曲のようですが、それを感じさせないメロディアスさを持った作品で、ライヒの楽曲でも特に親しみやすいもののひとつかもしれません。ECMレーベルからのリリースということを意識することなく愛聴されている方も多いのではないでしょうか。

 

・Meredith Monk『Dolmen Music

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 アメリカの作曲家、ボーカリストのメレディス・モンクの作品もそのうち多くのものがECMからのリリースです。本作はミニマルミュージック的に簡素なフレーズを繰り返すピアノのうえでボーカルの可能性を拡張する彼女のパフォーマンスがじっくり楽しめる一枚。また、余談ですが、前掲のSteve Reich『Tehillim』と本作はオリジナルリリースは1984年にECM New Seriesが発足する以前(それぞれ1982年と1981年)であり、こういった分野へ着手が、ある時点での思いつきでなくそれなりの期間を経て確かな必要性を持ってなされたことが伺えます。

 

・Giacinto Scelsi『Natura Renovatur

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 音色の変化を主眼とした作曲を偏執的に追及したイタリアの作曲家、ジアチント・シェルシの作品集。

 

 

 

 

5. クラシック

 New Seriesが発足して以降、ECMクラシック音楽を専門的に演奏する演奏家と契約を結び、クラシック音楽の作品もリリースするようになります。個人的に思い入れの強い作品もあり、自分にとっては外せない一面です。

 

・Andras Schiff『Beethoven: The Piano Sonatas, Volume VIII

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 ECMと契約を結んだクラシックの演奏家の中でも一際大きな存在感を放っているのが世界的に著名なハンガリー出身のピアニスト、アンドラーシュ・シフでしょう。バッハ、シューマンなどをはじめ既に多くの録音をECMから発表していますが、2008年に完成させたベートーヴェンピアノソナタの全曲録音は演奏のクオリティに録音の美しさも相まって本当に素晴らしい出来です。ここでは個人的に特に好きな最後の3つのソナタが収められた第8集を。ECMで好きな作品はたくさんありますが、一枚だけ選ぶなら私はこれになります。詳しいレビューはこちら

 

・Kim Kashkashian, Robert Levin, Robyn Schulkowsky『Linda Bouchard • Paul Chihara • Dmitri Shostakovich

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 アメリカの女性ヴィオラ奏者、キム・カシュカシャンもECMから多くの作品を発表しているクラシックの演奏家です。このアルバムに収められているショスタコーヴィチヴィオラソナタにおいては楽曲の持つ夜の雰囲気が素晴らしい演奏、録音によって濃厚に表現されています。

 

・Carolin Widmann, Dénes Várjon『Robert Schumann: The Violin Sonatas

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 ドイツの若手ヴァイオリン奏者キャロリン・ヴィトマンはソロキャリアのスタート時からECMよりアルバムを発表し、着実にリリースを重ねています。本作は最初にリリースされたロベルト・シューマンのヴァイオリン・ソナタ集。シューマンといえばピアノ曲のイメージが強いですがそのキャリアの中には室内楽曲を集中的に書いた時期もあり、この分野においてもいい作品を残しています。ここで取り上げられているヴァイオリン・ソナタは前述した室内楽に集中的に取り組んだ時期(1842年)に書かれたものではないためシューマン室内楽作品の中でも顧みられることの少ないものかと思いますが、ソナタ一番の第一楽章における情熱的な旋律などは特に印象深いですし、私はとても好きです。 

 

 

 

 

6. 声楽 歌曲 トラディショナル

 先に紹介したメレディス・モンクの作品などもそうなのですが、ECM的なサウンドをあれこれ頭の中に思い浮かべると、声楽だったり歌曲など“声”のイメージというのも結構存在感あるんですよね。ECMのサウンドを特徴付けている深いリヴァーブは教会の残響を模したものだなんていう言説もいろんなところで読んだ気がしますし、グレゴリオ聖歌を用いたアルバム*6なんかも出してますし、やっぱそういう西洋音楽の原風景みたいなところに根差したレーベルなんでしょうかね。

 

