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BEST OF 2019(上半期)

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上半期ベストです。20作選び順位を付けました。画像クリックで試聴や購入ができるページへ飛びます。末尾にプレイリストあります。では早速どうぞ。

 

 

 20~16

20. Kassel Jaeger『Le Lisse et le Strié』

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電子音響/ドローン。本名名義でGRMのディレクターや執筆活動なども行っている人物の新作。“縞模様” と “滑らかな” という相反する概念を電子音響に当てはめたものというコンセプトで制作されているそうで、断片化/抽象化された音響の連なりに潜む無数のリズミックな要素がいわゆるリズムとして構造化されずにサウンドの模様や肌理を印象付けるような機能を果たしてる、あらゆる要素がサウンドのテクスチャーを印象付けるために機能している正に音響の音楽といった感じ。前作『Aster』でも感じられた多様な音響の層を帯のように纏め上げる手腕や、“生き物” 感のある音の蠢きなども健在。リズミックな要素がサウンドの肌理に奉仕する音楽といった意味では今年の湯川静さんの作品と近しい感触があるので、併せてチェックされると面白いと思います。(湯川さんはご自身の制作の際 “カモフラージュ” という方法を大切にせれているそうで本作における “縞模様” などと遠からぬものがあるとも考えられます)

 

 

19. Chemiefaserwerk『New Nacht Pop』

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ライドシンバル、ハイハット、テープを用いた実験的な音楽。カセットレーベルFaltの運営者でもあるフランスのアーティストChemiefaserwerkの作品。シンバルから引き出した音色をテープ変調したと思われるドローンや細かなノイズに素のシンバルの演奏がレイヤーされるような内容。音程や倍音のたわみやうねりがあるドローンが非常に有機的で聴き飽きないですし、何よりそこに重なるシンバルの細やかでクールな響きがとても心地いい。金属に素肌が触れた時のような冷たさを感じさせるサウンドなのでこれからの季節に納涼アンビエント的に聴くのもいいかも。“ドローンと打楽器” の音楽としてもとてもいい出来だと思うのでそういった成り立ちの作品好きな方も是非。

 

 

18. Axel Dörner / Toshimaru Nakamura『In Cotton and Wool』

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即興演奏/ノイズ。多彩な特殊奏法を駆使するドイツ出身のトランペット奏者アクセル・ドゥナーと、ノー・インプット・ミキシング・ボードを用いる日本人演奏家中村としまるのデュオ作。元々その特殊奏法によって多彩なノイズ的音響を発することを得意としていたアクセル・ドゥナーですが、本作では近年試みているラップトップによるトランペットの音の即時加工も用いています。両者の(プロセスは全く異なれど)電気を用いた発音が高速で行き交う場面が多く、めちゃくちゃフレキシブルなノイズ・セッションといえそうですが、鳴っている音は紛れもなくノイズであっても爆音ハーシュ的な表現とは異なりエグさより機微に耳が向くところが何気にもの凄く巧み。この速度感で音発しててこの感じにはなかなかならないでしょう…。アクセルのトランペットの音が音色を加工されていない状態で聴こえてくる場面も随所にあるんですが、そういった場合でも定位の操作は加えられているということが珍しくなく、すべての響きを一度電気を通した状態でステレオ上にマッピングし扱うような意識があるようにも聴こえます。どちらか一方でもアコーステック楽器をそのまま鳴らすスタイルを取っていればそのセッションはその楽器が本来鳴らしていた音量で再生することで “本来の演奏” の近似値が得られると考えられそうですが、本作に関しては演奏の “あるべき音量” について演奏家本人らがどのように想定しているのかが聴きながら気になってきました。ある意味アコースティックな響きを間接的に介在させながらも “演奏の本来の音量” を無化する演奏のようにも思えるような…。

 

 

