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2018上半期ベスト

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 みんな大好き(もちろん私も)上半期ベストです。今回は25枚選び順位をつけました。ストリーミングで聴く割合がグッと増えたことも関係して例年より聴いた作品数は多めな反面、(あくまで回数的な意味でですが)聴き込むといったことがあまりできなかった半期だったかもしれません。なのでリスナーとしての焦点がぼやけていたのか、盤選こそスムーズにいったものの順位でとても悩みました(書きながら何度も入れ替えました)。しかしそれ故にここで示されている順位は自分の今のモードやリスナーとしての態度を改めて考え整理し、提示するものになっています。では、どうぞ。

*画像クリックでbandcampやyoutubeなどの試聴サイトへ飛びます。あと記事の最後にSpotifyプレイリスト貼ってあるんでまずそちらの再生ボタン押してから読むのもオススメです。

 

 

25. EP-4 [fn.ψ]『Obliques』

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エクスペリメンタル・アンビエント。シンセから発せられるあらゆる種類の音が融解しオーケストラ化したようなダイナミックな仕上がり。ライブ録音。

 

 

24. Francisco Meirino & Bruno Duplant『Dedans / Dehors』

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ミュージック・コンクレート。ノイズ/コンクレート的な作風が特徴のスイスのサウンドアーティストのフランシスコ・メイリノと、フィールドレコーディングから作曲作品まで幅広い手法を用いて活動するフランスの音楽家ブルーノ・デュプランによる共作。話し声や足音など人がたてる日常的な音が多く用いられたミュージック・コンクレートとなっておりこの二者が関わった作品の中では風通しのいい仕上がりに思える。ジリジリとした高域の電子ノイズやドアベルのような音が印象的に用いられた1、2曲目が特に好み。(3曲目も基本的には同様の作風だけど出だしがやたらノイジー

 

 

23. Lucy Railton『Paradise 94』

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電子音楽/ミュージック・コンクレート。ECMの作品(彼女は本年リリースされた『Lucus』も素晴らしかったThomas Strønen Time Is A Blind Guideのメンバー)やRussell Haswellのトラックにも参加した経歴があるというチェロ奏者のデビュー作。チェロの演奏も用いられているが、それは他の環境音や電子音、ノイズなどと同列にコンクレート的な感覚で扱われている印象で、作品としては電子音楽としての趣が強い。

 

 

22. Sleep『The Sciences』

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ストーナーロック/ドゥームメタルアメリカのバンドによる約20年ぶりの新作。

 

 

21. A$AP Rocky『Testing』

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ヒップホップ。今年の上半期はヒップホップの話題作多かったけど個人的にはこれが一番だった。

 

 

20. Christian Lillingers Grund『C O R』

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抽象的でスリリングなジャズ。ドイツのドラマー/作曲家クリスチャン・リリンガーによるユニットの作品。編成は2人のサックス(及びクラリネット)奏者、ピアノ(またはフェンダーローズ)、ヴィブラフォン、2本のベース、ドラム。フリーやインプロなどでの活動も精力的に行っている面々ですが、本作では作曲と即興の縫い目を攻めるような場面が多く危うい魅力に溢れた一枚。ツインベースとローズの組み合わせとかすごいかっこいい。

 

 

19. Melaine Dalibert『Musique pour le lever du jour』

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現代音楽。フランスのピアニスト/作曲家による長尺のピアノ作品。この人は昨年Another Timbreから出したアルバム『Ressac』も素晴らしかったが、本作もそちらに収められている楽曲と傾向は近く、規則的な歩みを思わせるミニマルなリズムと、螺旋階段をイメージさせるような変化とも循環とも認識されるような音階の扱いが大きな特徴。そのうえでそこで用いられる音階がより和声的に透明度の高いものになっていて簡素な美しさが際立った内容になっている。ちなみにアートワークはDavid Sylvianによるもの。

 

 

18. MABUTA『Welcome to This World』

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南アフリカのジャズ。②などではアフリカ音楽のエッセンスをしっかり垣間見せながらも作品トータルとしてはそこだけに焦点が当てられているわけではなく、UK、USをはじめ様々な現行の様々なジャズをよく研究していることが伺える完成度の高い作品になっている。特に楽曲が展開する瞬間がかっこいい。

 

 