・Elina Duni Quartet『Matanë Malit

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 アルバニアのシンガー、エリーナ・ドゥニの作品。アルバニアコソボの民謡を多く取り上げヴォーカル+ピアノトリオというジャズ的な編成で演奏しています。「別れ」を歌ったものが多いというアルバニア民謡独特の儚げな旋律を味わえるのは勿論、ところどころで拍子が変な曲が出てくるのも面白いですね。バックを務めるピアニストのコリン・ヴァロンは自作でも変拍子を多く用いた演奏を多く行っているのもあってここでも素晴らしい演奏を聴かせてくれます。

 

・Ketil Bjornstad『The Light

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 ECMから多くの作品を発表しているノルウェーのピアニスト、ケティル・ビョルンスタのアルバム。ピアノ、ヴィオラメゾソプラノヴォーカルという編成での自作の歌曲集。編成もあってか民族的な旋律というよりクラシックの歌曲に近い趣。特にノルウェー語(?)で歌われる曲がいいです。

 

・Tigran Hamasyan『Luys i Luso

 「静音」のカテゴリでも作品を取り上げたアルメニアのピアニスト、ティグラン・ハマシアンのECMデビュー作。アルメニアに伝わる宗教音楽を聖歌隊とピアノという編成のためにアレンジしたという意欲的な作品です。半音の動きが特徴的な民族音楽ならではの旋律がピアノ、または歌われる音域の違いなどによってか冷たく厳かに響いたり優しさや情緒などを感じさせたりと様々な表情を伴って表れてくるのが興味深いですし、ピアノによる即興がフィーチャーされた場面やドローン的な声の扱い、ポリフォニックな旋律のやりとりなど清閑さを保ちながらも音楽的な様相の変化は結構あるので、声楽曲に馴れていない方にも聴きやすいかもしれません。

 

 

 

 

7. フリージャズ/フリーインプロヴィゼーション

 フリージャズやフリーインプロヴィゼーションと聞くと過激なイメージでECMの静かで耽美なイメージと結びつかないと思われる方も多いと思います。しかし決して多くはありませんがそういった方向性でもとてもいい作品があるんです。

 

・Circle『Paris-Concert

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 チック・コリアがフリーに走った迷作(名作?)って評価みたいですが個人的には大好きです。サックスはアンソニー・ブラクストン*7。1曲目ではウェイン・ショーターの「Nefertiti」が演奏されているのですが、あの印象的なテーマを経て比較的理知的に聴こえるアドリブから徐々にテンションが上がってフリーブローイング的な場面へなだれ込む様が記録されていてもの凄くかっこいい…!終始フリーって感じでもないのでフリージャズ入門の一枚としてもいいんではないでしょうか。

 

Paul Bley『Ballads』

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 これApple Musicには今のところないっぽいんですがすごい名作です。手短なところではツタヤディスカスで借りられるので、機会があれば是非。レビューはこちらです。

 

・Joe Maneri, Matt Maneri『Blessed

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 アメリカのサックス/クラリネット奏者でコンポーザーのジョー・マネリとその息子でヴィオラ奏者のマット・マネリによるデュオ作。狭義のフリーインプロヴィゼーションには調性であったり特定の音楽イディオムを極力回避しつつフレーズを発し合うようないわゆるフレーズの即興と、それ以降に現れた楽器からフレーズといった単位に収束しない(ノイズなども含めた)音響を取り出し多く用いた音響的即興などありますが、ここで行われているのは基本的には前者。なのですが微分音程(microtone)を多く用いているためか音の動きから不安定な感覚を呼び起こされたり聴きなれない響きを耳にすることができます。なかなか他で聴くことのできない類の音楽だと思いますし少しでも興味のある方は是非。

 

