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2017年上半期ベスト

 この時期恒例の上半期ベストです。6月中に手元に届いた音源から25枚選んで順位をつけました。画像がbandcampやyoutubeなどの試聴サイトへのリンクになっています。ではどうぞ。

 

 

25. Theo Bleckmann『Elegy』

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コンテンポラリージャズ。様々な参加作品でその声の素晴らしさは知っていた(特に本作にも参加しているJohn Hollenbeckの作品での歌唱は印象深い)Theo Bleckmannだけどリーダー作を聴くのは初めてだった。一歩一歩踏みしめるようにメロディーを歌いあげたり、器楽的というかスキャットのような歌唱で他の楽器に絡んでいったり。こんな深みがあって肌触りがグラデーショナルに変化するような「ア~」出せるひとなかなかいない。全体的なサウンドにどこかプログレの香りを感じるのは音楽的、楽理的な複雑化と歌が同居しているから?

 

 

24. Satomimagae『Kemri』

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アシッドフォーク。こんな声で歌うの反則。

 

 

23. Kassel Jaeger & Jim O'Rourke『Wakes On Cerulean』

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電子音響/アンビエント。深みのあるドローンに時にコズミックな音色などで(節度ある範囲で)差し込むシンセ、物語のガイドとして絡むような環境音など、二者の持ち味がとても上手くかみ合った一枚。

 

 

22. DJ Krush『軌跡』

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ヒップホップ。厚みを感じさせる低域の鳴りがとにかく気持ちいい。全体的にクリアな音像ながらドープさを失わないのはその辺りで音楽としての重み、説得力を保っているからか。最初はOMSBと5lackの参加曲が印象強かったが最近はR指定呂布カルマの曲にハマってる。

 

 

21. Eivind Opsvik『Overseas V』

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コンテンポラリージャズ。めちゃくちゃ演奏ウマい捻くれロックバンドのアルバムみたい。曲調の変化球っぷりが痛快。でも3曲目はとんでもなく美しい。

 

 

20. Helm『Rawabet』

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エクスペリメンタル/インダストリアル。音素材の種類はそれほど多くないと思うけど、ゴツゴツとした環境音と官能的なシンセ(?)などなどを同一線上で捻りあげるような所作にセンスとグルーヴめいたものが感じられてとても好みだった。コラージュ的な技法を用いながら(おそらくライブ録音だからだろうけど)節操なく矢継ぎ早に展開していくようなものではなく取捨選択された素材と手法の効果的な配列が息の長い緊張感を生み出していて何か品格のようなものが感じられる。とても美しい音楽だと思う。あとこれ聴いてて初めて思ったんだけど、この人の音楽の持つエクスペリメンタル性ってミュージック・コンクレートやコラージュっていうよりもダブ由来のものって感じが強いのかも。今作の音の飛ばし方とかすごくダブの影響を感じさせるし、1曲目に(Version)とかついてるし。

 

 

19. Ambrose Akinmusire『A Rift in Decorum: Live at the Village Vanguard

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コンテンポラリージャズ。現代を代表するトランペッターの二枚組ライブ盤。それぞれのディスクの最後の曲などでは過剰な表現も出てくるけど、全体としてはリーダーが突出したりというよりは各奏者の演奏がとてもバランスよく耳に入ってくるような内容で終始端正さを失わない、なんだかとても“らしさ”を感じる作品だった。

 

 

18. Basic Rhythm『The Basics』

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ロウなテクノ。こういうのあんまり詳しくないからいろいろ言及したりはできないけど、前作よりリズムパターンが曲毎に違う印象があるのと、より思い切ってスカスカな曲だったり粗さが目立つ曲があったりして、そのちょっと不揃いな感じが作品全体の猥雑さだったり怪しさを増幅させてる気がして滅茶苦茶かっこよかった。前作のほうが統一感はあると思うけど自分はこっちのほうが好きだな。

 

 

17. Phil Julian『Relay』

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実験音楽。換気システムのフィールドレコーディングを軸としたマルチチャンネル & 再加工のミニマル反復パターン録音集とのことだけど、本当に?って思うくらいインダストリーな響きがバンバンでてきてかなりパンチ効いた内容。反復を基にした構造的な作り?なのかもしれないけど、トーンクラスターのような高圧的な響きで迫ってくる場面のほうが印象に残った。

 

 

16. Giuseppe Ielasi『3 Pauses』

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実験音楽アンビエント。丁寧に編まれた繊細な音響作品のようにも、ラフに描かれた曲以前のスケッチのようにも聴こえる。全編にうっすらと淡い情緒のようなものが漂っているように思えて、そこが不思議かつ魅力的。

 

 