17. Swiss Jazz Orchestra『Swiss Jazz Orchestra & Guillermo Klein』

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ラージ・アンサンブルのジャズ。名義は一応Swiss Jazz OrchestraでGuillermo Kleinはゲスト的な扱いのようですが、コンポーズとアレンジはGuillermoが担当しているため彼の音楽性が主に反映された作品と捉えていいでしょう。奇数の拍や音数でループするアルペジオやリフをアクセントに、パルス的に鳴る単音やメロディアスなフレーズなどが連なって万華鏡のような色彩感と動きを感じさせるアンサンブルを作り出すという彼の音楽の旨みがポップに摂取できる作品のように感じます。彼のメインユニットであるLos Guachosなどと比べ本作が特段にクオリティが高いとも思わないのですが、そこで試みられているクロスリズムなアレンジ、奇数と偶数を頻繁に行き来するようなフレーズなどに対し自分の耳が以前よりしっかり聴き取れるようになってきていることが影響して今までの作品よりしっかりとした実感を持ちながら楽しみ聴くことができました。

 

 

16. Meitei『Komachi』

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アンビエントエレクトロニカ。広島在住の作曲家によるデビューアルバム。「the lost Japanese mood」がコンセプトで活動し、怪談のサンプリングを用いるなどしているようですが、本作ではわかりやすく奇怪な音使いが前景化したり語りの音声が現れる場面はなく、とても心地よく、安らげる音楽です。基本的には柔らかさやチャーミングさを感じさせる音色と音階のループフレーズを基調として、小節ごとに明確にシーケンスの変化や抜き差しがあるテクノ~エレクトロニカ的な成り立ちの音楽だと思うんですが(そういう音楽をしっかり作っていたキャリアとかありそう)、聴き心地はハメるっていうよりフワ~っと流れていく感じのほうがだいぶ強くてとてもアンビエント。くすんだ感じのローファイともいえるようなサウンドの手触りがかなり独特でどういう機材で作ってるのかとても気になる。推測ですが、今作においては怪談のサンプリングとかもわかりやすく異物感やある種のエキゾチックさを出すためというより、そういうローファイなサウンドに紛れ込ませて微かに独特な“ムード”を付すような用いられ方がされているのかなーと。テクノやエレクトロニカ的な技法による音楽でありながらフワフワと漂うようなアンビエント感を見事に表現している音楽という意味では個人的はsora『re.sort』(ド名盤)に非常に近しいものを感じました。そういえば『re. sort』は夏の夜に聴くのが最高なんですが本作もそんな感じしますね。これは正に怪談的。といえるか(?)

こちらのミックスでは怪談の語りらしき音声が大胆に用いられています。

 

 

 15~11

15. Ryan Lott『Pentaptych』

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ポスト・クラシカル/音響の操作がアレンジとしてだけでなく作曲そのものに踏み込むような比重を要した器楽。Sun Luxの中心メンバーとして知られるライアン・ロットのソロ作。バレエのために制作、提供された作品ということで、メランコリックな旋律をモチーフとしながらも弦の動きでリズムを感じさせるような工夫が随所に見える仕上がり。打楽器そのものやそれに近しい音色を用いないクラシカルなサウンド構成でありながら瑞々しい躍動感を感じさせるのが見事なだけでなく、その為の工夫が音響的な面白さに繋がっていたり、またモチーフとなる旋律の美しさをより深く印象付けたりと、構成要素が密に結びついた音楽に感じました。27分と短めですが、しっかりとした聴きごたえと感動があります。

 

 

14. Annabelle Playe『Geyser』

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電子音響/ノイズ。ドローン状の音を多く用いながらも瞬間的な音の変質やカットなども巧みに用いる構成美のある音響作品。冷たい質感で整えられた電子音と歪んだノイズ音響のアンサンブルも獰猛さと美しさが拮抗したようなバランスで作品全体が緊張感に満ちてる。Molecule Planeなんかと通じるような音色の扱いを感じさせる場面もありつつ、こちらのほうがノイズ然としたサウンドや展開が多いのである意味わかりやすい快楽性があるといえるかも。1曲目終盤の音の放射をはじめ随所での歪んだ音色の扱いはギターによる音響/ノイズ寄りの演奏を思わせるものがあると感じたので、ギターを用いてのそういう表現に関心のある方にも聴いてみてほしい。あとこれがリリースされてるレーベルDAC RecordsはFranck Vigrouxの作品を多く出してるところでもあるので、彼の今年の作品が好きな人も要チェックです。

*Vimeoには彼女の2016年Festival Bruits Blancsでのライブ映像が部分的にアップされているのですが、その内容が本作と同じであるため本作はライブ録音であると思われます。簡素な機材構成なんですがとてもパワフルでかっこいい…!