Evan Parker, Transatlantic Art Ensemble『Boustrophedon

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 ロスコー・ミッチェル、バリー・ガイ、クレイグ・テイボーンなどもメンバーに迎えた他楽器編成のアンサンブル作品*8エヴァン・パーカーのリーダー作であることから即興が大きな役割を果たしているとは思いますが、今作はわかりやすく全員がフリーハンドで演奏するようなカオティックな場面は少なく、各楽器が代わる代わるバランスよく音を発しているため、楽譜にコードやメロディーを書き込むかたちではなくとも何らかの、それもかなり緻密な指示の下演奏が行われているような印象を受けます。発音する楽器の移り変わりによってトータルのサウンドのバランスが変化していく様がとても面白く、そんな中で不意に顔を出す弦楽器やピアノなどの現代音楽的な冷たい響きだったり、強い記名性を持ったエヴァン・パーカーのサックスが浮上してくる場面などにもスリリングな魅力を感じます。即興演奏を中心に活動するエヴァン・パーカーがこれほどまで上手く他楽器の編成を扱えることに驚きとその懐の深さを感じる一枚。傑作です。

 

・Art Ensemble Of Chicago『Full Force

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 Art Ensemble Of Chicago関連の作品を何か取り上げておかないとと思い、Lester Bowie『The Great Pretender』と迷いつつこれを。いわゆるフリージャズに分類されるような演奏家の中でも最も音自体から開かれた自由というものを感覚的に伝えてくれるのが彼らかもしれません。加速した管楽器のフレーズや忙しないドラミングの応酬によるコレクティブインプロヴィゼーションなどいかにもフリージャズなところも勿論ありますが、1曲目冒頭の多彩なパーカッション類がゆったりと間を置いて鳴らされる場面をはじめ全くそれに縛られない多様な表現が終始リラックスしたムードで行われていて、そういった振る舞いが許される雰囲気にこそ彼らの音楽の最大の旨みがあるような気がします。不思議な人懐っこさや音楽的多様さを感じさせる音楽でもあるのでフリージャズに過激さや一本調子といったイメージを持っている方にこそ聴いてみていただきたいですね。

 

 

 

 

8. アメリカのコンテンポラリージャズシーンとの接続

 ゼロ年代の半ばから10年代に入ってのECMにおいてはアメリカのコンテンポラリージャズシーンで活躍するプレイヤーの作品、存在感が年々増しているような印象があります。何らかの観点からアメリカのシーンを切り取っているのかといったところまでは現状私には読み取れず、また契約したアメリカのミュージシャンを例えば今まで繋がりのなかったヨーロッパのミュージシャンと共演させてどうこうといったわかりやすいかたちでの独自のディレクションもあまり見られない(ミュージシャンのやりたいことを尊重している印象がある)ので、何か思惑があってのことなのかはよくわからないのですが、現在ECMからリリースしているアメリカを拠点としたミュージシャンはそれぞれを互いのユニットやバンドに迎えるなど何らかのかたちで共演をしているケースが多い気がするので、ミュージシャン同士の横の繋がりを大事にしている印象はあります。私個人がECMというレーベルを意識するきっかけとなったのがこの項の最初で取り上げるクレイグ・テイボーンのアルバムだったりもしますし、同じようにアメリカのコンテンポラリーシーンを追う中でECMの作品に入っていくみたいな経路も今は十分にあり得ることから結果的に間口を広げることにはなってるのかもしれませんがそれを狙ったものにも思えず…。

 

・Craig Taborn『Avenging Angel

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 アメリカのコンテンポラリージャズシーンの中でもメインストリームからアヴァンギャルド、そして時にはジャズを飛び出すようなユニットへの参加など特にその活動領域が広く、またそのそれぞれで違った顔を見せるような多面的な魅力を持ったピアニスト、クレイグ・テイボーン。今作はそんな彼のECMデビュー作にしてキャリア初のピアノソロアルバム。メシアン「鳥のカタログ」の中で鳴らされる和音から、同時に鳴らされる音を1,2音抜いたように聴こえる和音の使用やそれらの先の読みにくい移ろい、そしてそれ(鳥のカタログ)のトップノートのみをスロー再生したような不安定ながらも美しさを感じさせるメロディーが多く顔をだす抽象的な演奏と、リゲティの「エチュード」などを想起させるような緊張度の高い和声の下での対位法的な音の絡みが構造的(というより構築的?)な印象をもたらす演奏が入り交じったような作風で、奇怪さと(抽象美とも構築美ともとれるような、またどちらともとれないような)美しさが混在する独自の聴き心地を持った一枚です。

