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Drøp『Vasundhara EP』

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いやーよかったけど物足りなかったですねーMステ、アンダーワールド、Born Slippy。

それとは関係は全然ないんですけど、最近テクノ的なのよく聴いてまして、個人的にバッチリなの見つけちゃいました。

インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノを中心にリリースしていくと思われるベルリンのレーベル“Arboretum”(同名のアート集団が立ち上げたものらしい)のカタログ1番。2014年作。

Drøpというアーティストについてはあまり情報が出てこなくて、個人のアーティスト名義なのか複数人によるユニットなのかすらわからないんですが、内容がすごく良かったのでとりあえず紹介しときます。

冒頭にも書いた通りというか、インダストリアル/エクスペリメンタルなテクノで、本作にリミックストラックを提供、収録されていて、マスタリングにも関わっているDadubや、そのDadubも作品をリリースしているLucy主宰のレーベルStroboscopic Artefacts辺りにとても近い作風。

レーベル名にもなっている“Arboretum”は樹木園という意味らしいんですが、これ私がLucyのセカンド・アルバム『Churches Schools And Guns』を聴いて抱いていたイメージそのものなんですよね。個人的に『Churches~』は今まで聴いてきたテクノのアルバムで間違いなくトップクラスに好きなアルバムだったりするので、どおりでしっくりくるわけだなーと。レーベル名だけでなくこの『Vasundhara EP』も『Churches~』にかなり近い音だと思いますし(歪んだパッドの用い方とか、IDMグリッチ的な音使いがところどころあるとか)。ダンスっていうより舞踏って感じの雰囲気ある2曲目、ノイジーな音の洪水と強いビートがかっこいい3曲目とか最高だし、Dadubのリミックスも完璧な仕上がり。

紛れもないテクノなんですけど、音響的な創意工夫が随所に感じられるので本当にたまにしかクラブに行かない(行けない)私みたいな所謂リスニング派の需要にもバッチリ対応したものになっているので、そういう皆さんも是非って感じです。

レーベルの2番のMogano『Sycomore EP』も同系統な路線のテクノで、こちらに引けを取らない素晴らしさでしたし、レーベル内の別路線?のHanami SeriesとしてリリースされているØe『Unseed』もこの人らしい良質なアンビエント作で、本当にこの“Arboretum”要チェックですね。既に今年Honzo『Melancholia EP』っていう作品がレーベルの3番として出てるみたいですけど、日本にはまだ入って来てない?しbandcampにもまだアップされてない…まぁ楽しみに待ちます。

 

 

今月のお気に入り(2016年2月)

今月よく聴いてたものです。画像が試聴ページへのリンクになっています。

 

 

・The International Nothing『The Dark Side Of Success』

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感想はこちら

 

 

・Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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感想はこちら

 

 

トルネード竜巻『アラートボックス』

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いつの間にかほとんどの曲好きになってた。

 

 

トルネード竜巻『Analogman Fill in the Blanks』

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最初と最後の曲がズルいくらいい良い。トルネード竜巻は今年に入ってからハマりまくってて『ふれるときこえ』『アラートボックス』そしてこの『Analogman Fill in the Blanks』と、それぞれ結構聴き込んでるけどどれも甲乙付けがたい素晴らしさ。これはインディーズ時代の作品らしいリラックスした雰囲気があって晴れた日に散歩しながら聴くと特に最高(いや、でも散歩しながら聴く『ふれるときこえ』も『アラートボックス』も、それはそれで最高)

 

 

・Michael Pisaro『A Wave And Waves

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・minimascape『shallows』

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神奈川のHiroshi Ishidaさんの作品。基本的にはギターメインのアンビエントなんだけど、コンセプトのおかげなのか何なのかとてもフレッシュに聴こえた。一曲目から2曲目に移り変わる瞬間とか素晴らしい。最初に聴いた時がちょうど日が射してる時間帯で、なんとなく再生したつもりがめちゃくちゃ惹きこまれてしまった。是非そういう環境で聴いてみてほしい。暖かくなったら近くの海に行って聴こう。それが楽しみ。name your price。

 

 