 

 

13. Anton Eger『Æ』

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ハイブリッドなジャズ/ハードなフュージョン・ミュージック。Phronesisの現メンバーでありその激テクニカルなドラミングが度々注目を集めるAnton Egerの初リーダー作。シンセ類やwurlitzerエレキギター、エレクトリックベースなど、電子的なサウンドがかなり支配的なんですがそれを凄いテクニックでめちゃくちゃフレキシブルに操るんでやたら生々しく肉感的。収録曲はどれも楽器編成やメンバーが異なる二つのパーツというかセッション(?)を繋げた構成になっていて(といってもだいたい最初のがメインで後のはアウトロ的位置づけといった感じですが)、そのパーツの中でも結構大胆な展開があったりするので、それらの切り替わりの瞬間とかスリリングな聴きどころになってます。ジャズっていう音楽のグルーヴ・ミュージックとしての側面を現代のセンスでビルドアップしたらこうなるのかなって仕上がりですが、いろんな楽器/サウンドが入り乱れ、一つのグルーヴを長時間煮詰めることなくバンバン上書きしていくような態度や速度感は最早コラージュ的にすら感じます。最初は自分の好みからするとちょっと忙しなさすぎるかなとも思ったんですが何回か聴いて慣れたらたまらんほどかっこいい…。わけも分からず情報量に引っ張りまわされるだけでもかなり楽しい音楽だと思いますが、サウンドの切り替わりとかしっかり意識して聴きたい方はbandcampのページなどに記された曲ごとのメンバー見ながら聴くのおすすめです。参加メンバーには近年個人的に注目してるPetter Eldh、Otis Sandsjö、Christian Lillingerなんかの名前も。特にPetter Eldhの大活躍っぷりヤバいです。

 

 

12. Jakob Ullmann『Fremde Zeit Addendum 5』

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現代音楽。“ジョン・ケージの晩年の文通相手” や “ヴァンデルヴァイザーに影響を与えた” 存在として語られたりするドイツの作曲家によるFremde Zeit Addendumシリーズの第五弾。『Fremde Zeit Addendum 4』はオルガンを用いたドローン的な内容(めっちゃ愛聴盤)でしたが、今作も弦や電子音らしき響きが靄のかかったような状態でボワーっと鳴り続けてる一応ドローン的と言えそうな内容。ただ曲名は「ピアノのためのソロ」ってなってますが…。ピアノはその持続音が鳴ってる空間に時折思い出したように単音や意味深な跳躍感のあるフレーズで入ってきます。買ったばかりなのもあって現状持続音のテクスチャーだったりピアノの深い響きをアンビエント的に聴取してるだけの段階なんですが、それだけでも満足してしまえるほど好みの響き。寝るときによく小さな音でかけっぱなしにしてます。

 

 

11. Kan Sano『Ghost Notes』

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ジャズやネオ・ソウル、ビートミュージックなどのフィーリングを落とし込んだパーソナルでポップな音楽。キーボーディスト、作曲家、トラックメイカーなどとして多彩な表現を行うKan Sanoが楽器演奏、ヴォーカル、作詞/作曲、ミックスまで全て自ら行い作り上げた一枚。ツボを押さえたタイム感と音色のドラム、決して弾き過ぎないエレピなどを基調にしつこくならない程度に施されたメロウなアレンジの塩梅がマジでいい。“丁度いい” って言葉が凄くポジティブな意味でしっくりくる音楽というか、マジで非の打ち所がないほどのグッド・フィーリン・ミュージックではこれ…。特に1~9曲目までの流れが完璧といっていいほどに気に入ってます。「My Girl」の終盤のエレピのソロパートでメインのブラスリフを合いの手的にフィルターディレイで飛ばすとことか好きすぎる。

 