 

・FLY『Year Of The Snake

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 アメリカのサックス奏者Mark Turnerと、Brad Mehldau Trio*9のリズム隊でもあるLarry Grenadier、Jeff Ballardによるサックストリオ編成のユニットFLYのECMからは二作目となるアルバム。サックストリオとはいっても彼らの演奏はドラムとベースが役割的にリズムキープに留まってくれないことが多く、楽曲自体もそもそも変わったリズムでできているような印象もあって非常に重心の掴み難いような抽象的なサウンドです。ベースの弓弾きとサックスの曇った音色が重なる場面は近現代クラシックの室内楽のようにも聴こえますし一筋縄ではいかない一枚ですが、それ故にこの三人でしかできない演奏が詰まっているとも言えるでしょう。②、⑦、⑨などは比較的オーソドックスなジャズ・サックストリオ的な演奏なのでその辺りの曲から聴くといいかもしれません。そういった演奏でのマーク・ターナーのクールなサウンドとアドリブは極上ですよ。

 

Tim Berne's Snakeoil『Shadow Man

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 NYのダウンタウンシーンで80年代から活動しているアルトサックス奏者ティム・バーン率いるユニットの作品。サックス、クラリネット、ピアノ、ドラムという編成でメンバーは全員NYを拠点に活動する面々です。曲がりくねったような曲想の作曲パートとフリーキーな即興を複雑に行き来するその音楽はECMが出しているジャズ作品でも特にとっつきにくいものかもしれませんが、代えがたい魅力を持っています。

 

Paul Motian, Chris Potter, Jason Moran『Lost In A Dreams

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 ポール・モチアンがクリス・ポッター*10、ジェイソン・モランという現代のアメリカコンテンポラリーシーンのトッププレイヤーと共演したライブ録音。クリス・ポッターとジェイソン・モランは最早現代のスター・プレイヤーといってもいいような存在だと思いますが、ここではモチアンのスタイルが持つ「間」を尊重するようにじっくりと音を紡いでいく、ともすれば地味にも聴こえそうな演奏が印象的です。

 

・Michael Formanek, Ensemble Kolossus『The Distance

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 アメリカのジャズベーシスト、マイケル・フォーマネクが主導したラージアンサンブル作品。アンサンブルのメンバーにはTim BerneやChris Speedなど十分なキャリアを持った大物からLoren Stillman、Mary Halvorsonといった2000年以降に頭角を現した俊英まで世代的な幅はありながらもニューヨークの先鋭的なシーンで活動する面々が並びます。メンバーだけ見るととてもハードな音が出てきそうですが、実際聴いてみると意外と間口が広そうな仕上がりです。詳しい感想はこちらに。

 

 

 

 

9. 2017年

 今年のECMは傑作揃いな気がします。ストリーミング解禁を機に聴いてみようという方はせっかくなので今年の作品から入るっていうのもありかも。「静音」のカテゴリで挙げたMaciej Obara Quartet『Unloved』も今年リリースです。ちなみにこの項で取り上げるVijay Iyer、David Virelles、Theo Bleckmannの作品は前項「アメリカのコンテンポラリージャズシーンとの接続」に分類することも可能な作品であり、そちらで示したECMにおけるアメリカのミュージシャンの存在感の高まりをより強く感じさせてくれるものでもあります。

 

Vijay Iyer Sextet『Far from Over

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 主にStephan Crump, Marcus Gilmoreとのトリオでの活動によって現代のジャズシーンで独自の存在感と高い評価を受けているピアニスト、ヴィジェイ・アイヤー。彼も2014年からはリーダー作をECMから発表していて、これまでにも既に弦楽を従え作曲に重きを置いた『Mutations』、先述のトリオによる『Break Stuff』、トランペッターのワダダ・レオ・スミスとの即興的なセッションを収めた『A Cosmic Rhythm With Each Stroke』とそれぞれ趣の異なる三作をリリースしています。最新作もピアノトリオ+3管のセクステットというこれまでにない編成。細かいレビューはこちらに書いていますが一言で言うと大傑作です。