17. Richard Chartier『Central (for M.Vainio)』

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電子音響/ドローン。昨年他界したフィンランド電子音楽家ミカ・ヴァイニオに捧げられた作品。実験的な作風で知られるリチャード・シャルティエだが本作は彼の諸作の中ではストレートにドローン的な作風で、扁平なオシレーターのトーンやザラついたノイズの持続が心地いい。リバーブの使用が効果的。

 

 

16. morgan evans-weiler『iterations & environments』

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現代音楽。米国ボストン在住の作曲家でありヴァイオリンとエレクトロニクスの演奏家でもあるモーガンエヴァンス・ウェイラーの作品。35分ほどのヴァイオリンのための作品と20分ほどのピアノとエレクトロニクスのための作品を収録。複数本のヴァイオリンがオーバーダビングされた1曲目の擦れた持続音の連なりやその中から浮き上がってくるような倍音はHarley Gaberの作品を思わせる。

 

 

15. YoshimiO, Susie Ibarra, Robert Aiki Aubrey Rowe『Flower of Sulphur』

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プリミティブな即興演奏。BoredomsOOIOOなどの活動で知られるマルチ楽器奏者YoshimiO、ジャズや即興の分野で活動する打楽器奏者のスージー・イバーラ、モジュラーシンセと声を用いたパフォーマンスやハリー・ベルトイアの音響彫刻を用いた作品などで近年注目を集めている音楽家ロバート・アイキ・オーブリー・ロウのコラボレーション作品。

 

 

14. Pali Meursault『Stridulations』

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電子音楽実験音楽。フィールドレコーディング的な手法を用いコンセプチュアルなサウンドアート作品を多くリリースしているフランスのアーティストPali Meursaultの作品。本作は虫の鳴き声と蛍光灯チューブの音(?)を用い自然と機械の間に存在する奇妙な音の親和性を探るといったコンセプト。どのようなシステムで作られているのかわからないけど、虫の鳴き声にブチブチといったノイズや低い周波数の持続音など多様な音が行き交い非常に楽しい電子音楽として聴ける。

  

 

13. Mary Halvorson『Code Girl』

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風変わりなジャズ(?)。近年のジャズの中でもその個性的な音楽性で際だって評価されているギタリスト/作曲家のメアリー・ハルヴァーソンの作品。本作は彼女とマイケル・フォルマネク、トマ・フジワラからなるギタートリオ「Thumbscrew」にトランペッターのアンブローズ・アキンムシーレ、ヴォーカリストアミルサ・キダンビを加えた新バンド「Code Girl」としての初作品。素っ頓狂ともいえる音程の足取りがなぜかチャーミングさや奇妙なポップさを感じさせる独特なコンポジション、乾いたアコースティックライクなトーンでペコペコと紡がれる単音のラインやディレイを用いたテープの早送り巻き戻しを思わせるエフェクティブな演奏が耳を引くギタースタイルなど、これまでの作品で感じられていた彼女らしさに加え、今作ではヴォーカリストの参加とメロディアスな演奏に秀でたアンブローズ・アキンムシーレの存在により彼女の音楽が備えていた歌謡性がグッと引き出され、声が器楽的な機能を果たし歌モノとは異なるバランスの音楽が形成される場面やアブストラクトな即興の場面もポップに耳に届いてくる。

 

 

12. BES & ISSUGI『VIRIDIAN SHOOT』

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ヒップホップ。SWANKY SWIPEやSCARSでの活動でも知られるラッパーBESと16FLIP名義でビートメイクも行うラッパーISSUGIのコラボ作。NYのプロデューサーGWOP SULLIVANが多くを提供したシンプルかつツボを押さえたサンプリングビート(最近はこういうのブーンバップっていうみたい)の応酬がとにかく心地いい。

 

 

11. cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

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ポップ・ミュージック。「魚の骨 鳥の羽」とか「Waters」とか本当によく聴いた。あとインスト版がやたらかっこいい。リズム面の創意工夫(特にポリリズムの扱い)がまず耳を引くし、自分もそこに大きな魅力を感じてるのはたしかなんだけど、それだけでなく演奏の中でのちょっとしたフレージングひとつから音楽的な豊かさが溢れ出るように感じられる瞬間が多くて本当に聴いてて楽しい。インスト版だとそれがよりはっきりとわかる。

 

 