 10~6

10. Dos Monos『Dos City』

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ヒップホップ。日本の3人組グループのデビュー作。フリージャズからフランスの映画?まで用いたアブストラクト、と思いきや結構律義にグルーヴは外さないトラックに、ゴツゴツとしたフロウとライミングで入り組んでんのか入り組んでないのかよくわからんリリック吐き出すラップが乗るカルチャー闇鍋みたいな一作。トラックもリリックもネタ選びでわざとらしくかつ周到にスノッブ臭醸し出してる策士感とともに脳内ぶちまけただけみたいな本能性も感じられて、いろいろスリリングなバランスでなりたってるなーと。全編やたら快楽性の高いアルバムですが特に荘子itのラップのネームドロッピングのセンスが反則級で、“アンドロイドが見た電気羊の夢”から“諸葛亮”~“内田裕也”~“ドストエフスキー”まで強引にねじ込む「マフィン」とか脳汁ドバドバもの。あ~かっけー。

 

 

9. AGI Yuzuru『Bricolage Archive: 2』

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ブリコラージュ/DJミックス。音楽評論家、編集者、オーガナイザーなどとして多くの功績を残した阿木譲が自身が立ち上げたスペースenvironment 0gで度々行っていたブリコラージュ・パフォーマンスのアーカイブ録音集。2014年の前半の録音を4つ収録。ご本人が亡くなられてまだあまり時間が経っていないので、タイミング的にどうしてもある種の重みを帯びてしまう作品ではあるんですが、少なくとも聴いてる間はそういった出来事に関する感情はほとんど浮かんでこない、バッチバチに鋭利な感性と美意識に貫かれたコンクリートの壁の鼓動のようなエクスペリメンタル~テクノ・ミックス。特にDemdike StareなんかのModern Loveの音源がハマりまくっててこのミックス中で聴くといつにも増してクッッソかっこいい。スタイリッシュというのは割合気軽に用いられる形容かもしれませんが、それをあり得ない程の意思と強度で追い求めた先に出てきた表現物。感覚をくれる作品。

*今回のCDとは違う内容ですが参考にyoutubeにある阿木譲のブリコラージュの動画リンクを貼っておきます。

AGI Yuzuru Bricolage ~ FRUE 2014 1.24 fri 東京現代美術館 Content - YouTube

bricolage: AGI Yuzuru [nibble – A Chance To Proliferate Is A Chance To Mutate] - YouTube

 

 

8. ASUNA, Jan Jenelik『Signals Bulletin』

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電子音楽/ドローン。日本とドイツの音楽家による共作。シンセ、オルガン、フィールドレコーディングなどを用い、持続音やゆったりとした周期を持つ電子音をレイヤーしていくというとても真っ当なドローン系電子音楽。柔らかさやナチュラルな厚みを感じさせる中音域に煌びやかな高音域がアクセント的に降り注ぐみたいな展開が特に印象的で、大きな音で聴いていると星空を写し取ったような雄大さとそれを見上げる際のロマンチックな心情までも音だけで喚起されるような……とにかく豊かな音楽!!

 

 

7. Larry Ochs, Nels Cline, Gerald Cleaver『What is to Be Done』

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フリージャズ/インプロ。サックス、ギター、ドラムによるパワー系フリーセッションといった感じでそれ自体には特別目新しさとかはないんですが、何よりNels Clineのギターの凄まじさに完全にヤラれました。この人は今までいくつかリーダー作聴いてみたことはあるもののイマイチよくわからない…って感じだったんですがこんなヤバいギタリストだったとは。こういう小編成でのフリーキーなギター演奏だと、楽器編成や方向性は異なりますがScorch TrioでのRaoul Björkenheimとか好きですが、衝撃度ではそれに勝るかも。マジでかっこいい。

 

 