・Mike Moreno『Lotus』

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Kendrick Scott Oracleでの演奏が良かったので去年のリーダー作に手を伸ばしてみたんだけど、これが素晴らしかった。とにかくいい曲ばかり入ってる。すごく時間かけて校正を繰り返した曲を一音一音確かめるように弾いているようにも、なんとなく思いついたスケッチ程度のものをラフに演奏して録っただけにも聴こえるっていう、さりげないようでいてその実ここしかないような絶妙なバランスで成り立っている音楽。あと全体通してエリック・ハーランドのドラムが素晴らしい。どうやら彼は最近(といってもいつぐらいからかはわからないけど…)スタイルがクリス・デイヴ化してきてるらしく、まぁたしかにそう言われればそう聴こえるなぁって感じなんだけど、それがここでは音楽全体の中での強力なフックになってて耳を惹きまくり。それがフォークっぽいメロディーと合わさって、グルーヴ・ミュージックとしても聴けるんだけどそれほど“黒さ”を感じさせない、なかなかない聴き心地の作品になってると思います。

 

 

Basic Rhythm『Raw Trax』

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Imaginary Focesとしても活動してる人の別名義。まるでMIX CD聴いてるみたいなひと繋がりに聴ける感じがあってかなりリピートして聴いてた。しかしよくこの名前で活動しようと思ったなぁ。

 

 

・Yves De Mey『Drawn with Shadow Pens』

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感想はこちら。シンセによる演奏“行為”であることの不可逆性やそれによって生まれるヒリヒリとした緊張感、そこから時折浮かび上がってくる衝動的(パンク的)な種類のかっこよさはトーマス・アンカーシュミットと共通するなぁとも思った。つまり大好物。

 

 

・Lee Fraser『Dark Chamber』

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・Bellows『Handcut』

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Giuseppe IelasiNicola Rattiによるユニットの2nd。制作に用いられた手法はこちらに書いてある通りなんだけど、そのやり方でこんなにアンビエントっぽくなるかってくらいアンビエント的な音で、そこがめちゃくちゃ気に入った。

 

 

Inventing Masks『Inventing Masks』

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Giuseppe Ielasiがまさか別名義で自己流ヒップホップ的な音源をリリース。試聴で出てた1曲目がめちゃくちゃかっこよくて期待値爆上げになってた分、聴いてみたらやっぱ1曲目が一番かっこいいかなってところがほんの少しだけ残念ではあったんだけど、いやでも十分すぎるくらいにかっこいい。よくよく聴いてみると音使いなんかは物音ループな作風からしっかり地続きになってる部分も感じられるし、情報入った時の衝撃に惑わされず冷静になるとそこまで突然変異的な作品でもないのかなと思う。しかしこの人は本当に凄いですね。12Kでのアンビエント/ドローン的なリリースで知って以来、Senufoやらマスタリング仕事の多彩さやら今作やらと、そのセンスは常にリスナーの私から見ると2歩も3歩も先を行ってるなって感じで、こちらの感性、嗜好を思いがけない方向に引っ張ってくれるある意味理想的なアーティストと言えるかも。

 

 

Nine Inch Nails『Fragile』

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・Michael Formanek & Ensemble Kolossus『The Distance』

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感想はこちら。あらゆる面でバランスのとれた傑作だと思います。

 

 

The RH Factor『Hard Groove』

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ジャズ系の音をグルーヴ・ミュージックとして聴くってことがあまり得意ではなかったんだけど、 Mike Moreno『Lotus』を聴いてて今なら楽しめるかもと思って聴いてみたら見事にハマった。「Poetry」は反則モノの名曲。

 

 

 

Thomas Ankersmit / Jim O'Rourke『Weerzin / Oscillators And Guitars』

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このブログでは何度か取り上げている通り、2014年に知ってからハマりっぱなしの音楽家トーマス・アンカーシュミットと、説明不要なジム・オルークとのスプリット盤。マスタリングは出ましたRashad Becker。2005年、Tochnit Alephから。(よく知らないレーベルでしたが調べてみたらHeckerのライブを収めたカセットやらThe HatersのCDrやらRolf Juliusの再発LPやら出しててなかなかのヤバさ…)

“寡作のトーマス・アンカーシュミットが2005年にどういう音を出していたのか”が本作に手を伸ばした主な理由で、次作に当たる2010年の『Live In Uterecht』とは結構違うんじゃないかなんて推測しながら聴いてみたんですが、蓋を開けてみたらやってることは同じでした(なにやってるかはこちらに書いてるんで参考に)。で、それでがっかりしたかというとそうでもなくて、むしろモジュラーシンセで身体的な演奏行為を行うということをこの時点で、これだけエッジーなかたちでやってたんだって驚かされました。