 

・Colin Vallon『Danse

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 静音のカテゴリでも取り上げたコリン・ヴァロンの今年の作品も素晴らしかったです。こちらでレビュー書かせていただいています。

 

・David Virelles『Gnosis

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 キューバ出身のピアニストによるECMからは二作目となるリリース。自身の故郷であるキューバ音楽の意匠を大きくフィーチャーしたような内容という意味では前作『Mbókò』と地続きであるのですが、本作では管弦楽器の導入をはじめ器楽編成を大きく拡張し、ジャズやキューバ音楽だけでなく近現代のクラシック音楽の影響も大きく取り入れ、それらを小品的な曲も多く含んだ全18曲の繋がりの中で楽曲ごとに混ぜたり時に個別に表出させたりしながら、ひとつの組曲として聴くこともできそうな作品として纏め上げています。自らの音楽的語彙をフル活用して総合的な音楽作品を作ろうという意思が伺える渾身の一枚。異なる国や地域の音楽をジャズの言語で繋ぎ冷たい響きでパッケージングしたと捉えればエグベルト・ジスモンチやナナ・ヴァスコンセロスを大きく取り上げていた頃のECMを思い起こさせるものもありますし、そういった意味でこのレーベルらしさを強く感じる一枚でもありました。

 

・Theo Bleckmann『Elegy

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 様々な作品で歌声は耳にしていたTheo Bleckmannですがリーダー作を聴くのは初めてでした。一歩一歩踏みしめるようにメロディーを歌いあげたり、器楽的といったらいいのか、スキャットのような歌唱で他の楽器に絡んでいったり。ここまで深みや肌触りまでグラデーショナルに変化するような「ア~」出せるひとなかなかいないと思いますしヴォーカリズムという観点でも面白い作品かと。全体的なサウンドにどこかプログレの香りを感じるのは音楽的、楽理的な複雑化と歌が同居しているから?でしょうか。なのでそちらのカテゴリに惹かれた方にもオススメできますし、リーダー含め参加メンバーはアメリカのコンテンポラリージャズシーンで活動している面子なのでそちらに分類することもできそうです。

 

・Bjorn Meyer『Provenance

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 ECMからも作品をリリースしているNik Bartsch's Roninのベーシスト、ビョルン・メイヤーによるベースソロ作。ベースソロですが空間系のエフェクトやルーパーなどを用いて作ったと思われるシーケンスがところどころで演奏に加わってくる内容で、中でも1曲目は最も生音による楽曲の中心のラインの存在感が薄く抽象的なトラックで素晴らしいです。楽器は違いますがビル・フリゼールの名作『In Line』を想起したりも。

 

 

 

 

10. その他

 最後にここまでのカテゴリにうまく当て込むことはできなかったけど単純にいい作品で紹介しないのは勿体ないってやつを何枚か。

 

John AbercrombieTimeless

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ECMから多くの作品をリリースしているアメリカのジャズギタリスト、ジョン・アバークロンビーのデビュー作。オルガンやシンセなども操る鍵盤奏者ヤン・ハマーと当時のトップドラマーであるジャック・ディジョネットを迎えたトリオで、エレクトリックで熱いジャズロックから叙情的でアコースティックなチェンバージャズ的なものまで幅広く聴かせてくれます。特にジャズロック的な演奏においてはドラムのジャックディジョネットがマイルスのロストクインテット参加時のそれを彷彿とさせるような溌剌としたリズムを叩き出していて本当に最高です。

 