15. Yann Leguay『Headcrash』

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実験音楽ターンテーブルに見立てた四台のハードディスクドライブを使用したサウンドアート的な内容(言葉ではわかりにくいと思うけど映像を見れば一発でわかる)。まず装置の見た目や仕組みだけで滅茶苦茶興味惹かれるんだけど、出てくる音もグリッチ的な不規則なノイズだったりフィードバックによる厚みのあるドローンだったりが多層的にうねっててめちゃくちゃかっこいい。これはマジでヤバい。インダストリーな音の響きはPhil Julian『Relay』と、多層的に鳴っている音が大きなひとつのうねりを生むようなところはHelm『Rawabet』と通じるところがあるかも。

 

 

14. Roedelius / Hausswolff『Nordlicht』

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ドローン/アンビエント。コアな音響作家であるHausswolffとニューエイジ的なイメージの強かったローデリウスのコラボってことでかなり意外に感じたし正直悪い予感がしたんだけど、案外違和感なくまとまってた。といって自分はやっぱり最もHausswolff色が強いドローンが楽しめる(そういった意味ではコラボ色の薄い)1曲目が最も好きなんだけど。2~4曲目はそれぞれ違ったかたちで両者の個性が混じる。画像のリンクはレーベルのデジタル販売のページにしてますが、これ意外にも(?)Apple MusicSpotifyにもあるみたいなんで試聴などはそちらで。

 

 

13. tricot『3』

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ロック。前作と比べるとリズムが複雑でそこに多少のついて行けなさを感じなくもないんだけど、不思議とやりすぎな感じは全くなくてなんかやけにサラっと聴けてしまう。アルバムの曲の並びとかも最初はちょっとチグハグに感じたはずなんだけど…。

 

 

12. Imaginary Forces『Runnin's』

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インダストリーな音響/テクノ。前作で初めてこの人の音楽聴いた時は「BPM速めたMika Vainioやんけ!(最高…!)」って感じてドハマりしたんだけど、今作には声ネタ入ってる曲なんかも結構入ってるからかそういった印象はあまりなくて、ちょっと見当違いだったかなと思い直し中。しかしまあ音の圧は相変わらずで、しっかりテクノでループミュージックなんだけどそのループを構成してるシーケンスひとつの快楽性がとにかく半端ない。ループミュージック特有のだんだん上がってくるような感覚より一発目でブチ上げてくる感覚が強い。最早ループしなくても音楽としての快楽が成立しそう。

 

 

11. Félicia Atkinson『Hand In Hand』

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モジュラーシンセと声を用いた電子音楽実験音楽。どこがどういいのか説明するのが難しい類の音楽…。ただただモノクロームに流れていくような音だけどその雰囲気がとてもいい。しかしこの感じでよくこの時間聴かせられるなあ。この音をこの状態で出せるセンス羨ましい。

 

 

10. DJ Yazi『Pulse』

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エクスペリメンタル~アンビエントからディープなテクノまで幅広く用いたMIX音源。いろんな音をごった煮し違和感なく一篇の音絵巻に纏め上げているのはもちろん、トラックリストがわかったとしてもまず真似できないような音の編み上げっぷりで完全に総体として“DJ Yaziの音”になってるのが凄い。フィルターなどの各種エフェクトも時に過激なほどに用いているんじゃないかと思うんだけど、それらのツールを単に繋げる、重ねる以上に響きに自分の意思を練り込むような一段深い使い方をしているように思う。トータル70分越えにも関わらず何度も聴いた。

 

 

9. The Necks『Unfold』

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即興演奏。彼らにしては珍しく20分程度の曲4曲という構成。昨年観たライブを鮮明に思い出させてくれるような内容で、今の彼らの音をとてもうまくパッケージングできてると思う。

 

 

8. 坂本龍一『async』

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クラシック~現代音楽をベースにした個人的な音楽。手法として新しさを感じさせるものはほぼないんだけど、その代わりに自分の中に深く根付いているものを中心に自分の体に自然に入ってくる、自分が聴きたい音を作ったことが強く伝わってくる。自身と自身が接してきたものに対する慈しみのようなものを感じるアルバムである意味とてもナルシスティックなんだろうけど、それが過度に感傷的な色合いを帯びず一定の距離感とそれに伴う緊張感があることで、坂本龍一自身でなくとも聴ける作品になってる感じ。実験音楽の対極に在る音楽のようにも思う。

 

 