10. Rafiq Bhatia『Breaking English』

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ジャズを起点にインディーロックの分野などでも活動するギタリストによる作品。前作『Yes It Will』はヴィジェイ・アイヤー、ビリー・ハートなどが参加したエッジーなコンテンポラリージャズ作品だったが、今作はジャズ的なアドリブスペースを減らしコンポジションに焦点が当てられ、声や微分音を多く用いたストリングスなどのゲスト陣の演奏、自ら行う音響処理などのサウンドメイキングといった様々な面で響きの探求精神が発揮されたチャレンジングな内容。特にベン・フロストやティム・ヘッカーをフェイヴァリットに挙げ、大きな影響を受けたという電子的な音の扱いと器楽とのミックスのセンスが素晴らしく本年屈指の話題作となるのも納得。個人的にはUntitled Medeleyでインタビューを担当させていただいた経緯もあり特に今年特に聴き込んだ一枚。聴けば聴くほどに違った聴きどころが見つかる多面的な魅力や音楽的な深みがある作品のように思います。

 

 

9. Jan Jelinek『Zwischen』

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エクスペリメンタルな電子音楽/コラージュ。クリックハウスエレクトロニカ期の名盤『Loop-Finding-Jazz-Records』で知られるドイツの電子音楽家ヤン・イェリネックの本名義では12年ぶりとなるアルバム。英語で「between」を意味するタイトル通りジョン・ケージレディ・ガガオノ・ヨーコなどのインタビュー音声から言葉と言葉の間や言い澱みの瞬間のみを抜き出し電子音と掛け合わせたコラージュ的な内容で、仕上がりとしてはGESELLSCHAFT ZUR EMANZIPATION DES SAMPLES名義で発表していた作品に近い。1つのアイデアのみで作った小品集のような趣のアルバムだが、意味を成す直前のある種のゴーストのようなサンプルが含む吃音やブレスなどの音響的な情報の豊かさが異様なほど官能的に響いてくる、音楽的に充実した傑作となっている。

余談だが(?)彼のキャリアに関してはRAの記事が詳しいので興味のある方は是非。本作についても少し触れられています。

 

 

8. Peter Evans & Weasel Walter『Poisonous』

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アヴァンギャルドなジャズ。現代のジャズ/即興界隈で随一のトランペッターであるピーター・エヴァンスと、ハードコアの影響などが伺えるインディペンデントな活動、粗い音質へのこだわり、そして徹底的にラウドなプレイスタイルが特徴のドラム奏者ウィーゼル・ウォルターによるデュオ作。アヴァンギャルドなジャズっていう形容がここまで似合う音もなかなかないなってくらい痛快さ極まった演奏。ちょっとPeter Brotzmannの『Machine Gun』を想起したりも。こっちはたった二人での演奏なのに…。ピーター・エヴァンスは同じく今年リリースしたCory Smytheとのデュオ作『Weatherbird』も大変素晴らしくどちらを入れようか、というかどちらも入れてしまおうか、と非常に悩ましかった。

 

 

7. Leon Vynehall『Nothing Is Still』

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ラウンジ/クラブ/エクスペリメンタル。UKのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーでありDJのレオン・ヴァインホールの初のフルアルバム。ディープハウスやダウンテンポをはじめ現代的なブーミーなサウンドも織り交ぜつつ、それらをストリングスやたゆたうようなシンセで纏い、硬派なエレクトロニック・ミュージックとしてもアーバンなラウンジミュージックとしても機能するような絶妙なバランスに辿り着いている。ストーリー性のあるアルバムの流れが最高。曇り空や雨の日に聴くと本当にハマる(それこそMassive AttackProtection』並に)。いかにもUKにおけるいろいろな人種、文化的背景を持った人々が行き交う場としてのクラブから生まれてきた音という感じがするし、そういった点は現在盛り上がりを見せている若い世代のUKジャズとも通じるので(音楽的にも多少は近いフィーリングがあると思うし)、そちらのシーンをフォローしている方々にも是非聴いていただきたい一作。

 

 

6. Dan Weiss『Starebaby』

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アメリカのドラム奏者/作曲家によるメタルの影響なども取り入れたジャズ。メシュガーや初期のメタリカなどメタルのバンドが影響源として挙げられていて、リフの反復を多く用いた曲構成、ディストーションやファズの効いた歪んだ音色の多用などに反映されているが、それらはダン・ワイスの音楽が以前から持っていた変拍子インド音楽に習った周期の長いビートサイクルなどのドラマーらしいリズム面の工夫と巧みに接続、交錯されており、結果的にはプログレッシブロック的折衷感覚に基く得体の知れないミステリアスさを纏った音楽が奏でられている。こちらにレビューあります。