Dave Holland Quartet『Extensions

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 マイルス・デイヴィスのバンドに参加していた時期もあるジャズベーシストの中でも特に著名なプレイヤーの一人、デイヴ・ホランドもリーダー作、サイドマン参加作双方でECMに多くの録音を残しています。90年リリースの本作はSteve Colemanと彼のバンドFive Elementsのドラムを担当していたMarvin “Smitty” Smithが参加していることからもわかる通り、当時彼らが演奏していた音楽(いわゆるMbase)に通じる変拍子やファンク的な反復性を聴き取ることができる一枚ですが、編成のシンプルさ故にMbaseほどの複雑さはなく、自然とリズム構造よりサックスやギターのソロに耳が向くような仕上がりになっています。ちょっと変わったノリのジャズ、くらいの認識で是非気軽に聴いてみてください。

 

Pat Metheny80/81

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 パット・メセニーECMに多くの作品を残しているミュージシャンですね。個人的に彼の活動というと南米音楽への接近などジャズの語法を携えながらもその外へ向かっていくイメージが強いのですが、本作ではチャーリー・ヘイデンデューイ・レッドマンジャック・ディジョネットなど自身より上の世代の、おそらく自らに大きな影響を与えてくれたであろうミュージシャンを迎え、ジャズの世代的/歴史的な繋がりを意識しながら比較的硬派なジャズを演奏しているように感じられます*11。ヘイデン、レッドマンというオーネット・コールマンのグループに在籍していた奏者が参加していることから、オーネットっぽい曲調のものが結構あるのもなんというかわかりやすくていいです。

 

・Nik Bartsch's Ronin『Stoa

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 スイスのピアニスト/作曲家ニック・ベルチュ率いるユニットNik Bartsch's Roninのアルバム。彼らが奏でるのは一貫してフレーズの反復と切り替えやポリリズムに焦点を絞ったミニマルなものです。1曲目の前半こそ優雅なピアノのアルペジオを基調とした情緒の感じられるパートも表れますが、それ以降は各楽器のフレーズから音楽全体の響きまで非常に理知的/数学的な印象を受けるものが続きます。どの曲でもポリリズムが構造的に取り入れられているようですが、その成り立ちとしてはある一定の数のパルスからそれをいくつで一拍とするかによって違う拍子を取り出し、それらを並走させたり切り替えたりといったパターンが多いように聴こえ*12、パルスさえ掴めれば簡単に身を任せる(=踊る)こともできる音楽となっているので、響きの冷たさはありますがデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン*13など好きな方ならそれほど抵抗なく入っていけるのではと思います。

 

・Mathias Eick『Skala

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 ノルウェー出身の若手トランペッター、マティアス・アイクのECMからは2枚目となったリーダー作。基本的にはピアノトリオ+トランペットでそこに曲毎に他の楽器がアクセント的に加わるといった具合で編成としてはジャズを大きくはみ出してはいませんが、演奏される音楽の方向性としては例えばピアノから感じられる和声であったりドラムのビート感といった部分でジャズよりもポップスやロックを参照にしていることが伺えます。アドリブの要素もあるとは思いますがそれはソロを聴かせるというわかりやすい形式というよりは、トランペットとピアノとの主旋律の受け渡しの中で一方が演奏するラインを補強するような役割で表れたりと、メロディーを中心とした音楽全体の響きの中に溶け込むようなかたちで用いられている印象です。サウンドの面でもドラムの音作りやエレベの使用、多重録音の導入など非常に選択肢が多く、やはりポップスやロック的かなと。ポップスやロックの要素を取り入れるといった面ではBrad Mehldauの『Largo』を、サウンドメイキングへの強い関心を感じさせるトランペッターのリーダー作という意味では近年のChristian Scottの作品を思い起こさせる部分もあるので、特にJTNCなどで多く取り上げられているような多ジャンルの音楽と融和したジャズに惹かれる方には強くオススメできます。

 

 

 

 

 以上、10のカテゴリに分けて51作を紹介してみました。

できれば「古楽」だったり、「南米音楽」またはそれを含む「民族音楽」といったカテゴリでも作品の紹介をしたかったのですが、私がまだそこに類するような作品を僅かしか聴けていないため今回は断念しました。ECMの作品紹介するうえでジスモンチの作品が一枚もないのはどうかと思いましたが…。