後の『Live In Utrecht』や『Figueroa Terrace』と比べるとより衝動的な印象で、終盤のサックスのロングトーンの多重録音とシンセのノイズが重層的なドローンを形成する場面なんか相当にエグいものがあります。低域がカットされたような音質というか音作りも相まって結構耳に痛いキツい響きになるところもあるんですけど、それもエッジーでかっこいいって印象に転じてる感あってまったく問題じゃないですね。やっぱこの人最高です。

もう一方のジム・オルークの曲はというとタイトル通りのオシレーターとギターによるドローンなんですがこれがまた凄い。オルークのドローン作品といえば『Disengage』『Remove The Need』『みず の ない うみ』など傑作がいくつもありますが、これはそれらに比べて実験音楽というよりアヴァンロック的な佇まいが強く感じられるもので、オシレーターによるドローンの倍音比率の変化に伴ううねりと延々となり続ける数本の歪んだギター(ニュアンス的にはプリペアドだったりE-BOWだったりによってノイズや持続音を出すタイプの演奏より歪ませた状態でストロークし続けるような演奏に近いように聴こえますが、具体的にどう弾いているのかはわからない…)が重なってスケールの大きいサイケデリックで快楽的な響きが生まれてます。微細な音の変化に耳を澄ますというよりは(もちろんそういう聴き方もできますが)、その圧倒的な鳴りにただただ飲み込まれるような感覚。もしかしたらオルークの作品でこれが一番好きかも。歪んだギターの響きがそう思わせるんでしょうけどなによりロックでかっこいい。

ってことで両面ともにとにかくかっこいい音の入ったレコード。傑作です。なかなか普通に売ってるところはないと思いますがDiscogsのマーケットプレイスにはいくつも出品されてて結構安く買えます。

それとちょっとした余談ですが、私がThomas Ankersmitの存在を知った2014年の『Figueroa Terrace』発売時、この人の名前を検索しても日本語では僅かな情報しかない状況だったんですが、そんな中でShotahiramaさんの『物質的恍惚』では2013年の8月にこの盤が取り上げられてるんですよね。リスナーとしての感度も凄いなあこの人。ちなみにそのShotahiramaさんがThomas Ankersmitを知ったのはFtarriの鈴木美幸さん編集の『Improvised Music From Japan』の06年のベルリン・インタビューズ特集の号だそうで、なんだかいろいろ繋がるなぁ。あーまたFtarri行きたくなってきた。

 

youtu.be

 

 

Matt Mitchell『Vista Accumulation』

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Matt Mitchell(p), Chris Speed(ts,cl), Chris Tordini(b), Dan Weiss(ds)

 

Tim Berne's Snakeoil や、昨年の Rudresh Mahanthappa『Bird Calls』などへ参加、ここ数年のニューヨーク・シーンで存在感を着実に増してきているピアニスト、マット・ミッチェルのリーダーとしては二作目になるアルバム。2015年10月にリリース。2枚組でそれぞれに4曲が収録された全8曲、トータルタイム96分。

2013年リリースの1作目『Fiction』はドラムとのデュオで、ピアニストのデビュー作としてはなかなか珍しいんじゃないかと思われる編成でしたが、 今作はオーソドックスなワンホーンカルテット。しかしながらそこから奏でられる音楽が、やや通常とは異なったバランスや魅力を持ったもののように感じられたので、今回はそれを言葉にしてみたいと思います。

演奏は基本的には作曲されたパートで始まり即興およびソロのパートへ移り、それらを何度か行き来した後、作曲パートで終了という流れが多く、それ自体は別段風変わりなものでもないと思うんですが、一聴した印象がそうとは思えないほど複雑さというか先行きの見通せなさ、迷路にでも迷い込んだような感覚を覚えさせるものでした。

で、何度か聴いていて気付いたんですがこのアルバム中の作曲パート、サックス(およびクラリネット)とピアノの右手(高音部)、ベースとピアノの左手(低音部)がユニゾンで動いていることがとても多いんですよね。前述した通りこの人の前作はドラムとのデュオで、今作はそこにふたつ楽器を足していることになるので普通は声部を増やしたりすると思うんですが…。なのでここでのサックスとベースは声部より音色の拡張として機能している面が大きいんじゃないかと思います(そう捉えると音色に特長のあるクリス・スピード、クリス・トルディーニといった人選も非常に的を得たもののように思えてきます)。ある意味構造上はドラムとのデュオといってもいいのではないかと。聴覚上は楽器が増えることによって音色などが複雑化してるんですぐにそうは聴こえなかったりするんですが…。ただ作曲されたパートに限ればピアノ、サックス、ベースをひと塊りと捉えて、それとドラムの絡みを意識して聴いたほうが音楽の全体像がスムーズに頭に入ってくることは確かです(故にその部分では比較的自由に振る舞えるダン・ワイスのビートを変えたりズラしたりしながらのドラム演奏がとても面白いです)。ワンホーンカルテットという編成をこういう風に使うのは結構珍しいんじゃないかと思うんですがどうでしょう。