 

 

5. Jim O'Rourke『sleep like it's winter』

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ジム・オルーク流のアンビエント(への批評としての)作品。リリースされてからまだ数回程度しか聴けてないことと何より作品の持つ深みのためまだまだ自分の中で評価の定まっていない一枚ですが、本作の大きな魅力のひとつとしてシンセによる電子音が割合としては大いにも関わらずアコースティック楽器を思わせるような響きやダイナミクスの豊かさ(音の立ち上がりと消失の美しさ!)が感じられるという点はあると思う。そういった点含めジム・オルークの耳の良さが作品の魅力に直結しているような印象。

 

 

4. International Nothing『In Doubt We Trust』

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現代音楽。主に即興演奏の分野で活動するクラリネット奏者2人による特殊奏法などを活かした作曲作品。2つの(重音奏法なども用いているため時にはそれ以上の)音の重なりや完璧にコントロールされたうなりが美しい。

 

 

3. Mika Vainio『Lydspor One & Two (Blue TB7 Series)』

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電子音響/エクスペリメンタル。2017年に他界したフィンランドのサウンド・アーティストのミカ・ヴァイニオが2015年に遺した録音のリリース。アメリカの電子楽器メーカーMoog Musicが所有するスペースMoog Sound Lab UKで製作された音楽を限定リリースするレーベルMoog Recordings Libraryのリリース第一弾でもある。モジュラーシンセサイザーのSystem 55を用い制作されたふたつの楽曲は、紛れもなく無機質かつ時にダークなミカ・ヴァイニオのサウンドであると同時に、そこからはどこか電子音を操る喜びが滲み出ているように感じた。また制作の経緯もあってかシンセサイズ・ミュージックとしての面白みも前面に出ているように感じられ、これまで彼の音楽をそういった観点からは強く意識していなかった自分にとってはそこが大きな学びだった。

 

 

2. Okkyung Lee『Dahl-Tah-Ghi』

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ジャズや即興演奏の分野で活動するチェロ奏者によるソロ・インプロ作品。40分一本勝負。2013年6月、オスロのエマニュエル・ヴィーゲラン美術館で30人限定で行われたパフォーマンス。非常に残響の豊かな空間のためか、その音響特性を確かめるように様々な方法の発音を用いた演奏になっており、特に12分辺りからの空間に傷を残すかのような激しいボウイング、そしてそれが徐々に消失していく様や、低音弦を弓で激しく弾いたり叩いたりする場面での残響の連なりによって膨張したような響きなどが凄まじい。既発のソロ作『Ghil』などではディストーションなのかおそらく何らかのエレクトロニクスを用いたような歪んだ音色での演奏も行っていた彼女だが、ここでの演奏は完全にアコースティックなものにも関わらずそれ以上に音響的な豊かさを感じさせる。チェロやコントラバスの即興演奏については正直なところこれまで心底ヤラれた経験というのがなかったのだけど、これは自分にとって初めてそれをもたらしてくれた一作となった。おそらくこれからそういった分野の演奏を聴く際に自分にとってのひとつのリファレンスになってくるだろう。

 

 

1. Alva Noto & Ryuichi Sakamoto『Glass』

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電子音楽アンビエント。ドイツのサウンド/ヴィジュアルアーティストと日本の音楽家によるコラボレーション作品。コネチカット州にある建築家Philip Johnsonのグラスハウスでのライブ録音。シンギングボウルやクロテイルの弓弾き、そしてグラスハウスの壁を擦った音などアコースティックな要素もあるようだけど全体の印象としては(この二人の音楽家としてのイメージに引っ張られてる面も大きいだろうけど)超リッチなシンセアンビエントみたいに聴こえる(「あぁ~!シンセの音ォ~!!」)。夜中の長時間の運転の際にこれをひたすらリピートして聴いてたのが今年の音楽体験の中では最も印象的だった。坂本龍一ドキュメンタリー映画CODA』の中で昨年の『async』についてや自身の理想とするサウンドの在り方としてタルコフスキー映画のサウンドへのシンパシーを口にしていたけど、自分としては『async』よりむしろこちらにそのような趣(惑星ソラリスっぽさ)を感じた。