なので古楽民族音楽的な要素のあるECM作品については、これ見てそういうのが抜けてる!って思った方に是非ともなんらかのかたちで書いていただければと思います。

はい、他力本願です。

あとECM好きであればお気づきの方も多いと思いますが、本投稿ではここまで一度もレーベルの創設者であり多くの作品にプロデューサーとして関わっているマンフレート・アイヒャーの名前が出てきておりません。

ECMというレーベルのディレクションに関してはアイヒャーの意向が非常に強く反映されているといわれ、時に独裁と表現されているのすら目にしますが(レーベルの特徴であるコンセプトや録音の質感に関してもアイヒャーのパーソナリティと結びつけて語られるのをよく目にします)、ここではあくまで作品とそこに収められている音楽を紹介することを優先したかったので、そういったところに踏み込むのは止めておきました。「静音」や「声楽 歌曲 トラディショナル」の項で少し触れようかとも思ったのですが、単純に知識不足などもあって考えをうまく纏めることができませんでした。

 

*1:『ケルン・コンサート』や『The Melody At Night, With You』など

*2:ポール・モチアンチャーリー・ヘイデンデューイ・レッドマンというアメリカの奏者たちと組んだアメリカン・カルテットと並べてこう呼ばれます

*3:全員がリーダーというかたちなのかもしれませんが…

*4:しいて挙げるならミニマリズムでしょうか

*5:それぞれヴァレンティン・シルヴェストロフ、クルターク・ジェルジュ、ギヤ・カンチェリなど

*6:Jan Garbarek & The Hilliard Ensemble『Officium』など

*7:タイヨンダイ・ブラクストンの父親です

*8:Roscoe Mitchell『Composition / Improvisation Nos. 1,2&3』はリーダーが違うだけで同じメンバーで演奏されている事実上の姉妹作なので本作が気に入られた方は是非

*9:リーダーであるピアニストのブラッド・メルドーリー・コニッツらとの共演作『Live at Birdland』やWolfgang Muthspiel『Rising Grace』にてECMの録音に参加しています

*10:これがきっかけとなってか、クリス・ポッターは後の2013年よりリーダー作をECMからリリースしています。2015年のChris Potter Underground Orchestra『Imaginary Cities』は非常に意欲的な作品でした。

*11:硬派なという表現を用いましたが、ソロを取っている時のメセニーのギターなどとても楽しそうで微笑ましいくらいなので近寄りがたさはないです

*12:パルス18個を3つで一拍の6拍子と2つで一拍の9拍子で捉えそれらを並走させる2曲目前半、パルス12個を4つで一拍の3拍子と3つで一拍の4拍子で捉えられらを自在に切り替える3曲目など

*13:今の表記はDC/PRGだっけ

Paul Bley『Ballads』

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カナダ出身のジャズピアニスト、ポール・ブレイがアネット・ピーコックの曲をトリオで演奏した作品。共演はドラムにバリー・アルトシュル、ベースはゲイリー・ピーコック(1曲目)とマーク・レヴィンソン(2,3曲目)。1967年録音。

トリオでの演奏ですが、ブレイのピアノ演奏は終始ドラムやベースの音に反応しているようなところがほとんどない、そこだけに焦点を合わせればソロピアノ作品として聴けてしまえそうなもので、ドラムやベースにしてもあまり他者の音に反応している感じはなく、そのどこかそっけない距離感を感じさせる関係性はたまたま向かう方向が一緒だったために居合わせただけでそれ以上関わり合わない3人といった風情です。故にフレーズの絡み合いによるインタープレイ的な(=ジャズ的な)快楽や盛り上がりはあまり感じられず、各演奏者の関係性の在り方はフリー・インプロヴィゼーションに近いといえそうですが、出てくる音の総体はアネット・ピーコックの楽曲の存在感によってまとまりを持っているように聴こえるという、とても不思議で絶妙なバランスの基に成り立った音楽になっています。

1967年という(まだフリージャズやフリー・インプロの明確な分離や、そういった音楽の“型”のようなものが確立されていなかった)時代の中での試行錯誤から生まれた独創的な一枚といえるかもしれません。