またその作曲パートの内容(という言い方でいいんでしょうか…)についても、調性感が希薄だったり、旋律の切れ目が捉えにくかったりするものが多く、そこに時折前作でよく用いられていた武骨なリフの反復が挟まれたりと複雑で、この辺りも先行きの見えなさ、迷路っぽさを感じさせる一因になってるのかなと。フリーな即興パートよりも作曲されたパートのほうが足下覚束ない感じがするくらいです。思えばアルバム1曲目、3分を超える作曲パートの後、普通ならサックスのソロとかがきそうなところでベースソロ(というよりベースとドラムのデュオ?)がくる時点で、この演奏は通常とはやや異なったバランスで成り立っていることが明示されているようにも感じられたり。作曲と即興の境がわかりにくい箇所もありますし、特に即興と行き来するかたちで現れる作曲パートに同じものが再現部として出てくることがない1,3,5曲目辺りはゴツゴツとした曲想や急に勾配が変わるような展開も合わさって方向感覚だけでなく平衡感覚までも見失いそうになる感じがします。

まぁ簡単にまとめておくと、ワンホーンカルテットというフォーマットに前作でのドラムとのデュオという編成の特異点をうまく持ち込むことで一風変わったバランスの演奏を実現した作品ってことが言えるのかなと思います。

ラストの「The Damaged Center」がそれまでと比べるとわかりやすいフリージャズ的なのはサービス精神というか、アンコール的な位置づけの演奏なのかな。

作曲パートについての話ばかりになってしまいましたが、即興のパートでも、冒頭のクリス・トルディーニのソロからそうなんですが、ずっといい緊張感が持続していて4人とも冴えまくり、それが何度も書いてるような迷路っぽさを感じさせる作曲部とそれらを時に強引に時にグラデーショナルに行き来する展開によってさらに緊張感やら音楽全体が醸し出す危険さが相乗的に高まっていって全曲通して聴いてると3曲目とか5曲目(Disc 2の1曲目)辺りで毎回「うゎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」ってなってこれはもう“マジックが起きている”とすら形容したくなるレベルです最高最高最高最高……!!!!本当にすごい“カルテット”が出てきたものだなぁ。。。できれば昨年のうちにこの凄さに気付いておきたかった…。

 

 

The International Nothing『The Dark Side Of Success』

去年の年末に買ってから全然ちゃんと聴いてなかったんだけどヤバいヤバいうわーーーーこれマジか…。

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ドイツ、ベルリンを拠点に活動するクラリネット奏者のふたり、カイ・ファガシンスキー (Kai Fagaschinski) とミヒャエル・ティーケ (Michael Thieke) のデュオ・プロジェクトInternational Nothingの三作目。2014年作。 リリースは1st, 2ndと同じくFtarriから。

即興演奏の分野でも活動する二者ですが、このプロジェクトで演奏されるのはすべて本人らによる作曲作品。

音程の動きはそれなりにあるのですが、メロディーを形成しているような場面はあまりなくて、ユニゾンで音を奏でる場面であっても、低音、高音でそれぞれの演奏ラインのすみ分けがされているような場面であっても、意識や関心は二者の音が混ざり、干渉することによって生まれる効果、響きに向けられているように思います。

ニゾンで音を発したときの干渉による音の揺れ、そこに重音奏法で倍音を重ねる場面なんかはとてもクラリネット2本による演奏とは思えないですね…。瞬間的にはクラリネット2本+サイン波オシレーター3個くらいの編成にすら聴こえます。それくらいそれぞれの響きが埋もれることなく個別に、まるで断面図を見せられているかのように耳に入ってくるんですよね。そしてそれがめちゃくちゃ美しいっていう。冒頭でうわーマジかって書いたのはこの部分に対してで、こうやって書いてるのも主にその部分に感動したから。本当に美しい響きだと思います。また、干渉や音の積み方など、周波数、倍音への配慮が感じられるだけでなく、音量の繊細なコントロールによって2者の音(混ざりあったひとつの音であったり、個別の複数の音であったり)が、左右に、時にはグラデーションの色合いが変化するように有機的に動いたり、時にはエフェクティブに飛ぶように感じられたりするのも興味深いです。