6. Solange『When I Get Home』

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R&Bアンビエント(?)。上半期で特に広く話題になったアルバムのひとつ。断片集のような佇まいの作品で、ヴァース~コーラスの繰り返しのようなお馴染みの構成をしっかり描く前に次へ移ったり、またあるパートを繰り返すにしてもそれはしっかりと法則やより巨視的な構造へ意識の中で素直に落とし込みにくい回数で行われたりと、全体の輪郭や像を結ぼうとするこちらの思惑を逃れていくような仕掛けが施されています。多くを語らない素っ気ないトラックに乗る歌も、ハミング的な軽やかに流れていくフィーリングを第一に感じさせながらも、その実かなり技術的に高度な繊細な抑揚でそれを表現していて、ザックリとしているようで意外と(?)細かな部分でのこだわりや作り込みを経てこのかたちになったのかなあと。音楽自体が目の前を人や意識が通りすぎることを受け入れているような、他への干渉より自己の空間や時間を慈しむような情感で満たされていて、結果的にアンビエント的な聴取も可能な仕上がりになっているのが個人的にめちゃくちゃ気に入りました。私は音楽に対して感性の反射神経がかなり鈍い人間なので、今は好きな作品でも初めて聴いた時はよくわかんないとか、自分が好きか嫌いかの判断すらうまく付けられないなんてのがザラで、故に聴き込んでいくことで価値や聴きどころの焦点が絞られていくような感覚を特に大事にしてるんですが、これに関しては今思えば初聴時の構成が掴めないが故に感じられた音楽が現れては消えていくような感覚が最も作品の核に触れる聴取体験だったのかもという気がします。一人のリスナーとしては繰り返し聴くことで“覚えてしまう”ことがなんだか惜しく感じられるような、決して印象を書き留めず上澄みを軽く触れるような接し方をいつまでもしていたいと思わせられるような、これまであまり感じたことのない欲求を喚起させられる作品でした。

 

 5~1

5. Tim HeckerAnoyo

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雅楽を取り入れた電子音楽アンビエント。『Ravedeath, 1972』辺りから嫌いではないんだけど何故かハマり切れない作品が続いてちょっと苦手意識すらあったティム・ヘッカー、前作『Konoyo』はどうにも掴み切れない感触は相変わらずあるものの結構いいかも(?)みたいな感じだったんですが今作でようやくというか、確信を持っていいと思える作品きました。雅楽って自分的にはすごく独自のアンビエンスを持った音楽であるもののそれはいわゆるシンセサイザーなどを中心として作られるアンビエント・ミュージックとは傾向が全然異なるものってイメージがあって、例えば雅楽は柔らかさを感じさせる中音域を(倍音としてはともかく)直接的/恒常的にはあまり鳴らさずに高い音域へ伸びていく笛や笙の倍音やノイズでアンビエンスを感じさせる一方で、シンセ・アンビエントなどは中音域に表現の旨みがあるものが多いんじゃないかとか思うわけですが、今作はその辺りを互いが補える部分としてパズル的に組み合わせたり、雅楽の楽器を普段あまり鳴らさない中音域に落とし込んでシンセに溶け込ませたりといった工夫で緊張感と安らぎがいい感じのペース配分で訪れる一遍のアルバムにできてると思います。アルバム全体で見た時に雅楽然とした音域のバランスの音楽がドーンと提示されるのが2曲目や5曲目なのかなと思うんですが、例えば5曲目の前半でおそらく雅楽の楽器の響きを殺さない意図もあって低い音域に潜る電子音が、サウンド全体という視点で果たして上手く馴染んでいるかというとちょっと疑問に思えたりもして、他にもいろいろな部分で立ち上がってきたであろう難しさを想像させられたり。ラストである6曲目の前半とかはその辺りかなり上手い落としどころに思えて、素直に美しさを感じました。個人的に雅楽だったり、他の国や地域の伝統音楽は少しずつ興味が出てきてる分野だったので、本作はそういった関心を自分にとって身近なところからドライブさせてくれる作品となり、いいタイミングで巡り合えたなと思います。

 

 