7. 石上和也『Canceller X』

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電子音響/アンビエント。昨年の『cleaner 583』と通じる部分はありつつもこちらはより音が点描的に鳴る場面が多い印象で、それらの音が音階(=12音とは限らない)を形成する場面も耳につく。あと点描的に鳴るって書いたけどそれらの音にはかなり深めに空間系(主にリバーブ)がかけられているケースが多く、音と音の隙間を確保するためというよりはそれが鳴っている空間の特徴をより深く印象づけることに意識があるのかなと。全体通して深い洞窟の中のような鳴り。石上和也さんはアカデミックな流れにあるミュージック・コンクレートも制作される方だけど(というかむしろそちらが専門?)、そういった方面での制作と今作のようなアンビエント寄りの制作では空間系の用い方の違いなんかがかなりありそうだなあと思った。

 

 

6. Fabian Almazan『Alcanza』

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 コンテンポラリージャズ。前作『Rhizome』の延長線上といった作風だけど、洗練された美を感じさせた前作に対し今作は冒頭からやけに野性味溢れる演奏/アンサンブルで特に初めて聴いた時の印象は鮮烈だった。トータル1時間の組曲形式ながらストーリー性のある構成で全く飽きずに聴き通せるので、再生する際にある種の負担を感じれるどころかこれからの1時間が楽しみで仕方なくなる。

 

5. Colin Vallon Trio『Danse』

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コンテンポラリージャズ。前作でも顕著だったリズム面の創意工夫が感じられる曲ももちろんいいんだけど(特にThe Necksを思わせるような2曲目と5曲目素晴らしい)、それ以上にメロディーのよさが際立ったアルバム。リプライズのようなかたちで2度演奏される「Reste」や、「Sisyphe」、「Smile」辺りの曲の美しさには(よく聴いていた時期がちょっと精神的にツラかったのもあって)かなり救われた。

 

 

4. 今井和雄『the seasons ill』

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フリージャズの要素もある即興演奏。どれだけ音数が増えようとも、一音一音を聴きとるということがノイジーさで困難になろうとも、それらのサウンドをしっかりコントロールして、“弾いて”出していることが感覚的に薄くならずに伝わってくるのが凄い。音数が増えまくった放流のような場面においてもその中で一音一音が硬い輪郭を残して立っているみたいな感じがあってレンガが雪崩起こして迫ってくるみたいな感覚になるし「ウギャーーーーーー!!!!!!!!!!」ってよくわからない声を発しそうになる。聴いてる間脳内はずっとそんな感じ。好きになるかどうかはともかく聴けば誰もが凄いとは感じるだろうし、本当にこれほど再生してしまえばあとは何も考えず聴くだけでいい音楽ってなかなかないかもしれない。そういう意味では究極にわかりやすい音楽かも。

 

 

3. Matthew Stevens『Preverbal』

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コンテンポラリージャズ。といっても演奏しているのがジャズミュージシャンってだけで方法としてはポストロックと言ってしまったほうがいいのかもしれない。でもアドリブになった時のギターのフレージングなんかはバリバリ現代ジャズだからやっぱりジャズか(まあどっちでもいいか)。あとポストプロダクションなどいくら用いても演奏のリアルタイム性が全然失われないようなところはすごくジャズミュージシャンらしいなって思う。ここは重要な点かも。あとこれ聴いてからRadianだったりTortoiseだったりがやたら面白く聴こえるようになって(いやもちろん今までも十分好きなバンドだったけど)、なんかポストロックを再発見させてもらえた感(そもそもポストロックの旨みをわかってなかった可能性もなくはない)。

 

 

2. Hisato Higuchi『Kietsuzukeru Echo』

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アシッドフォーク。特に書くことがない…。多分10秒も聴けばこれが自分の好きな音楽かどうか判別できるような音だと思う。そして好きな人にとっては生きていくのに必要な音になる可能性すら十分にあると思うからとにかく聴いて。私を信じて。

 

 

1. Linda Catlin Smith『Drifter』

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現代音楽。カナダの女性作曲家の作品集。ミニマリズムの影響というか、それ以降の音楽であることはどことなく感じられるんだけど、手法としてそれを前面に出すことはほとんどなく、曲によっては和声の変化なども掴みどころがないほどに複雑。感覚的に美しいものとしてある種聞き流すように聴くには複雑すぎて最初はとても自分の手には負えない音楽に思えたんだけど、フレーズを断片的に反復させながらその用い方を徐々にズラし、そこに美しいメロディーまで絡めてくる「Drifter」の美しさに気付けた時から面白いと思えるようになった。大雑把でいいから各曲の展開を把握できるくらいまで聴き込むと相当化ける音楽だと思う。それぞれの楽曲に共通する方法論などはまだ見いだせずこの人の関心がどこにあるのかはうまく読み取れないんだけど、それはおそらく個別に作曲された作品集って形式によるものかもしれない。以前リリースされているピアノ作品集ではそういったとっ散らかった印象はなかった。正直いくつかの楽曲についてはまだ全然聴き込めていないので、その辺り詰めていくのがこれからの楽しみ。