作曲から演奏まで、それを成り立たせる諸要素のコントロールに目を丸くする作品ですが、機械的ともとれるその徹底ぶりに対して、生まれている音楽は、クラリネットという楽器の持つ音色の(特に低音部での)柔らかさ と(特に高音部での)鋭さによってか、または演奏する限り不可避に入りこむことになるブレスの音によってか、簡単に有機的、無機的と判断できないような不可思議な魅力を放っているように感じます。

静かな夜なんかに集中して聴くと身じろぎひとつできなくなるくらい強力に惹きつけるものがありますよ。(反面、騒がしい環境で聴いたり、聴き流して楽しむような音楽ではないと思います)

このユニットの演奏は昨年のFtarri Festivalで観たんですけど(正にこのアルバムの曲を、1曲目を除いてフルで演奏してた)、なぜかこの人らの時だけ異様に眠くて演奏に全然集中できなかったんですよね…。なのでその時の印象はなんだかよくわからないって感じだったんですが、改めて集中して聴いてみるとこれは凄いなと。今更ながらあの時眠かったのが悔やまれる…めっちゃ惜しいことしてますね自分…。

 

 

今月のお気に入り(2016年1月)

今年も月毎にまとめていこうと思います。

 

 

トルネード竜巻『ふれるときこえ』

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感想こちらに書いてます。

 

 

・DJ MEREDITH『Burn Trax』

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bamuletさんの2015年のジューク/フットワーク5選は(普段あまり聴かないジャンルなこともあって)どの作品もとても新鮮で楽しかったんですが、一番気に入ったのはこれかな。音の質感がなんだかヒップホップ聴いてるように気分にさせてくれるところもあってかっこいい。他に挙げられていた作品では、Sun People『For Those Who Are Not As Others』とJlin『Dark Energy』も買ってよく聴いてました。特に後者は三連を多用したトラックが最初はちょっとしつこく感じたんですが慣れるにつれてクセになってきて、聴いた回数はDJ MEREDITHより多いかも。

 

 

・Matt Mitchell『Vista Accumulation』

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Merzbow, Mats Gustafsson, Balázs Pándi, Thurston Moore『Cuts of Guilt, Cuts Deeper』

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これ聴くときは伊達さんさんのこちらのレビューがクッソ素晴らしいのでお供に。

 

 

・RACHEL MUSSON + MARK SANDERS + LIAM NOBLE『TATTERDEMALION』

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・Le Berger『Music for Guitar & Patience』

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Jefre Cantu-Ledesma『A Year With 13 Moons』

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アンビエント・シューゲ。シューゲイザーの持つセンチメンタルな面もノイジーな面も薄めることなく表現できてると思うしアンビエントとしての機能性もあるしでズルい。 嫉妬の対象。

 

 

・enso56『Mare Smynthii』

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フィールドレコーディングにピッチダウンなどの加工を施して作られたモノクロームで徹底的に非ロマンチックで退廃的というか廃材的(?)なアンビエント作品。カーテン閉めた部屋で片目瞑って探し物してるような気分になったり。

 

 

・Eryck Abecassis『Ilumen』

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・Taku Sugimoto『Opposite』

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・Otto A Tottoland『Pinô』

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・John Escreet『Don't Fight The Inevitable』

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トルネード竜巻『ふれるときこえ』

2016年、最初に聴いたアルバムはこれでした。

 

 

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2009年より現在まで活動休止中のバンド、トルネード竜巻のセカンド・アルバム。このバンドには2008か2009年辺りに、スーパーカーやSCLLなどのバンドが好きでそれらに近い音楽性のバンドを探していく中で出会って、1st、2ndどちらも買って聴いていたのですが、いまいちハマれなかったんですよね…。でも昨年末にちょっとしたきっかけで聴き返してみたところすごく良くて。いろいろと思うところもあったのでなんか書いとこうかなーと。