4. William Basinski『On Time Out of Time』

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スケールの大きなアンビエント電子音楽。主にアンビエントの系譜で語られることの多いNYのアーティストの新作。“13億年前の二つの離れた巨大ブラックホールの合体音を捉えたLIGO(レーザー干渉計重力波観測装置)の干渉計からの音源記録を利用したものである。” と何やらヤバそうなキャプションがついています。バシンスキーの作品では音楽家としてのバシンスキー個人の姿というのは、まるで滲みや汚れや擦れの堆積した古い写真の中で見るように、時間や何かしらの障壁を経て変形/抽象化されたかたちでしか認識できない感覚があったんですが、本作に関しては本人がシンセを弾いている姿がかなり素直に浮かんでくる仕上がりで、故に異質で評価の分かれる作品なのではないかと思ったり。自分としてはとにかく冒頭から10分くらいの低音や打音、チリチリとしたノイズっぽい高音、そしてそこに入ってくる中音域のシンセといった辺りのサウンドが好きすぎて、それだけで重要な価値を持つ作品になってしまったという感じでした。作品のコンセプトについてはところどころ変わった質感の音色があるなというくらいで何とも言えないという感じなんですが、スケールの大きさや雄大さを感じさせる低音やシンセの和音といった辺りは宇宙というイメージと割と素直に結びつくかなとは思います。

 

 

3. Akira Rabelais『cxvi』

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物語性のあるアンビエントAkira Rabelais以外にもBen Frost、Harold Budd、Kassel Jaeger、Cedrick Coriolis、Biosphere、Stephan Mathieuなどエグいくらい豪華な面子が参加。構成要素は電子音、ピアノ、ギター、声、といったところ。20分近いトラックが4つ、どれもいくつかの場面が接続されたような成り立ちで、それぞれがそのまま外国の短編映画のサントラみたいにも聴こえてくるような、物語を想起させる音楽です。アートワークに大いに影響されたイメージですが、午前中カーテンを閉めた部屋で抱き合う青年がただずっと映されてるだけみたいな映像も思い浮かびます。2~4曲目でそれぞれ別の声が用いられているのですが、それがどれも本当に素晴らしい。特にラスト曲は心地いいリップノイズの入ったフランス語のリーディングで、左右から囁きが聞こえてきたりとASMR的工夫も見られちょっと反則的。ピアノやギターの演奏は最低限の音数で情緒を感じさせる演奏を行う感じなんですが、趣向は変えずに小さい音量の演奏からより小さい音量の演奏へと数分かけて移るのを他の音など足さず臆せず聴かせる部分が非常に印象的で、“音楽においてなだらかさや繊細さを表現するのに必要十分な時間”について深い思慮が伺える部分でした。

(参加アーティストについてそれぞれ知っているとこの部分は多分この人の音だなみたいなのが結構はっきりわかるんですが、あまりそういうの意識せず聴くほうが楽しいタイプの作品かと思うので列挙したアーティスト名に覚えのない方こそ是非聴いてみてください)

 

 

2. 田我流『Ride On Time

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ヒップホップ。名作『B級映画のように2』以来7年ぶり。本人の身近なトピックを中心としたリリックや適度に力の抜けたフロウなどナチュラルな魅力に溢れたアルバム。間違いなくこの半年で一番再生した作品。詠われるトピックがそのまま自分に当てはまるかというとそうでもないんですが、自分のすぐ近くに暮らす人の声を聴いてるような “遠いところの話じゃない” 感じだったり、「Simple Man」に象徴される肩肘張らない気楽なヴァイブスだったり、それぞれの曲に違ったテンションや意味合いで、でも何かしら馴染む感覚があってめっちゃ繰り返し聴きました。作業のちょっとしたブレイクにこれからどれかテキトーに1曲聴くみたいなこともよくやってて多分毎日何かしら聴いてたんじゃないかと。

 

 

1. Sunn O)))『Life Metal』

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ドゥーム・メタル/ヘヴィー・ドローン。歪み潰れたギターの音響と長い間合いで演奏されるリフを中心とした音楽ですが、音を観察して音を出しまたそれを観察し…という視点を強く感じさせる、一種の実験音楽のようにも響く作品でした。演奏者の音の立ち上がりや減衰に対し鋭く研ぎ澄まされ機微逃さず追いかけるような意識の連鎖と持続が、サウンドにも聴く者の意識を逆立てない深い呼吸感として反映されていて、爆音のノイズ音響でありながら聴いていると心身が整えられます。

 

 

プレイリスト