なんか捻くれたインディーバンド然としたバンド名ですが、音楽的にはポップスと言ったほうがしっくりくる感じ。“ジャンルを超越した音楽性”というのがこのバンドを語る際には多く用いられるセンテンスらしいのですが、今作は1st『アラートボックス』に比べるとそういった作編曲における遊びが表立って印象に残る部分は少なく、さりげなく洗練されたかたちで生かされている印象です。私はそれによって普遍的なポップスとしての強度が増していると感じますが、1stやそれ以前からのファンの方には好みは分かれるところかもしれませんね。また“ポップスといったほうがしっくりくる”理由は録音の質感も大きいのかなと。その辺の事情にはあまり詳しくないですけど、Jポップとかアニソンとかの録音でよく感じるようなちょっとキツいくらいの音のクリアさとか、近くで鳴ってる感じが強いんですよね。自分は例えばスーパーカーだったら(それが理由ってわけじゃないですが)最も宅録感のあるセカンドが一番好きだったりしますし、SCLLも冷たすぎも温かすぎもしないリバービーな質感のサウンドに惹かれてた面はあったと思うので、その流れで聴いたこのバンドにもそれに近いサウンドを無意識に求めていたのが当時ハマれなかった一因なのかなとか、今になると思います。

個人的な話が長くなってしまいましたね…。音楽の中身にも触れときたいと思います。やっぱ一番印象に残るのはボーカルの声、歌い方かな。平易な言葉で書かれた歌詞を丁寧に歌うは様はなんか“うたのおねえさん”っぽいというか、誤魔化しがないんですよね、歌に。作曲はキーボードの方がほとんどらしいですが、自分が作曲者の立場だったらこれほどメロディーを一音一音クッキリ歌われるのはちょっと恐いと思う…。アレンジの面は凝ってるのかもしれないけど、核となるメロディーの提示の仕方に関しては裸で仁王立ちじゃないですけど、真っすぐブレずにこちらを見つめてくる。話がまた2008年辺りに戻っちゃいますけど、当時の自分はこの歌い方も多分ダメだったんだろうな…。ナカコーにしろSCLLの大坪さんにしろ、そのメロディーラインの誤魔化し方というか、歌い方による味付け方は特徴的だし。その辺りのバンドの音や声が醸し出す“曖昧”さみたいなものとは、このトルネード竜巻の音楽はちょっと距離があるように思います。自分の好みがその頃と大きく変わったとも思わないんですが、当時それなりに聴き込んでもピンとこなかったのが今は大丈夫になったのはタイミングがよかったからなのかなんなのか…理由はわからないですけど音楽ってこういうこと起こるから不思議ですね。

あとこのアルバムは12曲入りなんですけど、前半(1~6曲目)と後半(7~12曲目)で結構雰囲気が違ってて、特に前半が素晴らしい。後半の曲群は遊び心を感じさせる曲調の飛躍(7曲目)だったり、ゆるい世界観の歌詞(8曲目)だったり、シングル曲(『アラートボックス』収録の「恋にことば」や本作収録の「パークサイドは夢の中」)などで顕著なイチニノサンで飛び込むような(NHK亀田音楽専門学校』で“サビ前のジャンプ台”と形容されていたような)王道ポップスなサビへの導入など、これまでの彼らを特徴付けてきた要素が多く出てきますけど、前半はそれらより“新しい魅力”と言っていいかはわからないですけど、違う面が印象強くて、それは何かっていうと“リピテーション”ですね。前半の曲の中で唯一のシングル曲「言葉のすきま」や3曲目「サンデイ」のリフレインの先に見えてくるような、螺旋階段をグルグルと上って行き着くようなサビへの到りかたは、先述したようなイチニノサンで飛び込むようなものとは違ってますね。4曲目「君の家まで9キロメートル」と6曲目「あなたのこと」はほとんど淡々としたメロディーの繰り返しのみで成り立っているような曲ですし、そんな進行感に乏しい曲調の中で「リアルなんてのはこんなもんさ」と歌われる4曲目なんか間違いなくハイライトでしょう。6曲目も淡々とした曲調ゆえにか、間奏のギター(ただジャーンとコード鳴らした後にアルペジオ弾いてるだけ)が異様にかっこよく響きます。

こういった“反復”を中心に組み立てられた、流れていくようなポップミュージックって個人的にめちゃくちゃ好きなところでもありますし、これまでの彼らがその音楽的な飛躍やそれを可能にする運動神経など、いわばコーダルな面で評価を受けてきたとするなら、今作はその場にたたずんで語るようなモーダルな面、その魅力がそれをパワーバランス的に上回っている作品と言えるんじゃないかと。歌詞の面でも前半の曲はちょっと息苦しいくらいのトーンで人を思う際の心象風景を描いたものが多くて、この感じで最後まで通してたらもっと凄いことになってたんじゃないかとか思ってしまいますね。まぁそれだと重いアルバムになってた可能性もありますけど。